Galileo Galileiが2枚同時リリースしたニューアルバム「MANSTER」「MANTRAL」。これらはそれぞれ表裏一体のテーマを持ち、各14曲、計28曲で人間の多面性を描き出す大作だ。
ボリューミーな作品ながら楽曲はどれもハイクオリティで遊び心や挑戦心にあふれ、1曲1曲が一球入魂ともいうべき仕上がりに。これほどの意欲作はどのように誕生したのか? Galileo Galileiの4人に話を聞くと、クリエイティブに大きな影響を与えた、メンバー同士の良好な関係性が浮かび上がった。
取材・文 / 森朋之
自分たちのアルバムという気がしない
──2作同時にリリースされるニューアルバム「MANSTER」「MANTRAL」、本当に素晴らしいです! 全体のコンセプト、2作のコントラスト、各楽曲のクオリティを含め、Galileo Galileiの最高傑作だと思いますが、まずは皆さんの手応えを教えてもらえますか?
尾崎雄貴(Vo, G) まずは「なんとか完成した」という感じですね。ミックス作業が魔境すぎて、間に合わないんじゃないかと思ってたんですよ(笑)。まだ完成の打ち上げもやってないし、アルバムを全然味わえてないというか、自分たちも把握できてないんですよね。みんなで1回聴いたときは「いいのができたね」と話してたけど、それが確かなものなのか、または幻想なのか……。
岩井郁人(G) まだ捉え切れてないんですよ、つまり。自分たちのアルバムという気がしないというか(笑)、すごいものを作ったと思いつつ、分析し切れていないので。
尾崎和樹(Dr) アルバムが出て、ファンの人たちの感想を聞くまでは手応えを感じられないんじゃないかと思っていて。Galileo Galileiを好きでいてくれる人たちがどう思うのか、早く知りたいですね。
岡崎真輝(B) アルバムの生の評価をまだインプットできてないんですよね。さっき「すごくよかった」と言ってもらって「そうなんだ」と少し実感できましたけど、和樹さんが言った通り、まずはみんなの反応を聞いてみたいです。
──リリースされたら、みんな驚くと思います。大げさではなく、2020年代を代表する作品になると思うので。
雄貴 あ、本当ですか。うれしいです。
──そもそも2作のアルバムを同時にリリースすることになったのは、どうしてなんですか?
雄貴 ライブのMCで、僕らはその後の活動についてけっこう話すんですよ。去年の11月のツアーで「アルバム2枚作る」と言っちゃったから、「言ったからにはやらなきゃいけないな」と(笑)。スタートはそこでした。バンドの状態もよかったし、とにかく曲をたくさん書きたかったんです。「“やりたいこと”も“やれること”もたくさんあるな」というか。あれもこれもという感じで1つの作品にいろいろ詰め込むのはGalileo Galileiとしてはいつもの形だけど、今回はしっかり2枚に分けてみようかなと。「どっちのアルバムが好きかで論争が起こってほしい」みたいなイメージもありました。
──2枚合わせて28曲というボリュームもすごいですが、制作のスタートはいつ頃だったんですか?
岩井 「Bee and The Whales」(2023年5月発表のアルバム。再始動後の新体制で初めてリリースした作品)のツアーのあと、すぐに作り始めたんですよ。去年の夏の終わりくらい?
雄貴 そうだね。
岩井 デモを含めると少なくとも5~60曲くらいあったと思います。みんなそうだけど、特に雄貴は「三大欲求に“作曲欲”を加えていいんじゃない?」と思うくらい曲を書いていて。
雄貴 アルバムの曲のほかにBBHFのEP(2024年発表「Here Comes The Icy Draugr」)を出したり、Galileo Galileiとしての楽曲提供もあって。まあ、毎日書いてますからね、曲は。
──それくらいクリエイティブが充実していた、と。
雄貴 この1年が特別に充実していたというより、2022年にバンドが再始動してから、段階的に上がってきていると思っていて。一番力をもらえるのは、やっぱりファンなんですよ。Galileo Galileiの曲を聴いて、それぞれの人生の中で大事なものにしてくれて。そういう人たちの反応や振る舞いを見て、僕らもエネルギーをもらえる。これは日々感じていることですけど、Galileo Galileiのファンって、自慢したくなるくらい質がいいんですよ。おそらくファンの人たちも僕らのことを自慢したいと思ってくれているだろうし、そういうシンプルな関係がエネルギーになっているということですね。だからといってファンに向けて曲を書くということではなくて、例えば「ヴァイキング ~海の覇者たち~」というドラマにハマって、「バイキングみたいな曲を書きたい」とか、そういうことが多い。北欧の音楽を掘っていって、「地域によってコード進行やメロディに特徴があるよね」みたいな話になり、その勢いで曲を書いたり。日常の中の気付きや感動したコンテンツがヒントになるというのかな。それは僕だけじゃなくて、メンバーからもどんどん出てくるし、曲を書くことにはまったく困らないです。
──4人で過ごす日常の中から、曲の萌芽が出てくる。
岩井 みんなでいろんなことを楽しんだ1年だったなと思います。真輝くんがボクシング大好きで、「みんなで一緒に井上尚弥の試合を観よう」と誘ってくれたり。
雄貴 そのためだけに集まって(笑)。
岩井 これだけ一緒にいてもメンバーの面白いところがどんどん出てくるんですよ。さっき雄貴がファンのことを話してくれたけど、それ以外のことではメンバー同士の友情がさらに深まったことも、制作に大きな影響を与えたと思ってます。
雄貴 みんなで野球盤をやったりね。ミュージックビデオの撮影で使う小道具を買いに行ったはずなのに、なぜか野球盤を買ってしまって。僕らは自分たちでMVを撮ってるから、準備しないと何も進まないのに(笑)。
岩井 みんなで野球盤で夢中になって遊んで、夕方、窓から西日が差し込んできて、エモすぎて泣きそうになったり(笑)。そういうことも曲につながっていると思います。
和樹 本当に毎日スタジオに集まってるんですけど、「今日は会いたくない」みたいなことがまったくないんですよ。それはかなり特殊なことじゃないかなと。ライブの楽屋とかでもみんなで同じ机を囲んで話してるので。
岩井 面白動画とか見てね。
──メンタルヘルス的にもよさそう。
和樹 愛にあふれています(笑)。
いつ何時インスピレーションが湧くかわからない
岡崎 本当に楽しい日々ですね。一昨年の10月にGalileo Galileiを結成して……。
──再始動ではなく、結成?
岩井 その感じ、すごくわかる。
岡崎 えーと(笑)、この4人でバンドを始めて、もうすぐ2年になるんですよ。前作「Bee and The Whales」を作ったときよりもお互いのことを深く知ることができたし、それがアルバムにも出ていると思います。あとは、アルバムの制作のちょっと前くらいから野球にハマって、みんなで試合を観に行ったり、制作の合間にキャッチボールしたり、バッティングセンターに行ったり。
雄貴 「ちゃんと練習しよう」ってキャッチャーミットを買って、今は球速100kmを目指して投球練習してます。
岡崎 カーブやスライダーもちょっと投げられるようになったしね(笑)。
雄貴 野球が好きと言ってたら、エスコンフィールドHOKKAIDOでライブをすることになって(9月7日、オリックス・バファローズ戦の試合後にスペシャルミニライブを開催)。
岡崎 すごいよね(笑)。「SPIN!」のMV撮影でもバッティングセンターに行ったし、いろいろなことにつながってます。
──野球だけじゃなくて、音楽の話もしてるんですよね?
雄貴 はい(笑)、それはもう今まで通り。岡崎くんの車で聴いた曲からヒントをもらったり。レコーディングの合間とか、コンビニに行くときに車を出してくれるんですけど、いつも謎のプレイリストがかかってるんですよ。洋楽のエモだけとか、いろんなパターンがあるんですけど、「この曲、何?」「このベースライン、よくない?」みたいな話をして、それが制作における僕の選択に影響することもかなりあった気がします。何気なく過ごしているんだけど、いつ何時インスピレーションが湧くかわからない。それはすごくスリリングだし、だから飽きないんじゃないかな。しかも、それを表現する場所があるわけじゃないですか。友達同士で「楽しいね」と言ってるだけでもいいけど、僕らの場合はそれを音楽にして発表できるので。
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Galileo Galileiとファンにとっての懐かしさ