MCバトル「激闘!ラップ甲子園」決勝大会レポート|まさに激闘!10代ラッパーたちの頂上決戦 (2/2)

思わぬ大差となった準決勝

準決勝 第1試合の対戦表

準決勝1戦目は、NERVE vs Sirogarasの西日本勢対決。審査員のS-kaineが「家族を背負っているという重みがある」と評したNERVEは、自身の生き様や覚悟をそのまま落とし込んだような切実なリリックを畳みかけて終始Sirogarasを圧倒。判定7-1で完勝を収めた。

この対戦を受け、呂布カルマは「“背負ってるもん対決”になるとNERVEは1個抜けてるんで、俺だったらそこ触れないけどね」と語り、相手の得意分野に乗っかる形で真っ向から受けて立ったSirogarasの戦法自体が敗因と分析。唯一Sirogarasに票を投じたAuthorityは「全部を出しきれていない感じがした」と述べ、「(力を出しきったうえで)白黒はっきりつく感じにしたほうがいいんじゃないのと思った」と、評が割れて延長戦に突入することを期待しての判定だったことを明かした。

準決勝 第2試合の対戦表

一方、Chanceとshinによる東日本勢対決は巧みにデザインされた譜割と旋律感を強調したメロディアスなフロウの応酬となり、バトル要素よりも音楽的なクオリティを追求するセッションのような一戦に。カミナリたくみが思わず「2人のライブを観ているみたいだった」と嘆息すると、DJ TATSUKIもそれに同調。「曲をやってるみたいで超カッコよくて、勝敗の決めようがない」と舌を巻いた。

しかし、蓋を開けてみれば判定8-0でshinに軍配。結果的には満票での決着となったものの、KEN THE 390の「票差ほど割れた試合ではない」との言葉通り、判定に迷う審査員の姿が目立つ対決となった。特にT-Pablowは制限時間を過ぎてもまだ決めかねていた様子で、「もし票が割れていたら少ないほうに入れて延長戦に持ち込ませたかった」と述懐。ほかの審査員も含め、1度のバトルだけで決着させるには惜しい対戦カードであるとの見解で一致していた。

そして決着へ

大会もいよいよ大詰め。ここまで勝ち上がってきたNERVEとshinが激突し、頂点の座を奪い合う決戦の時を迎えた。前述の通り、この決勝戦だけは8小節×4ターンの形式で競われる。ターンが増える分、冗長にならないだけの高度な構成力と聴衆を飽きさせない幅広い表現力が問われる対戦方式であり、もちろん豊富なボキャブラリーも要求されることになる。

左からNERVE、shin。

左からNERVE、shin。

ファイナリストの両名はそんな条件をものともせず、NAIKA MCが「決勝にふさわしいスタイルウォーズ」と評した通り、しっかりと各自のスタイルを貫いたうえで堂々たるラップを交わし合った。随所で小気味よく韻を踏みながらストイックにビートを乗りこなしていくNERVEと、それとは対照的に柔らかいビート感で低域から高域までを変幻自在にドライブさせつつラップを奏でていくshin。S-kaineはこの対戦を「“自分”を徹底している2人が上がってきた決勝」であると位置づけ、会場はそんな2人による32小節の壮絶なバトルを惜しみない拍手で讃えた。

決勝の対戦表

審査員たちが頭を悩ませながら下した判定は、なんと4-4のドロー。この日初めての判定同数となり、大会レギュレーションに従って決着をつけるべく延長戦が行われることに。この劇的な展開にはカミナリの2人も「これはすごいことだな」「最高の展開ですね」と興奮を隠せない様子だった。

そして先攻後攻を入れ替えて延長戦がスタート。真剣な眼差しで気迫のこもった言葉をビートに乗せるNERVEに対し、あくまで音楽としてのラップの面白さにこだわり続けるshinという構図でバトルが進行する中、終盤に飛び出した「俺はただお前に勝ちたいだけ」というshinの人間味あふれるパンチラインが審査員の心を鷲づかみに。これが決定打となり、得票でわずかにNERVEを上回ったshinが初代チャンピオンの称号を手にした。

決勝 延長戦の対戦表

T-Pablowは「何も言うことはない。カッコよかった」、Authorityは「『俺はただ勝ちたいだけ』とか言われたら、俺はチョロいんで押しちゃうっす」、DJ TATSUKIも「ああいう人間味を出されるとどうしても食らっちゃう」と、それぞれshinを手放しで称賛。Gucci Princeは「2本目のトラックがUKドリルみたいなビートで難しかったと思うんですが、NERVEくんは最初からうまく乗っていた。ただ最後の最後でshinくんのリズムの使い方がすごく面白かったからshinくんに上げました」と技術面の評価を口にした。

初代チャンピオン決定の瞬間。

初代チャンピオン決定の瞬間。

一方、NERVEを推した呂布は「本当に僅差だった」と前置きしたうえで「俺はNERVEの勝負っ気を評価したんですけど、完成度的にはshinだったかな」と複雑な胸中を吐露。同じくNERVEに票を投じたKEN THE 390は「やりたいことが明確に違う2人がずっと噛み合わないまま進んでいく中で、違う何かが生まれた」とバトルならではの化学反応に醍醐味を感じている様子だった。

優勝したshinには称号としてオリジナルキャップとベースボールシャツ、さらに副賞としてTOKYO MX「激闘!ラップ甲子園への道」エンディングテーマの制作権が贈られた。shinはソニー・ミュージック協力のもと楽曲およびミュージックビデオの制作を行い、その新曲が番組テーマ曲としてリリースされることになる。会場はそんなshinを祝福する温かなムードに覆われ、鳴り止まない拍手が響き続けていた。

授賞式で撮影された記念写真。

授賞式で撮影された記念写真。

左からNERVE、shin。

左からNERVE、shin。