GAGLE×佐藤英雄 a.k.a. 宮城県村田町町長|アーティストは地方創生のために何をするべきか?

宮城県仙台市の中心部から高速道路を南に30分ほど走った場所にある宮城県村田町は、人口約1万1000人の小さな町。野外フェス「ARABAKI ROCK FEST」の開催地として音楽ファンに知られる川崎町や、名峰・蔵王山のある蔵王町に隣接した場所にある。江戸時代に仙台と山形を結ぶ街道の分岐点だった名残りで、この町は市街地に趣のある古い土蔵が建ち並んでいるのが大きな特徴。ノスタルジックな景観を持つ一方で、国際レーシングコースを有する総合モータースポーツ施設・スポーツランドSUGOはモータースポーツ界では鈴鹿サーキットと並ぶほどの知名度を誇る。

そんな村田町が地方創生を目的に、宮城県仙台市在住のGAGLEとコラボレート。村田町に何度も足を運んでその土地の魅力を肌で味わったGAGLEが、町に受け継がれてきた歴史と誇りをリリックに込め、伝統的な祭り囃子をサンプリングし、プロモーション楽曲「証-AKASHI-」およびそのミュージックビデオを完成させた。

音楽ナタリーではGAGLEの3人と、今回の企画を通した佐藤英雄村田町長の対談を実施。「アーティストが地方創生に関わるときに大事にするべきことはなんなのか」などのトピックについて語り合ってもらった。

取材・文 / 橋本尚平 撮影 / 加藤智尚 撮影協力 / 村田商人やましょう記念館

外から影響を受けずに大事に伝えられていくものがある町

──今回のMV、市町村のPR目的と考えると、かなりとがったものを作ったなという印象です。

左から佐藤町長、HUNGER、DJ Mitsu the Beats、DJ Mu-R。

佐藤町長 村田町は「歴史ある蔵の町並み」というイメージが強いと思いますが、そこにプラスしてこれまでにない新しい視点の村田町を表現したい、というのが今回の企画の最初のコンセプトでした。私は正直言って音楽には疎いんですが、もっと自分の力を試してみたいと思ってるほかの地域の若い人たちに、ぜひ興味や関心を持ってもらいたいと考えて、音楽と映像とダンスで村田町を表現してもらうことにしたんです。

HUNGER それに対して自分たちの音楽で、どういう表現ができるかなっていうのはずいぶん考えたんです。僕の中で村田町のイメージは、東北自動車道と山形自動車道をつなぐ村田ジャンクションなんですよ(笑)。それに、歴史的に見ても村田町はいろんなところに行くときの中継地じゃないですか(※江戸時代、上方への流通経路の主流であった西回り航路につながる山形方面への交通の便がいいため、村田町は上方と仙南地方を結ぶ中継地の役割を担っていた)。

佐藤町長 そうですね。

左からHUNGER、DJ Mitsu the Beats。

HUNGER だから最初は「南に30分、車を走らせたらこの町がある。ここは要所だった」みたいな感じのリリックを書いてたんですよ。でも、やっぱりちゃんと町のことを知ろうと思って、何回も村田町に行っていろんなものを見せてもらったり、歴史的なところを掘り下げて学びました。リリックを書くには情報は多いほうがいいし、実際に住んでる人の生の声を聞くと気持ちが入り込みやすいんで、けっこういろんな人から話を聞かせてもらいました。蔵の町に住む方からは、もてなしの心と商人のプライドを感じました。昔ながらの暮らしを大事にしてる人、村田町に移住してモノづくりをしている人、いろんな方から話を聞きました。

──村田町で見たもので、特に印象に残ったものはなんですか?

DJ Mitsu the Beats 僕はやっぱ鬼ですね。

DJ Mu-R 俺もそうです。

鬼が川を飛び越えて逃げたときに手をついた跡が残っていると言われている「鬼の手掛け石」と、それを撮影する観光客。(写真提供:村田町) 村田町の商家の蔵から発見された鬼の頭と腕のミイラ。村田町歴史みらい館に収蔵されている。(写真提供:村田町)

DJ Mitsu the Beats 鬼の手の跡が付いた石があるんですけど、別に大々的に飾られてるわけじゃなくて「あ、こんなに普通に置いてあるんだ」ってけっこう驚きました(笑)。あと、村田町歴史みらい館には鬼のミイラが飾ってあって、それもひっそり置いてあるだけだったんで、僕はもっとしっかり見せればいいなと思ったんですけどね。

佐藤町長 そっと置いてありますよね(笑)。

DJ Mitsu the Beats もともと村田町のことは名前くらいしか知らなくて、たまに車で通過するだけだったけど、祭の様子とかもいろいろ見せてもらって、町の温かな空気を感じてすごく興味が出たんです。だから以前までの僕のように村田町に来たことがない人にも、音楽でいいところだって伝えることができそうだなと思いました。

HUNGER 鬼のエピソードは諸説あるんですよね?

佐藤町長 渡辺綱の鬼退治伝説(平安時代の武将・渡辺綱が、京都の一条戻橋または羅生門で鬼の腕を切り落とし持ち帰ったという伝説)にまつわる場所って、実は全国にありまして。東日本も村田町以外にもけっこういろいろあるみたいです。ただ、村田町の鬼の伝説がある地域は渡辺姓が7、8割で、皆さん現在も当時からの言い伝えを守っているんですよ。本当かどうかの検証はしてませんけど、ストーリーはつながっているんです。

HUNGER 最初は鬼をメインにした曲がいいんじゃないかとも思ってたんですよ。それくらいインパクトがありましたね。

──そう言えば今回制作された「証-AKASHI-」には「福も内 鬼も内」っていうリリックがありますね。

佐藤町長

佐藤町長 渡辺綱伝説が伝えられている渡辺姓が多い地域は、節分に豆を撒くときに「鬼は外 福は内」ではなく「福も内 鬼も内」と言うんです。鬼が逃げないように。

HUNGER それが面白いなと思って。「鬼も内」って、子供がギャグでよく言ってるじゃないですか。それが実在していて、昔から受け継がれてるっていうのはすごくフレッシュだったんですよ。だからぜひキーフレーズとして入れたいなと。

佐藤町長 村田町でもその地域だけで、ほかの地域では普通に「鬼は外 福は内」なんです。

HUNGER 交通の不便さはある町だけど、だからこそ外から影響を受けずに大事に伝えられていくものがあるんでしょうね。そういうところは魅力でもあると思います。

重心をどこに置くのかってことだと思う

──GAGLEはかつて、仙台で活動していくことへの決意を表明した「雪ノ革命」や、先人たちが残した歴史に感謝する「屍を越えて」といった楽曲を発表しているので、歴史ある村田町に曲を作るのにはピッタリな人選だなと思いました。曲の制作をオファーされたときに、イメージしやすかったのでは。

DJ Mitsu the Beats そうですね。僕は今回の曲を作るときに、GAGLEのアルバムに入ってる曲と同じ感じで作りたいと思ったんです。PR企画でありがちな、みんなでわいわい騒ぐ派手な曲じゃなくて。

左からDJ Mitsu the Beats、DJ Mu-R。

DJ Mu-R こういう企画だからこそ自分たちの中でジャッジは厳し目にして、あくまでいつもの流れでやらないと意味がないなって思ってたんです。

DJ Mitsu the Beats 今回のトラックは「布袋まつり」という村田町の大きな祭の、お囃子とか笛の音の……。

HUNGER 青葉の笛ね。

佐藤町長 一ノ谷の戦いで討ち死にした平敦盛が好んで吹いていた青葉の笛のメロディを、逃げてきた平家の落武者が村田町に伝えたと言われています。

DJ Mitsu the Beats そう、そのフレーズをサンプリングして組み替えて作りました。そういう祭のにぎやかな音をサンプリングしたら、普通だったら「わっしょい!」って感じの明るい曲になりがちなんですけど、それだったらGAGLEがやる必要はないから、落ち着いたメロウなキーボードを足して、町の温かい空気感を出そうと。

HUNGER 重心をどこに置くのかってことだと思うんですよね。曲を作るうえで、どこをピックアップして何を伝えたいのかっていう。今回は「仙台宮城インターから車で南に30分走れば着くぜ」じゃなくて、歴史も踏まえて深掘りしたほうがいいなってことです。

佐藤町長 1回聴いただけで印象が全部伝わるのではなくて、2度3度と聴いていくうちに村田町のことがいっぱい頭に入ってくる、面白い曲だと思います。

「蔵の町むらた 布袋まつり」

村田町イベント情報

「蔵の町むらた 布袋まつり」
2018年10月7日(日)
宮城県 村田町中心部(蔵の町並みなど)
「蔵の町むらた 布袋まつり」

村田町の伝統的な祭。笛や太鼓の囃子に合わせて舞う、背丈が2mを超える巨大な布袋人形が乗った、華やかな山車の行列が町内を練り歩く。また蔵の町並みが歩行者天国になり、町内の全幼稚園および保育所、地元小学校などによる踊りや神楽といったストリートイベントが催される。

第18回みやぎ村田町蔵の陶器市
2018年10月12日(金)~14日(日)
宮城県 村田町中心部(蔵の町並み)

村田商人やましょうを含む店蔵と空店舗に、東北や関東を中心とした陶芸家の80窯が集結。陶器の展示・販売が行われる。

むらた町家の雛めぐり
2019年3月下旬
宮城県 村田町中心部(蔵の町並みほか) / 村田町歴史みらい館

江戸時代から現代までの享保雛や古今雛、かわいい雛道具などが町の18カ所の会場に展示される。飾られた雛人形の表情や衣装の違いにも注目。

GAGLE「Vanta Black」
2018年1月12日発売 / Jazzy Sport
GAGLE「Vanta Black」

[CD]
2700円 / JSPCDK-1038

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収録曲
  1. Vanta Black
  2. Grand Gainers(Album Version)
  3. 適者生存
  4. Bohemian Style
  5. 和背負い feat. KGE THE SHADOWMEN & 鎮座DOPENESS
  6. 小こい円盤 feat. 菅原信介
  7. うつろぎ
  8. Black Rose
  9. ?!!Chaos!!?
  10. 日日Living feat. Mitsuyoshi Nabekawa (ATATA)
  11. Flow
  12. Always
GAGLE(ガグル)
GAGLE
HUNGER(MC)、DJ Mitsu the Beats(DJ)、DJ Mu-R(DJ)からなる宮城県仙台市在住のヒップホップグループ。1996年に結成され、2001年に1stアルバム「BUST THE FACTS」をリリースした。2004年にメジャーデビューして以降も地元・仙台を拠点に活動を続けながら、「雪ノ革命」「屍を越えて」「うぶこえ」などの楽曲を発表。ジャジーでグルーヴィなトラックとスキルフルなラップは、ヒップホップシーンを越えて幅広い層のリスナーから支持を集めている。2018年1月には、ディープハウスやテクノの影響を感じさせるアルバム「Vanta Black」を発売。これまでのイメージを覆す新機軸のサウンドが話題を呼んだ。
村田町長 佐藤英雄(サトウヒデオ)
村田町長 佐藤英雄
1956年10月30日生まれ。宮城県村田町に生まれ、宮城県角田高等学校を卒業したのち、村田町役場に奉職する。2007年5月に村田町長に就任。宮城県初の重要伝統的建造物群保存地区である蔵の町並みを核に、元気な町作りを目指す。好きな言葉は「チャレンジ」「謙虚」「感謝」。特技は卓球で、村田町卓球スポーツ少年団の指導員を務めている。