ソニー・ミュージックエンタテインメントによるアイドルの“歌力”をフィーチャーした新プロジェクト「月刊偶像」(ゲッカンアイドル)が始動した。本プロジェクトでは、さまざまなアイドル、ジャンルレスなミュージシャン、クリエイターによるコラボ作品が毎月リリースされていく。
第1弾作品にはヤママチミキ(GANG PARADE)、真部脩一(集団行動、進行方向別通行区分、Vampillia)、イラストレーター・nowriが参加。「遊園 me feat. ヤママチミキ(GANG PARADE)」がリリースされ、「月刊偶像」のYouTube公式チャンネルではミュージックビデオが公開となった。
音楽ナタリーでは「月刊偶像」の“創刊”を記念して、ヤママチミキ、真部脩一、そして本プロジェクトの発起人である屋代陽平氏(ソニー・ミュージックエンタテインメント)を直撃。「月刊偶像」立ち上げの経緯といったプロジェクトの背景に迫りつつ、第1弾アーティストとして選ばれたヤママチと真部の率直な思い、「遊園 me」の仕上がりについて話を聞いた。
取材・文 / 西廣智一撮影 / 塚原孝顕
月刊偶像の構想「アイドルカルチャーに新たな切り口を」
──まず月刊偶像というプロジェクトはどういった経緯で立ち上がったものなんでしょうか。
屋代陽平 日本が誇るアイドルというカルチャーにはいろんな魅力があると常日頃から思っているんですが、ストリーミングチャートや楽曲がフィーチャーされるような局面において、国内のアイドル楽曲はほかのジャンルやアーティストと比べてなかなか脚光を浴びづらいなと思うことが特に多かったんです。こんなに面白いカルチャーなんだから、そこに音楽という側面からスポットを当てて、外の人にも注目してもらえる企画をやりたいなと思ったのが発端です。
──特に日本において、アイドルシーンではパッケージ文化が強く根付いていることもあって、ストリーミングで苦戦している印象があります。
屋代 フィジカルチャートでは強いけど、ストリーミングでは弱いから発売翌週にはチャートから消えるといったこともありますね。それはそれで別に悪いことではないんだけど、ネガティブな捉えられ方をされることも多いので。僕がアイドルというわけではないですけど、やっぱり悔しいという気持ちもあって、どうにかならないものかなと思っていました。
──月刊偶像が所属するソニー・ミュージックエンタテインメントには、似たような取り組みをしているMAISONdes(メゾン・デ)という存在があるので、月刊偶像はそのアイドル版という見方もできるかと思います。
屋代 そうですね。MAISONdesをやっているスタッフとも距離は近いですし、インターネットカルチャーに根差したボーカルとコンポーザーの組み合わせにイラストレーターという掛け合わせが新しいなと思っていて。そういう構造的な面白さや汎用性の高さを参考にする一方で、月刊偶像に関しては現役で活動されているアイドルグループの方とご一緒するということ、音楽的なジャンルにはこだわらないということ、イラストやムービーのクリエイターさんは毎回別の方とご一緒するということを、自分の中でのルールにしています。
ヤママチミキ×真部脩一コラボに至った理由
──その企画の第1弾には、どういったイメージを持って臨みましたか?
屋代 何よりもアイドルご本人とそのファンの方々が喜んでくれる企画にしないと継続性がないし、そのほかのアイドルの方から見て「自分もやりたいな」とならないだろうなと思っていたので、まずは可能な限り、そう思っていただけるようなグループのメンバーにお願いしたいという発想から始まって。その結果たどり着いたのが、GANG PARADEのヤママチミキさんでした。楽曲制作に関しては、ご縁があって真部脩一さんとつながることができて。真部さんが関わってきたバンドや直近で手がけられている楽曲を通して、すごくキャッチーで中毒性があって、今の時代感を伴いつつも全年齢に刺さるサウンドを作られている方だなという印象がありました。さらに女性ボーカルものを多く手がけられていて、アイドルという音楽的なカルチャーに対しての接続点みたいなものも持っている印象でしたので、そのあたりをざっくばらんに相談して楽曲を作っていただきました。
──真部さんはこのお話をいただいたとき、どういう印象を受けましたか?
真部脩一 基本的にアイドルカルチャーにおいては素材が重要になってくるので、クリエイターが前面に出てコラボするという形は珍しいことですよね。なのでお話をいただいたときはうれしいと思う反面、プレッシャーもありました。
──ヤママチさんは普段アイドルグループで活動しているわけですが、こういう形でのコラボレーションは珍しいですよね。
ヤママチミキ そうですね、初めてのことです。私はGANG PARADEという、BiSHなどを輩出した音楽事務所WACKに所属する13人組アイドルグループに最も長く所属しているメンバーで、今年で9年目になります。グループとしては改名があったりメンバー編成もいろいろ変わったりしたんですけど、その中でも「GANG PARADEとはこういうグループなんだよ」ということを常に提示しながら、メンバーと一緒にがんばって活動してきて。2024年は約5年ぶりに日比谷野音でワンマンライブを行ったり、音楽フェスに出させてもらえたりするようになってきたりと、いろいろと大きなステージに立たせていただくことができるようになってきたところです。
──GANG PARADEとしてほかのグループには負けない強みは、どういったところですか?
ヤママチ 13人のキャラクターが強いところと、やっぱり大人数でしか見せられないライブパフォーマンスかな。自分たちより多い人数のグループさんもいらっしゃいますが、実際の人数よりも“圧が強いグループ”だと自負しているので(笑)、ライブでの迫力はすごくあるのかなと思います。
──グループにおけるヤママチさんの役割は?
ヤママチ 縁の下の力持ちタイプだと個人的に思っています。正直、自分が前に出たいとはあまり思わなくて、それよりは「ここでは絶対にこの子が前に出たほうがいい」と思うようなことが多くて、その子をうまく引き立てさせられるようにするのが自分の役割かなと思っています。あと、歌のクセがどうしても強いので、そういうところでグループのアクセントの1つになったらいいなと思いながらやっています。
──特にここ数年は、グループ的にもいろいろ激動の期間でした。
ヤママチ グループの分裂があったり、分裂したと思ったらまた合体したり、メンバー編成が変わるたびにどうしたら今のGANG PARADEが一番と思ってもらえるかを、みんなで前向きに考えながらやってきました。
──そんな中で月刊偶像への参加オファーがあったわけですね。
ヤママチ 私がデビューした当初から屋代さんが応援してくださっていて。いろいろ現場にも遊びに来てくれていて、特典会にも参加してくれていた中で、私が毎回「仕事くれ!」と言い続けた結果かなと思っています(笑)。なので、今回こうしてこんな素敵な楽曲を歌わせていただいたり、MVまで作っていただいたりという豪華な企画に参加させていただけたのは、すべては9年前に出会ってくれた屋代さんのおかげかなと思います。
──これまで「ソロで歌ってみたい」という願望はありましたか?
ヤママチ 自分がアイドルになって人前でパフォーマンスするようになってから、「歌で思いを届けることってすごく大変なことだけど、届いたことがわかった瞬間ってこんなにうれしいんだ」と思ったことがあって。それからはより歌うことが好きになって、いつか自分の声だけでまるまる1曲、自分の思いを届けられるようなものをお客さんに提示できたらいいなって、ずっと思っていました。
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刹那的な存在=アイドル