3回戦は名勝負ラッシュ
泰斗 a.k.a. 裂固審査員が「さすが準決勝だけあって、レベルめっちゃ高い」と舌を巻いた通り、両者ともに相手の言葉を細かく拾いながら隙あらば韻を踏み、しかしテクニック偏重にはならない熱のこもったディスの応酬を繰り広げた。その中で彼岸の「日頃バイトでヤマト運輸でハスラーやってるわ」や、$OLLYの「ダセエやつ仕入れる葉っぱ / 公開処刑やフィメールラッパー」のようなキャッチーなラインも飛び出し、ほぼ互角に思えた戦いは1票差で$OLLYに軍配。決勝進出を決めた$OLLYが微笑を浮かべながら手を差し出すと彼岸も笑顔でこれに応え、互いの健闘をたたえ合うフィストバンプが交わされた。
事実上の決勝戦と言っても過言ではないほどの好カードが準決勝で実現。先攻のL.B.R.Lは「第1回から第4回まで俺じゃないやつがつなげてきた物語 俺が今日終わらす」と大会初出場ならではの立ち位置を利用した勝利宣言で口火を切ると、Chanceも負けじと「行き先は三途の川」とスタッカートを多用したリズミカルなフロウで応戦する。
そして、これを皮切りにバトルは壮絶なフロウ合戦にシフトチェンジ。そのうえで両者ともにクリティカルなワードも巧みに忍ばせていく高度な戦いが行われ、FORK審査員が「今日の中で一番レベルの高い試合。もう1回やったら結果は変わると思う」と複雑な心境を明かすほどの甲乙つけがたい名勝負に。結果はL.B.R.Lの勝ち抜けとなり、熱戦を終えた2人は満面の笑みを浮かべて互いの手を握りあった。
本対戦には、この日唯一となる3連系のビートが使用された。この変則的なビートに対し、メロディックなフロウを得意とするサバンナの鯖は水を得た魚のようにのらりくらりと自由な旋律を紡いでいく。対する楓は、それとは対照的にカッチリとビートにハメていくフリースタイルバトラーとしての基礎体力の高さを見せつけながら、バトル引退宣言を平然と覆して大会を引っかき回す相手の態度に言及し「お前が嘘つきなことに1つも変わりはねえんだ」と一刀両断。「サバンナの鯖も三枚下ろし」などと痛烈なディスを刺していく正統派の戦い方で対抗した。Fuma no KTR審査員はこの対戦を“攻撃力対アーティスト性の戦い”だと評し、「どっちに手を挙げるかの違いでしかない」と、ベクトルが違うだけで2人の力量に大きな差はないと力説。結果的には“攻撃力”のほうが多くの支持を集め、楓の決勝進出が決まった。
4代目チャンピオン決定
いよいよ大会も大詰め。残すは決勝戦のみとなった。冒頭で述べた通り、決勝は各ブロックの覇者3名による巴戦方式で行われる。$OLLY、L.B.R.L、楓によるくじ引きの結果、最初にL.B.R.Lと楓が、次いでその勝者が$OLLYと対戦することに。以降は同じ要領で対戦を繰り返していき、誰かが2連勝を達成した時点で優勝が決まる。逆に言えば、連勝が起こらない限り理論上は永久に対戦が続くことになるルールだ。
まず先攻のL.B.R.Lが「自分からディスなんて吐いてねえ」「誰かを下げることをしてラップをしたいわけじゃねえ」とスタンス表明のテーマを仕掛けると、楓は「いつまできれい事を並べるつもりだ」と返し、第2回大会の結果を踏まえて「2度も決勝で負けるなんてうんざりだよ」と貪欲に勝ちに行く姿勢を見せる。これを受けて「一生人ばっかディスってっから決勝で負けんじゃねえの?」とのアンサーで切りつけたL.B.R.Lは、さらに「こういう真剣な目だよ」を契機に「俺は信玄武田か上杉謙信くらいブレずに前進してるぜ」とふんだんに韻を盛り込んでフロアの喝采を呼んだ。この武将シリーズを受けて楓も「織田信長」をリリックに混ぜ込むなど対抗したが、審査員の票はL.B.R.Lに傾く結果となった。
続く決勝第2試合では、先攻後攻を決めるコイントスで決定権を得た$OLLYが比較的不利とされる先攻を選び強気の姿勢を見せる。そして「俺は100万円以上の価値をこの大会で築きに来たぜ」と勝利宣言で火蓋を切ると、L.B.R.Lは「上げるギア / 勝てる試合」「どこで踏んだかわかるかな?」と挑発。さらに$OLLYが「だからリリックも書けてんだよ / お前は人間性に欠けてんだよ」と返すなど、盛大なライム合戦の様相に。その後L.B.R.Lが「俺の勝ちなんて俺が一番思ってねえからよ」と意外な1行で空気を変えると、すかさず$OLLYが「下からじゃなくて上から来いやL.B.R.L」と促すも、返す刀の「上から行かねえよ なんで行く必要がある 対等だからこそ面白えんだろ」という説得力で勝負あり。L.B.R.Lが見事2連勝を達成し、本大会の優勝を決めた。この巴戦システムが導入された前回大会と同様、決勝戦は3試合目以降を迎えることなくストレートで決着。思わずFORK審査員から「もつれるところも見たい」との言葉が漏れる結果となった。
4代目チャンピオンとなったL.B.R.Lは「実感が湧かない」と率直な思いを語り、「Chanceくんと戦うまで調子がよくなかった。Chanceくんとめっちゃ楽しいバトルができて、そこでやっと気持ちが入って。決勝ではめちゃくちゃカッコいい2人とバトルできてよかった」とライバルたちをたたえる。惜しくも敗れた楓と$OLLYは、複雑な表情を浮かべながらも「悔しいけど、勝ったのがL.B.R.Lくんでよかった」と賛辞を惜しまない。会場が彼らの熱闘をねぎらう温かな拍手に包まれる中、大会はさわやかに幕を下ろした。
終演後には「第5回激闘!ラップ甲子園」の開催決定も発表され、それに伴い全国6カ所で地方大会が行われ、各地方優勝者には第5回決勝大会の出場権が与えられることも伝えられた。今大会と同じく、次回決勝大会の優勝賞金は100万円だ。若きラップアーティストたちのプライドをかけた熱い戦いは、まだまだ終わらない。