10代最強ラッパーを決めるフリースタイルMCバトル「激闘!ラップ甲子園」の第4回決勝大会が、8月18日に神奈川・CLUB CITTA'にて開催された。盛夏の川崎に日本全国から若きラップアーティスト24名が集結。頂点の座と賞金100万円を競い、白熱のバトルが繰り広げられた。音楽ナタリーでは今回もこの決勝大会の詳しい様子をレポートする。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / Kenji Kitazato、清水ケンシロウ
開催を重ね固まってきた大会レギュレーション
決勝大会のルールは前回大会(参照:「第3回 激闘!ラップ甲子園」決勝大会レポート)とほぼ同様だ。参加資格は「2024年3月31日時点で19歳以下であること」。事前に全国5カ所(北海道、関東、東海、関西、九州)で行われたオーディション、東日本と西日本の2地区で行われた特別追加オーディションをそれぞれ勝ち抜いた計23名に、決勝大会当日に行われたワイルドカードマッチを勝ち抜いた1名を加えた、総勢24名が争う。まず8名ずつの3ブロックに分かれてトーナメント戦を行い、各ブロックを勝ち抜いた3名が決勝戦へ進出。決勝は対戦相手を入れ替えながらの巴戦方式で行われ、最初に2連勝した者の優勝となる。
各対戦は、1on1による8小節×3ターンのフリースタイルバトル。勝敗は、ラップスキルやリリックの内容などが5名の審査員によって総合的に判断され決定する。各審査員は対戦ごとに優勢と判断したほうの札を上げ、より多く票を集めたほうの勝利となるシステムだが、今大会よりドロー判定の制度が撤廃に。甲乙つけがたい対戦であっても必ずどちらかの札を上げなければならないルールに変更されたため、引き分けによる延長戦は発生しないこととなった。なお、今回の審査員はFORK(ICE BAHN)、呂布カルマ、Authority、泰斗 a.k.a. 裂固、Fuma no KTRが務めた。
優勝者にはトロフィーに相当するゴールドディスクのほか、副賞として賞金100万円をはじめ数々の豪華賞品が贈呈される。前回大会までは存在しなかった“賞金”の要素が加わったことで、大会に「10代にしてラップでビッグマネーをつかむ」という意味合いも上乗せされた形だ。
群雄割拠の1回戦
決勝大会に先立ち、オープニングアクトとして楓、奴居いちぢく、Sirogarasがそれぞれライブパフォーマンスを披露。さらに大会のオーディション審査に参加した小学生ラッパー2名がエキシビションマッチを行い、そのパフォーマンススキルの高さで審査員やMC陣、観客らの度肝を抜いた。
ラップ文化が着実に若年層まで浸透していることを会場中が実感したのち、メインイベントたる決勝大会の出場選手がステージに呼び込まれる。24名のうち実に16名が決勝大会初出場となるフレッシュな顔ぶれが出そろい、いよいよ戦いの幕が切って落とされた。
TIGERブロックの1回戦は上記のような結果となった。前回大会セミファイナリストのBIG POSIONは、初出場の牙 a.k.a. ANTMOTHを相手に実力差以上の点差を付けられよもやの敗戦。過去大会ではリケジョJKラッパーとして鳴らし、今春より慶應義塾大学に通うJDラッパーとなった彼岸は、“毒舌インテリメガネ”の異名を持つA_I_Tとのインテリ対決を制して悲願の決勝大会初白星を挙げた。旭川からの刺客・swa9_cherryは強すぎる地元愛が仇となって「地元を紹介しに来た人みたいになっちゃってた(笑)」とFuma no KTR審査員に評され、14歳の新星・エスカに苦杯を喫する。野球のグローブをマイクに持ち替えて立身を期する$OLLYは、若き大阪ラッパー・TAPPERを僅差で下して2回戦進出を決めた。
Chanceを除く全員が決勝大会初出場となるDRAGONブロック。年齢制限により無冠のまま大会卒業を余儀なくされたSirogarasの思いを受け継ぐ大阪の雄・L.B.R.Lは、“持たざる者”のレペゼンを志向するR.Eの情熱を卓越した技術力でねじ伏せる。バイブスで突っ走る奈良の狂犬・asoは、圧倒的な言葉数を飄々と畳みかけるdracovalenとのスタイルウォーズに快勝。大会史上最年少となる12歳の剣多は、15歳のEitikiとの中学生対決に挑むも一歩及ばず。ChanceとGL4Yの一戦はスキル対決の様相を見せ、総合力の差が点数にそのまま表れる結果となった。
クセ者ぞろいのLIONブロック1回戦は、以上のように決着。4度の決勝大会すべてに出場を果たしている唯一の男・楓が貫禄を見せつけ、個性的な早口ラップで挑むlil林を正面突破で下した。中性的な声と粘り気のあるフロウで異彩を放つ十造は、闘志あふれるハスキーボイスで突進する知葉瑠にあえなく敗れる。類似したスタイルを持つTaizenとT4kqの戦いはラップバトルというよりほとんど怒鳴り合いの様相を呈し、ほぼ互角の戦いを演じてTaizenが辛勝。ワイルドカードマッチ覇者にして前回大会に「いちぢく」の名で出場していたサバンナの鯖は、得意のメロディアスなフロウと相手を小馬鹿にしたようなリリックで翻弄。その不遜な態度を快く思わないsosumeが感情むき出しで食ってかかるも、接戦の末にサバンナの鯖が勝利を収めた。
エンジンがかかり始めた2回戦
堂々たるフロウとテクニカルなライミングを着実に繰り出す彼岸に対し、牙 a.k.a. ANTMOTHは相手をディスりたい気持ちが先走ったのか、ところどころリリックの説得力を著しく欠いてしまう。その結果、半ば自滅に近い形で敗北を喫する。続く$OLLYとエスカの一戦は、両者から安定感のあるハイレベルなラップが飛び交うものの、明白な決定打には欠ける展開に。最終的には、人生経験とスキルの差で$OLLYが勝利を収めた。
DRAGONブロックの2回戦は、L.B.R.LおよびChanceという確かな実力者がそろってスイープで勝ち抜ける結果に。ただし、敗北こそしたもののasoはファイティングポーズを取り続けて自らのスタイルを終始貫き、Eitikiも15歳らしからぬ堂々たる戦いぶりで善戦。いずれも存在感を存分に見せつけ、オーディエンスを大いに熱くさせた。
LIONブロック2回戦では、第2回大会でも対戦している楓と知葉瑠の再戦が実現。手の内を知り尽くす者同士だからこその踏み込んだディス合戦となり、ラップスキルでもロジックの構成力でも上回った楓の貫禄勝ちとなった。一方のTaizenとサバンナの鯖による一戦では、先攻のTaizenが相手をフェイク呼ばわりして痛烈な先制パンチを浴びせるも、サバンナの鯖がそれらの攻撃をきっちり受けて返しながら巧みなフロウも織り交ぜていく形で応戦。その技量に票が集まる結果となった。
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3回戦は名勝負ラッシュ