Gentle Forest Jazz Band|ビッグバンドの醍醐味を届けるために

1950年代のレコーディング手法を現代に

──GFJBにとって5枚目のアルバムとなる「GENTLEMAN's BAG」についても話を聞かせてください。かなり本格的な録音でレコーディングをしたと伺いまして、久保田さんの本気度が出た“ビッグバンドアルバム”だと感じました。

ジェントル久保田

今回のアルバムでは、僕が追い求めてきたサウンドを実現したかったんです。これまでのアルバムでは、僕らのライブの楽しさがCDでどこまで伝えられているのか、まだ腑に落ちないところがあったんです。もっとライブの面白さを音でみんなに伝えられないかずっと考えてきたけど、その答えが見つかっていなかった。僕の中でお手本とする音源にカウント・ベイシーの「Chairman Of The Board」というアルバムがあるんですが、その音源はスタジオ録音のCDなのにベイシー楽団のライブの熱さがそのまま音源に収められているんですよね。ライブの熱さ、バンドの熱さ、管のすごさ、ソロのすごさ、全部が出てる。みんなの音がバーン!と外に出てくるみたいな迫力があって、この音で録れたらGFJBの熱さも楽しさも伝わるはずだ、と。だけど、そのやり方がずっとわからなかった。「GFJB」(2018年1月発売のアルバム)からエンジニアリングは葛西(敏彦)さんにお願いしているんですが、そのときも「こういう音でやりたい」と伝えて、ベイシーのアルバムをCDで聴いてもらったんです。

──葛西さんはたくさんのアイデアを持っているエンジニアですし、実際に音の印象も変わったのでは?

そうですね。「GFJB」では葛西さんがいろんな知識を盛り込んでくれて、マイクを1本立てて、楽器をブースで分けないで、みんなで一発で録るやり方を試してみたんです。だけど、それでも本当に求めているところまではいかなかった。やっぱり録り方に大きな違いがあるように感じたんです。あの時代の音の抜けのよさ、パリッとした感じ、バーンとくる感じがなかったんですよ。それで今回は葛西さんに、「Chairman Of The Board」のオリジナルレコードを聴いてもらったんです。それを一緒に聴いたら、葛西さんが「自分にできることはもうやり尽くしたから、専門家に聞いてみる」と。その問い合わせを受けた音楽評論家の高橋健太郎さんが長文のメールを返してくださったんです。当時のモノラル録音について、フランク・シナトラの録音でのマイクとの距離はこうだった、マイクはリボンマイクだった、とか。とりあえずはそれを真似ることから始めました。テープで録って、その場でモノラルにミックスして。さらに当時使われていたFAIRCHILDのコンプレッサーを通してみたら、すごくカッコいい音になった。

──理想の音に到達するには、そこまでこだわらないとダメだった、と。

そうなんです。すべてを1950年代に戻して、そこから今だったら何ができるかという考え方をしてレコーディングしました。モノラル録音にした経緯については、葛西さんに「ステレオにする? モノラルにする?」と言われるまで、僕は考えたこともなかったんです。それでベイシーのレコードもステレオとモノラルで聴き比べたら、やっぱりビッグバンドのバーン!という感じは、モノラルの音だった。ビッグバンドをモノラルでちゃんと録音すると、バンドの音の奥行きや迫力がすごく出る。この迫力とこの肉肉しさを表現するために、僕らのアルバムもモノラルにする必要があったんです。

──ビッグバンドに対するイメージに「ソロがたくさんあって曲が長いんでしょ?」というものがあると思うんですが、今作の収録曲はもちろん、GFJBの曲はどれも簡潔ですよね。

そう(笑)。そこはやっぱりダンスミュージックとしての意識が強いですね。ビッグバンドの1曲を皆さんが楽しく聴ける時間って、3分半ぐらいだと思うんですよ。それ以上の長さはあくまでジャズ好きのための時間。僕らはいろんな人にダンスミュージックとして楽しんでもらいたいから、ダンスミュージック的な要素を残したいと思ってます。

ラップとのコラボも

──いろいろ多忙な久保田さんですが、GFJBこそが自分のホームという感覚はありますか?

最近はそうですね。メンバーもただ集まってくれるんじゃなく、自分からいろんなことをやってくれるようになってきたんです。SNS担当とか、みんなの予定をまとめてリハのスケジュールを管理してくれる人とか、アレンジャーもバンドの中に3、4人いる。みんながGFJBのために時間を割いてくれているから、僕もすごく力が入る。特に今はバンドの結束力がめちゃくちゃ高いです。

──今回ついに久保田さんの理想の音像がアルバムで再現できたわけですが、GFJBとしての次なる野望はありますか?

ニカさん(二階堂和美)とやったような歌とのコラボもやりたいですし(参照:二階堂和美 with GFJBがアルバム発表、東京キネマ倶楽部ライブ映像も)、ラップともコラボしたいですね。僕らもブラックミュージックが大好きだし、ハーレムで始まったブラックミュージックのカッコよさの現在形がどういうのなのか、常に興味があるんです。ラップの人たちもハーレム文化に言及していて、年代やジャンルが違ってもみんな同じようなことを言ってるんですよ。彼らともきっと分かり合えて、何か面白いことを一緒にできそうだと感じているので、これまで見たことのないようなコラボにこれからは挑戦していきたいですね。