GARNiDELiAが新曲「幻愛遊戯」を配信リリースした。
「幻愛遊戯」はテレビアニメ「うちの師匠はしっぽがない」のオープニング主題歌。GARNiDELiAの王道とも言える軽快なエレクトロサウンドに、昨年リリースの「オトメの心得」と同じく、大正時代という作品の時代背景を汲み取り和のテイストを組み込んだナンバーだ。MARiA(Vo)はアニメの主人公・まめだが芸事に対して真摯に向き合う姿勢にシンパシーを感じ、アニメの世界観を“化かし合う大人な男女の恋愛ゲーム”に見立てたポップな歌詞を書き上げた。さらに10月19日にはMARiAが展開する動画シリーズ“踊っちゃってみた”の最新楽曲として「謳歌爛漫」が配信される。この曲は“踊っちゃってみた”でダンサーを務めてきたみうめがステージでのパフォーマンスから引退することを受け、長年活動をともにしてきた彼女との“有終の美”を飾る曲として制作された。
音楽ナタリーではこれら2曲のリリースを記念してGARNiDELiAにインタビュー。数々のアニメ作品のタイアップを担当してきた2人は「うちの師匠はしっぽがない」という作品にどう寄り添い、「幻愛遊戯」楽曲を完成させたのか。またMARiAの活動に欠かせない存在であったみうめに贈る「謳歌爛漫」の制作秘話、10年にわたって続いてきた“踊っちゃってみた”という企画に対して今の2人が思うことなどを語ってもらった。
取材・文 / 須藤輝撮影 / 星野耕作
「オトメの心得」が太陽だとすれば「幻愛遊戯」は月
──「幻愛遊戯」はアニメ「うちの師匠はしっぽがない」のオープニングテーマです。以前のインタビューで、tokuさんがアニメ「大正オトメ御伽話」のオープニングテーマ「オトメの心得」(2021年11月発売の5thアルバム「Duality Code」収録曲)を「戦っていないGARNiDELiA」とおっしゃっていましたが、「幻愛遊戯」も路線としては同じですよね(参照:GARNiDELiA「Duality Code」インタビュー)。
MARiA(Vo) 「うちの師匠はしっぽがない」も戦闘モノではないので自ずとそうなってくるのと、アニメの制作サイドの方が参考楽曲として「オトメの心得」を挙げてくださって。しかも「しっぽな」も大正時代のお話なので「また大正か!?」と、私たちもわりと頭を悩ませたんですけど……。
toku(Compose, Key) 基本的には、「オトメの心得」が太陽だとすれば「幻愛遊戯」は月のイメージで。だから「オトメの心得」がメジャーキーだったのに対して、「幻愛遊戯」はマイナーキーになっていたりとか、夜っぽい仕上がりに。
MARiA ギラついた感じのね。
──歌謡曲っぽくもありますね。
toku そう。例えばひと昔前の、アニメのタイトルが歌詞に出てくるような時代のアニソンのオマージュができたらいいのかなと。要は「これは今の時代の曲なんだろうか?」みたいな雰囲気を出したくて、サビの最後のフレーズとかをめちゃめちゃ歌謡曲っぽい感じにしたり、けっこう遊んではいますね。
──展開でも遊んでいますよね。四つ打ちのエレクトロポップだったのが、2番からいきなりレゲエになったり。
toku 当初はドラムンベースとかジャングルからのレゲエというパターンで作っていたんですけど、もうちょっとスピード感が欲しくなって。そこで四つ打ちにして、レゲエのパートだけそのまま残った格好なんですよ。
MARiA 突然のレゲエ、面白いよね。
──歌謡曲感を出しすぎるとベタベタしてしまう可能性もあったのではないかと思うのですが、そこをスピード感とレゲエという外しでうまく回避してもいるような。
toku ちょっとテンポを上げたことでド歌謡曲にならずに、ほどよくソリッドな感じになったのかなと。基本的にコード進行とかも難しいことは全然していなくて。歌とブラスがあるので、それを引き立てるためにオケをシンプルにするというのが1つの命題ではありましたね。シンプルにすればするほど音が太く大きく聞こえるというか。今までのガルニデの曲は音数が多かったので、ある時期からどんどん減らしていっているんですけど、今回はこれぐらいがベストかなと。
──トランペットは、「オトメの心得」でも吹いていたキューバ出身のルイス・バジェさんですか?
toku そうです。「レゲエ入ってるんですけど、よろしくお願いします」と、基本的に譜面しか渡していないんですけど「オッケーオッケー」みたいな。
MARiA 本当にありがたいよね。
toku ありがたい。バジェさんめっちゃいい人で、今回もお忙しい中で宅録してもらって「こんな感じ?」みたいなノリだったんですけど、もうバッチリでした。ブラスアレンジは学生のときにちょっとやったぐらいでほとんど独学なので、「幻愛遊戯」のアレンジはバジェさんのおかげで具現化できたと言っても過言ではないですね。
ワタシのしっぽは掴ませない♡
──「うちの師匠はしっぽがない」は、大雑把にいうと狸が人に化けて落語をするという物語ですが、そこからこの「幻愛遊戯」の歌詞が出てくるのかと、ちょっと驚きました。
MARiA このアニメの一番言いたいことって、芸事に対してめちゃくちゃ真摯に向き合って、それを貫くことだと私は思っていて。主人公のまめだは落語という芸事の魅力に取り憑かれて、落語を愛しているんですけど、私も今まで歌という芸事を愛してきたんです。だから芸事を貫くという部分ではすごく私とリンクしているんですよ。
──なるほど。
MARiA 落語家でも歌手でも役者でも、ステージに立ってパフォーマンスをする人間は、お客さんが見たい姿を演じることでステージ上にファンタジーの世界を作り上げていると思うんですね。ガルニデだったら、お客さんはステージ上の私たちを愛してくれているのであって、その裏にあるプライベートな部分はどうでもいい……というほどでもないかもしれないけど、基本的にそこは見えないじゃないですか。もしかしたら素の私はめっちゃ根暗な人間である可能性もあるわけで(笑)。
toku それで表向きは明るいMARiAを演じているのだとしたら、すごいよね。
MARiA 仮に暗い私が明るいMARiAを演じていたとして、それが嘘の私だとは言い切れないし、そもそもそこで答え合わせをする必要はないと思っているんです。そういう意味でステージ上は真実と嘘が交錯する場所でもあるけれども、芸をやる人間としては、ステージに立っている姿を愛してくれればそれでいい。だから「ワタシのしっぽは掴ませない♡」なんですよ。
──MARiAさんは、こうして対面してお話ししている限り……いや、このインタビューすら演じていると言われればそれまでなんですが。
MARiA ちょっと待ってくださいよ!(笑)
toku 誰にもしっぽはつかませないのでね。
──この会議室にいるMARiAさんとステージ上にいるMARiAさんは、そんなに乖離していない印象を受けます。
MARiA たぶん根っからの熱血人間みたいなところはあって、そこは演技で隠せるものでもないし、隠そうとも思っていないんですけど。ただ、ステージに立つとテンションがアッパーになるから平常心ではいられないというか、自分ではフラットな状態でいるつもりでも普段の自分じゃ出せないパワーが出ちゃったりするのが面白いとは思いますね。まあ、みんなの前ではカッコいい私でいたいから、だいぶカッコつけている自覚はあります(笑)。たまに出ちゃうけどね、お茶目なMARiA……“お茶MARiA”が。
ステージに立ち続けられる人間は正気じゃない
──僕は最初、「幻愛遊戯」の歌詞を男女の駆け引きのように捉えたのですが、芸事に対する向き合い方だと思うと深みが増しますね。
MARiA ありがとうございます。もちろん原作でキャラクターが言っているセリフをピックアップしているところもあって。「正気じゃないのは 十分承知よ」とか「末路の哀れは 覚悟しているわ」がそれで、GARNiDELiAも結成13周年を迎えましたし、歌だけなら私は20年ぐらい活動していますけど、こんなに続けていられるなんて正気じゃないなと。芸事を続けられるメンタルがまず異常だし、ステージに立ち続けられる人間って、たぶん普通ではない。そういうことを「しっぽな」のキャラクターたちが言うんですよ。
toku すごいよね。ポップなキャラデザなのに、めちゃくちゃ硬派で。
MARiA 芸の道の裏側をえぐっている感じだよね。実際、ギャンブルみたいなものですからね、この仕事は(笑)。正解もないし、がんばれば認められるわけでもないのに、持てる時間を全部費やしてやっているなんて、正気じゃない。
──でも、その「正気じゃないのは 十分承知よ」に続く「自分に嘘をついて生きていたくないだけ」というフレーズは、完全にMARiAさんの言葉ですよね。
MARiA そうですね。私だってずっと強くいられるわけではないけれど、ステージに立っているときはガルニデのMARiAとして、みんなが見たいMARiAであり続けるべきだと思っていて。だからMARiAを演じている部分が間違いなくあるんです。でも、そうやって演じることでお客さんを楽しませたいし、お客さんに愛してもらいたい。そこに命をかけている私に嘘はないんですよ。
toku そういう目線で見ると、また違った見方ができる詞だなと思って。MARiAから歌詞が上がってきたとき「おお、すげえな」と思いました。
──タイアップを引っぺがしても成立すると思います。
MARiA わあ、うれしい。そこも加味して恋愛要素やお客さんに対する私の気持ちとかを混ぜ込んでいったんです。でもね、原作をご存知の方だったりアニメをご覧になった方が読むと「ほほう」と思う歌詞になっていますよ。
toku この歌詞のアニメとのリンク具合はね、パーフェクトだと思います。
MARiA そこは場数も踏んでいますからね。原作ファンが歓喜するような歌詞を書くと決めているし、同時に原作やアニメから離れても、曲単体でもGARNiDELiAの曲として成立させるというのがモットーなので。そういうふうになっていることが一番ハッピーなことですね、私にとっては。
アニメのお色気シーンみたいなテンションで
──ちなみに先ほどの「ワタシのしっぽは掴ませない♡」は、アニメの制作サイドから「『しっぽ』という言葉をどこかで使ってください」みたいに言われたんですか?
MARiA いや、言われていなくて、私がどうしても入れたかったんですよ。例えば「ハニーフラッシュ!」みたいな、決めゼリフ的なものを。
──「月にかわっておしおきよ」みたいな。
MARiA そうそう、そういうことなんです。「キューティーハニー」だったり「セーラームーン」だったり、昔のアニメにあった“主題歌っぽさ”が「幻愛遊戯」にはすごくあると思ったし、ちょっとセクシーなお姉さん像も浮かんだから、どうにかして「しっぽ」を使った決めゼリフを作りたくて。だからずっと「しっぽしっぽしっぽしっぽしっぽしっぽ……」っていろいろ考えて、しかもこのメロディにハマるフレーズで……っていうかここどんなメロなのよ!
toku (笑)。
MARiA このメロにハマる「しっぽ」なんてある?
toku サビの最後のメロディはブルースというか。
MARiA もはや演歌みたいな領域だもんね。でも、なんとか「ワタシのしっぽは掴ませない♡」でいけるんじゃないかと、この1行を最初に決めて。私は普段はAメロ、Bメロ、サビの順番に歌詞を書くんですけど、今回に限ってはサビの最後の1行を起点にどんなストーリーにしていくかを考えて展開していったので、けっこう珍しい書き方になりましたね。
──「ワタシのしっぽは掴ませない♡」という決めゼリフは、例えば「CAT'S EYE」のような怪盗モノのアニメにありそうですね。
MARiA そうそうそう。「幻愛遊戯」のミュージックビデオがそういう感じになっているので、それもちょっと楽しみに見てほしい。私が歌姫・MARiAみたいな役柄で、そんな私のプライベートを暴こうと、探偵に扮するtokuが追いかけ回すみたいな。「CAT'S EYE」も名曲だし、やっぱりあの時代のアニメ主題歌、好きだなあ。
──ボーカルもいつものパワフルなMARiAさんというよりは、セクシーなMARiAさんですね。
MARiA アニメのお色気シーンみたいなテンションでした(笑)。さっき言ったセクシーなお姉さん像に忠実に、あえてわざとらしく色っぽいキャラ付けをして歌っています。そういう意味では歌にもけっこう遊びが入っていますね。
──それが歌謡曲的なトラックにフィットしていると思いました。
toku それは大きいですね。
MARiA めちゃくちゃあると思います。歌謡曲っぽい歌い方も意識していましたし。でもレコーディングはあんまり時間かからなかったよね?
toku 4テイクぐらいしか録ってない。もう詞ができた段階での仮歌のやり取りで、ほぼ正解は見えていて。「幻愛遊戯」ではサビの歌詞の文字数を多くするために、わざと音符をいっぱい入れたんですよ。落語がテーマになっているアニメのタイアップだし、噺家さんみたいに早口で駆け抜けるようなサビを想定していたので。だからガルニデのダンス曲の中では、群を抜いて歌詞の量が多い。
MARiA ああ、確かに。
toku そこをすらすらと、もしくはぴょんぴょん飛び跳ねていくように歌えたら一番いいんじゃないか、というのが今回の課題で。あと、今まではよくサビで転調していたんですけど、四つ打ちの曲の場合、転調するとキックのピッチも変えなきゃいけなくなるのが最近すごく気持ち悪くて。僕は普段、ベースミュージックを聴くことが多いので、低音をじっくり聴いているとキックのピッチ問題がどんどん気になってきて「もう転調やめよう!」みたいな(笑)。転調しない代わりに、MARiAの音域をフルで使い切れるメロディを書こうという意識が、今回はすごく強くありましたね。
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打ち上げ花火のようにド派手な曲を