ミュージシャン側も自治体側も、まだ全国的に意識が高くない
──確かに、「仙台から30分」のようなわかりやすいアピールが前面に出ている曲よりも、こういう曲のほうが音楽好きの人は町に興味を持ってくれそうな気がします。
HUNGER 市町村のPRにアーティストとかが関わるケースも少しずつ増えてきていますが、これを言っちゃ元も子もないんですけど、その町に住んでる人が自分たちの町のことを一生懸命アピールするのが一番効果的だと思うんです。それでも僕らミュージシャンが何かをするとしたら、できる限りその町のことをよく知って、それを一般の方には作れないクオリティの音楽で表現するしかない。
──そうかもしれないですね。
HUNGER ミュージシャン側も自治体側も、それに対してまだ全国的に意識が高くないような気がします。今までいろんな楽曲を聴きましたけど、「本当にその町のことをアピールしようとしてるのかな?」って思えてしまう。でもやっぱり自分たちが作った曲は、町の人に「なんかいいな」って思ってもらえるものであってほしいし、長く残るものであってほしいです。
──その意味で言うと今回の「証-AKASHI-」は、いわゆるノベルティソングっぽいものではなく、単純に“いい曲”として聴き続けられるものに仕上がったと思います。
佐藤町長 PRをするときにターゲットにしたい年齢層ってあるんですけど、その対象にうまくアピールするのは行政だけでできることではないんですよね。去年の3月くらいに放送されていたトヨタのCMはこの蔵の町並みの中で撮影されたんですが、風間杜夫さん演じるおじいさんが孫娘とドライブをして、昔住んでいた町で降りたらおじいさんの初恋の女性に会った、というストーリーだったんです。そのCMを観て、やっぱり我々の視点とは町に対する捉え方が全然違うんだなってわかりました。今回の映像も、皆さんの独自の視点と感性で、町を見ていただいた印象を数分間に凝縮していただけたので、すごくよかったです。
──確かにこのMV、映っているのは昔ながらの町並みと布袋まつりの様子なのに、映像からは非常にクールな印象を受けますよね。撮影はどんな感じでしたか?
DJ Mitsu the Beats やっぱり蔵の中の空気はすごかったですね。神聖と言うか。今回使ったカメラは最新のものなので、そんな空気まで鮮明に伝わるような映像になっていると思います。
DJ Mu-R 神聖な空気は僕もすごく感じました。撮影クルーのスキルもすごく高かったし、GAGLEのMVとしても使わせてもらいたいなっていうくらいの、素晴らしいクオリティの映像ですね。
佐藤町長 こういうことをどんどんほかの自治体もやってみればいいと思います。
HUNGER そうですよね。ラップは1曲4、5分の中にたくさんの情報量を詰め込むことができるし、ある程度のルールさえ守れば自由なので、こういう企画に向いてる音楽だと思うんですよ。これからもいろんなアーティストと各自治体の間で、今回のような流れが起きたら面白いんじゃないかなと思いますね。
今は村田町から新しいアーティストが生まれることも簡単になった
──もう何年も仙台を拠点に活動してきたGAGLEですが、地方で暮らすことの強みは何か感じていますか?
HUNGER 村田町と仙台は事情が違うから、仙台についてのことしかしゃべれないですけどね。生活がしやすいと、いいペースで活動できるというのはあります。
DJ Mu-R 自分たちはデビューしたときに「東京に出ない」というのを当時の会社がOKしてくれたから、仙台から動かずに活動を続けて今に至るんですけど、最初のそれがなかったら、もしかしたらGAGLEは今とは全然違うことになってたかもしれないです。
HUNGER でもあの頃から何年も経って、今は本当に状況が変わりました。もし村田町に僕らと同じような音楽を作る人がいるとして、ここから発信できないかと言ったらまったくそんなことはない。実際、地方で1人で作ってる人が、いい曲を作ってちゃんと評価されたりもしてるんですよ。僕らが仙台に住んで活動をしてるのはもう全然特別なことじゃないし、村田町から新しいアーティストが生まれることも難しくない時代になっています。住む場所に関係なくみんなが平等になってきたのを感じますね。
──市町村とアーティストがコラボレートすることについては、どう思いますか?
佐藤町長 昔だったら考えられなかった施策ですし、これは新しい時代のスタートなんじゃないかなと思います。役所って予算至上主義なんで、こういう企画をするのにはなかなか高いハードルがありますけど、継続は力になると思うので、今後もミュージシャンの方とのコラボをなんらかの形で続けられればなと思いました。
HUNGER 大変だったと思いますよ。僕らとのコラボ企画を町長さんが通すっていうのは。周りからの反発がないわけがないと思いますし。
佐藤町長 まあ、お堅いことも役所の務めですので(笑)。それに今回の企画は、村田町に住んでいる人ではなくて、村田町以外の人から評価してもらいたくて立てたものですので。
HUNGER そうですよね。
佐藤町長 いろんな意見はありましたけど、終わってみたら村田町の中から聞こえる声も悪いものはないです。皆さん「よくこんなものを作りましたね」って言ってくれてます。
DJ Mitsu the Beats 今回のような企画をやるときは、「こういう感じでやってほしい」「こういうのはダメだ」みたいな制限があることが多いんですけど、「証-AKASHI-」の制作に関しては本当に期待感をもってすべて任されてる感じがしたんです。それってすごいことだと思うし、その結果自分たちも本気で取り組めて、心からやりたい曲を作ることができて。そういうのってすごく大事なんだなって思いました。
DJ Mu-R スタイルを変えずにやらせていただけたのは、グループとしても大きいことだったんじゃないかな。こういう仕事があると両親もすごく喜んでくれるし(笑)、いい経験をさせていただいたという感じです。
HUNGER 「ミュージシャンも自治体も意識が高くない」って、さっきちょっと強気な発言をしちゃいましたけど(笑)、でもやっぱり重要なのはそこだと思うんです。どこの町も歴史があって、たくさんの人の思いによって守られているので、町に関わるのであればそういうところにタッチしないとダメだと思うし、もしタッチできたらそれは自分の人生のためにもなる。僕らは今後もこういうチャレンジを続けていきたいなと思いますね。
村田町イベント情報
- 「蔵の町むらた 布袋まつり」
- 2018年10月7日(日)
宮城県 村田町中心部(蔵の町並みなど)
村田町の伝統的な祭。笛や太鼓の囃子に合わせて舞う、背丈が2mを超える巨大な布袋人形が乗った、華やかな山車の行列が町内を練り歩く。また蔵の町並みが歩行者天国になり、町内の全幼稚園および保育所、地元小学校などによる踊りや神楽といったストリートイベントが催される。
- 第18回みやぎ村田町蔵の陶器市
- 2018年10月12日(金)~14日(日)
宮城県 村田町中心部(蔵の町並み)
村田商人やましょうを含む店蔵と空店舗に、東北や関東を中心とした陶芸家の80窯が集結。陶器の展示・販売が行われる。
- むらた町家の雛めぐり
- 2019年3月下旬
宮城県 村田町中心部(蔵の町並みほか) / 村田町歴史みらい館
江戸時代から現代までの享保雛や古今雛、かわいい雛道具などが町の18カ所の会場に展示される。飾られた雛人形の表情や衣装の違いにも注目。
- GAGLE「Vanta Black」
- 2018年1月12日発売 / Jazzy Sport
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[CD]
2700円 / JSPCDK-1038
- 収録曲
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- Vanta Black
- Grand Gainers(Album Version)
- 適者生存
- Bohemian Style
- 和背負い feat. KGE THE SHADOWMEN & 鎮座DOPENESS
- 小こい円盤 feat. 菅原信介
- うつろぎ
- Black Rose
- ?!!Chaos!!?
- 日日Living feat. Mitsuyoshi Nabekawa (ATATA)
- Flow
- Always
- GAGLE(ガグル)
- HUNGER(MC)、DJ Mitsu the Beats(DJ)、DJ Mu-R(DJ)からなる宮城県仙台市在住のヒップホップグループ。1996年に結成され、2001年に1stアルバム「BUST THE FACTS」をリリースした。2004年にメジャーデビューして以降も地元・仙台を拠点に活動を続けながら、「雪ノ革命」「屍を越えて」「うぶこえ」などの楽曲を発表。ジャジーでグルーヴィなトラックとスキルフルなラップは、ヒップホップシーンを越えて幅広い層のリスナーから支持を集めている。2018年1月には、ディープハウスやテクノの影響を感じさせるアルバム「Vanta Black」を発売。これまでのイメージを覆す新機軸のサウンドが話題を呼んだ。
- 村田町長 佐藤英雄(サトウヒデオ)
- 1956年10月30日生まれ。宮城県村田町に生まれ、宮城県角田高等学校を卒業したのち、村田町役場に奉職する。2007年5月に村田町長に就任。宮城県初の重要伝統的建造物群保存地区である蔵の町並みを核に、元気な町作りを目指す。好きな言葉は「チャレンジ」「謙虚」「感謝」。特技は卓球で、村田町卓球スポーツ少年団の指導員を務めている。