ナタリー PowerPush - Getting Better
片平実が語るロック系パーティの「今」と「これから」
DJの片平実が主宰するDJパーティ「Getting Better」が今年で15周年を迎えることを記念して、ミックスCD「Getting Better 15th Anniversary presents Getting Roll ~Rock Anthem Mix~」がリリースされた。本作には、片平が出演するフェスやイベントで人気を集める31組の名曲を収録。モーモールルギャバン、a flood of circle、N'夙川BOYSといった若手から、くるり、the pillows、GRAPEVINE、Dragon Ashといった実力派までバラエティに富んだアーティストが並ぶ。
リリースに際し、ナタリーでは片平実にインタビューを実施。ミックスCD「Getting Roll」についてはもちろんのこと、「Getting Better」を始めたきっかけや15年間の道のり、さらには増加傾向にある邦楽ロック系イベントやDJについて、率直に語ってもらった。
取材・文/西廣智一
「Getting Better」でパーティの楽しみ方を追求
──イベント「Getting Better」は今年で15周年を迎えましたが、そもそもどういうきっかけで始めようと思ったんですか?
15年前は埼玉のクラブでやってた「GUITAR HEAVEN」っていうイベントによく遊びに行ってたんです。僕はその頃からUKロックが好きで、THE SMITHSやTHE LA'Sをそのイベントで初めて知ったのかな。自分だけが知ってると思ってた音楽をいろんな人が楽しんでる環境がすごくいいなと思って、ちょっと自分もやってみようかなって思ったのがきっかけです。
──確かにクラブって踊ったり大音量で好きな音楽を楽しんだりするだけじゃなくて、それを大勢で共有する楽しみもありますし。
そうですね。でも、当時の僕は1人でイベントに行って、ほかのお客さんが騒いでるのを見てうらやましいなって思うほうだったんです。友達と一緒に騒ぎたいっていう願望はあるんですけど、今でも群れるのは苦手なので、「Getting Better」でもDJブースからお客さんを見ているとすごく楽しそうだなって思う反面、仲間はずれになってる感覚もあって(笑)。
──でも、そんなイベントが15年も続いて、都内だけじゃなくていろんな場所でも開催されてるっていうのは単純にすごいことですよね。
正直こんなに続くと思ってなかったですし。最初は「とりあえず1回だけやってみようか、これが終わったらもういいや」って感じだったんですよ。
──じゃあ、やってみたら意外と楽しくて2回、3回と続いていったということですか?
もちろん楽しかったというのもあるんですけど、1回やってみたら「次はこうやったらもっと良くなるんじゃないか」って考えて。そこからクラブイベント、パーティっていうものの楽しみ方をもっと追求するようになったんです。
一緒に楽しむ上では邦楽も洋楽も関係ない
──15年の歴史を振り返ったとき、やはり2001年から「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」にレジデントDJとして参加するようになったのは、すごく大きいと思うんですけど。JAPAN FES参加以前、参加以後で「Getting Better」自体に変化はありましたか?
どうですかね。最初に出た頃はそんなに大きな変化はなかったですよ。夏フェスのレジデントDJっていうのはすごく大きいものなんですけど、あくまでメインは「Getting Better」だし。
──JAPAN FESでのDJブースの盛り上がりと並行して、邦楽ロック主体のDJイベントも増え始めましたよね。
今では洋楽のシェアも減ってきてるし、ロックシーンの移り変わりというかシーンの問題もたぶんあると思います。僕自身に関して言えば、親しいバンドが身近にいるし、自然と邦楽ロックをかける割合が増えていった感じです。でも、実はそこまで深くは考えてないんですよ。OASISが好きだからかけるように、そのバンドが好きで、その音楽が好きだからかけたいっていう。一緒に楽しみたいっていう感覚においては、邦楽も洋楽も関係ないですし。
「Getting Roll」はCDの中でひと晩過ごす流れ
──では「Getting Roll」の話題に移りましょう。2009年に発売された「ROCK THE MIX」から2年半経ちましたが、今回新たにミックスCDを作るときにこういう内容にしようというアイデアはありましたか?
CDの容量いっぱいにいろんな音楽を凝縮した、「Getting Better」への入り口みたいな作品になればいいなとは思いました。例えばワンコーラスで切った曲があったとして、その曲を良いと思ったらCDを買いに行ってほしいし、「Getting Better」に来てほしいし。「Getting Better」ではフルコーラスでかけるんで、そこにつながったらいいなっていうのはありますね。
──CDを聴いてると、この曲の後にこの曲が来るから楽しいとか、この流れだから踊りたくなるとか、そういうところをかなり意識してるように感じられました。
そこはもう、ないと逆に無理かなっていうか。例えばBPMだけ合ってれば何でもつなげていいっていうのは嫌なので、そこだけはこだわりを持ってやってます。
──選曲もかなりこだわりを感じさせる流れですね。
踊れるゾーンとか、メロディックパンクゾーンとか、ロックンロールゾーンとか、いろいろ聴きどころはありますね。例えば、THE BAWDIESからSCOOBIE DOにいくファンクな流れみたいなフックって大事だと思うんですよ。そういうところからどんどん組み立てていって。全体のストーリーとしても、始まりをイメージさせるサカナクションの「セントレイ」からスタートして、SPECIAL OTHERS「Good morning」で終わる。CDの中で夜から朝まで、ひと晩過ごす流れなんです。
──ああ、なるほど!
で、「Good morning」の前はTHE ZOOT16の「Red Motelの朝」で(笑)。実はそういう仕掛けもいろいろ入ってるんです。曲タイトルだけじゃなくて、歌詞の部分でもこだわりがあって、10-FEETの「under the umber shine」もすごく良い歌詞だから入れたかったし。
DJは音楽の表現方法のひとつ
──「Getting Better」では洋邦問わずの選曲ですが、DJをする際には普段から歌詞を意識してるんですか?
僕はそうですね。DJっていうのは音楽の表現方法のひとつだと思ってるので。今は邦楽をかけるDJの数も増えてますけど、それぞれの個性や表現方法が違うから、同じ曲をかけたとしても人によってまるっきり違って聴こえたりするんです。僕は僕なりの表現をしてるっていう感覚が自分の中にあるから、ほかとは違う個性が出てると信じてます。
──同じ曲を軸にしても、その前後に入る曲が変わればそれぞれの個性が出ますし。
そうですね。だから、普段は口にしないけど、実は自分が言いたいことをこの曲に託してっていうのはDJをするたびありますよ。
──ただ盛り上がる曲だけを延々つないでいくというわけではないと。
よく勘違いされますけど、その曲が好きだからかけているわけで、ただ盛り上がればいいっていうわけじゃないんです。
CD収録曲
- セントレイ
- ワンダーフォーゲル
- 虹
- センチメント・エキスプレス
- リライト
- Discommunication
- CANのジャケットのモンスターみたいのが現れて世界壊しちゃえばいい
- ユキちゃんの遺伝子
- Monkey Discooooooo
- avenger strikes back
- tokyo2pm36floor
- 走れエロス
- NEVER ENDING STORY
- Summer Frequence
- under the umber shine
- AMBITIOUS
- BANKROBBER
- Human License -carnival mix-
- バクチ・ダンサー
- Party People
- ACTION!!!!
- テキーラ!テキーラ!
- ROCK MUSIC
- RUSH
- FLY
- 物語はちと?不安定
- HOT DOG
- Funk-a-lismo!
- PAPA'S GOT A BRAND NEW PIGBAG
- Red Motelの朝
- Good morning
CD収録曲
- ブラックバード
- 博士の異常な愛情
- 泥水のメロディー
- シーガル
- Miss X DAY
- Ghost
- ロシナンテ
- エレクトリック ストーン
- Buffalo Dance
- Quiz Show
- Human License
- Sweet Home Battle Field
- Chameleon Baby
- Blood Red Shoes
- Hide & Seek Blues
- 水の泡
- ノック
Getting Better
片平実の主宰によるDJパーティ。1996年2月に東京・下北沢CLUB Queで、月イチレギュラーのオールナイトイベントとして始まる。邦楽/洋楽問わず、最新のロックを核とした幅広い選曲が魅力。その交流の広さから、「Getting Better」をリスペクトするアーティストも多く、ゲストDJとしてイベントに参加する機会も多々ある。2006年からは大阪・梅田Shangri-Laにて隔月定期開催スタート。札幌から福岡までまわる全国ツアーも不定期で行われており、活動の幅をさらに広げている。