GADORO「リスタート」インタビュー|韻に対する意識が変わり、打撃も寝技もいけるオールラウンダーなラッパーに (3/3)

言葉の意味が遠いもので踏むことの面白さに気付いて

──LIBROさんがプロデュースした「ライブに来い」も、フックがシンプルな分、ヴァースの韻は細かく踏まれていますね。

そこもバランスだし、やっぱり、根本的なリリックに対する向き合い方が変わってるんですよね。今までは六角形(のレーダーチャート)があったとしたら、「内容」に特化させる感じだったんですよね。

──内容にパラメーターを全振りするというか。

そうですそうです。でも、リリックの内容に力を入れたまま、フロウやライムのパラメーターもマックスにしたら、UFCで言えば打撃も寝技もいけるオールラウンダーになれるなって。

──パーフェクトなラッパーを目指すわけですね。作品全体として「ラッパー:GADORO」としてのアティチュードが強くなっていると感じました。

自分は何者かというのは、いつもリリックを書くときに考えてることなんですけど、リリックの書き方や構成の仕方が変わったことで、また別の形で、自分は何者かという部分の表現が形になったと思いますね。あと自分の楽曲は、「韻贅生活」までは韻好きな人には届いてなかったと思うんですよね。でも、音楽性も落とさず、内容も薄めず、パンチラインも減らさずに、ライムのレベルを上げれば、そういう人も俺の曲を聴きまくるようになるんじゃないかなって。だから進化させてますね、書き方自体を。

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──踏む部分と踏まない部分を明確に切り分けてるようにも感じました。特に、パンチラインになっている部分は、踏まないことも多いですね。例えば「欲望ってやつは海水みたく / 満たせば満たすほど喉が乾く」というフレーズは、非常に印象的ですが、韻は踏んでいない。

そうですね。この2小節は1回も踏んでいないです。あと「水の中で泣いてる人の涙に気付けるような人になりたいんだ」も踏んでない。このリリックも、あえて踏もうと思えば別の言葉にも変えることはできると思うんですね。でも無理に変えると、自分の言いたい言葉じゃなくなってしまう。だから「ここはしっかりと伝えたい」「これはメッセージを込めたい」というリリックに関しては、あえて踏まなかったりしてますね。それによって際立たせてる部分がありますね。

──それでは、今回のリリックで手応えの強いライミングは?

自分としては「相も変わらず 未だ愛も分からず / だがライト輝く場で再度闘うのさ / そんな自分が密かに好き / 中指に足した人差し指」(「ここにいよう」)というヴァースはよく書けたなと。特に「密かに好き」「人差し指」は俺のベストだと思ってますね。伝えたいことをしっかり書けてるし、ライムもしっかりできてるっていう。「PINO」の「可愛いビキニと海開き より 茶割りに地鶏の炭火焼き」も好きですね。韻って基本的に近いもので踏むじゃないですか。

──それは語感や語調という意味の近さ?

いや、対義になってたりとか、意味の違いみたいな距離感ですね。言葉の意味が遠いもので踏むことの面白さに気付いてから、もっと韻を踏むのが楽しくなりました。

──韻の飛距離というか。「都会の夜景よりも田舎の星空 / 食べログの星で選ぶよりも近場の吉野家」なんかは、近いサジェストからどんどん離れていく感じがありますね。

あと「上流階級の買う高級財布 / より価値ある母ちゃんのオムライス」とか。そういうのが形になると、自分でも面白くなってくるんですよね。改めてそういう部分に気付きました。

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「みんな違ってみんな良い」で終わらせるなんてずるいやろ

──「#さすが」には「みんな違ってみんな良いだなんて無責任な発言やめてくれませんか?」というフレーズがあります。これはCreepy Nutsの「みんなちがって、みんないい」を想起させられますが。

Creepy Nutsの曲もイメージにはあるんですけど、一般的によく言う言葉でもあるじゃないですか。

──もともとは金子みすゞの詩ですね。

でも、そんなんで終わらせないでくれよ、ずるいやろ、その「みんな」の中には悪い部分もあるし、っていう。でも、Creepyをベタに攻撃するようなつもりはないんですよ。

──ほかのリリックにもシニカルな部分が強いですが、当てこすりではないと。

そうですね。その言葉自体が自分の中であんまり納得いくものじゃないから、歌詞に落としこんだり、納得のいかないことを納得がいかないと書いてるっていう、単純な感じですね。とはいえ、そこでリスナーがいろんな想像もしてくれてもいいと思うし、自分の皮肉っぽい部分を楽しんでくれればなって。それが俺の武器だとも思ってるので。

──この曲には「人は正義の名の元に残忍になる」という言葉がありますが、GADOROさんのシニカルな言葉は、自分の正義を守るための残忍さからも生まれているのかなと。

このフレーズは、自分の話でもあるし、逆に人の話でもあるというか。正義と思うがゆえに、自分の正義のために気付かぬうちに凶悪になっていたり。でも、人間ってそういうもんだよね、自分もそうだよね、という。このリリックを聴いて、それは俺のことなのかと思ってもいいし、好きなように捉えてくれたらなって。

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これだけ武道館をやるって言ってて、やらなかったら嘘になってしまう

──この先の展望を教えてください。

どのアルバムもそうなんですけど、出来上がったときは「もうこれ以上のものは書けない」と思うんですよね。作ったときは最高傑作だと思ってるし、もうこれを超えるような作品は作れないという自信がある。でも、やっぱり書くべきとき、作るべきときが自分の中に訪れたら、書いちゃうし、作っちゃうし、それが結局、自分にとって最高傑作になる。だから、この先がどうなるとかは本当にわからないんですけど、まずは一生懸命ぶちかましていくしかないのかなって。

──目の前のことを手がけていくというか。

そして、目の前にあることを本気でやっていたら、いろんな新しいビジョンも見えてくるはずだし、とにかくやり続けるしかないなと。これからツアーもぶちかますし、ワンマンもぶちかましたいし、ぶちかませばいつかまた次が見えるやろう、そして、そこで武道館も見えるやろうなって。もうこれだけ武道館をやるって言ってて、やらなかったら嘘になってしまうんで。自分の言葉でケツを叩いてる感じですね。

──日本武道館には2021年9月開催の「戦極MCBATTLE 第24章」のゲストライブで立ちましたが、その感触はいかがでしたか?

「ここにソロで、ワンマンで立ちたいな」と思いましたね。やっぱり、ゲストで呼ばれるライブとワンマンの感情は違うし、もしかしたらみんなが聴きたかったかも知れない「クズ」も、あの日はあえて歌わなかったんですよね。それは武道館でワンマンができる日まで取っておこうと。そういう気持ちでしたね。

公演情報

GADORO リスタート RELEASE TOUR 2023

  • 2023年3月3日(金)愛知県 ORCA NAGOYA
  • 2023年3月17日(金)北海道 UTAGE SAPPORO
  • 2023年3月24日(金)東京都 CLUB CAMELOT
  • 2023年3月25日(土)長野県 MOLE HALL
  • 2023年3月31日(金)兵庫県 ANCHOR night club
  • 2023年4月2日(日)岐阜県 club BLOCK
  • 2023年4月8日(土)福岡県 Cat's fukuoka
  • 2023年4月15日(土)広島県 Club L2 HIROSHIMA
  • 2023年4月28日(金)大阪府 CLUB Ammona
  • 2023年5月3日(水・祝)熊本県 SPACE KUMAMOTO
  • 2023年5月5日(金・祝)岡山県 VESTI Room
  • 2023年5月6日(土)香川県 club nude
  • 2023年5月20日(土)徳島県 R NIGHTCLUB
  • 2023年6月3日(土)愛媛県 CLUB BIBROS
  • 2023年6月10日(土)沖縄県 G+OKINAWA
  • 2023年6月17日(土)宮崎県 Sound Bar Phoenix

プロフィール

GADORO(ガドロ)

宮崎県在住のラッパー。高校2年生のときに般若の影響でラップを始め、以降数々のMCバトルに出場し、功績を上げる。テレビ朝日「フリースタイルダンジョン」には過去3度出演し、MCバトル大会「KING OF KINGS」では史上初の2連覇を達成した。2017年1月に1stアルバム「四畳半」を発売し、収録曲「クズ」が多くの人々の共感を呼んだ。2019年3月には3rdアルバム「SUIGARA」を日本コロムビアよりリリース。2022年11月に自身のレーベル「Four Mud Arrows」を設立し、翌2023年2月にアルバム「リスタート」を発表した。