GADORO|何も見えないからハングリーでいられる

ポルノハブにはお世話になってる

──「この街には俺がいる」で書かれるように、今も宮崎にお住まいですね。

はい。

──ただ「この街には俺がいる」で書かれる宮崎は“盛り上がってる街”としては書かれていませんね。それでもその街に対する愛情をリリックに書く理由は?

リリックにあるように、本当に「なぜだか」なんですよ。30歳になるまでずっと宮崎に住み続けてるのは、やっぱり一番居心地がいいからだろうし。そして、宮崎という街にいるからこそ、ど田舎に住んでいるからこそ、東京やいろんな場所で戦ってるラッパーたちに噛み付いていけたとも思ってるんですよね。逆に大都会で暮らしてたら全然ハングリーになれなかったのかなとも思うんです。

──都会でハングリーに生きるというセリフはよく聞きますが、それとは逆の感覚があるんですね。

なにしろ宮崎には都会みたいにチャンスは転がってない。だから本当に数少ないチャンスに対して勝負しないといけないし、だからこそ誰よりも気合いを入れないと生きてこれなかったと思う。

──GADOROさんから見た現在の宮崎シーンは?

正直、全然うんこです(笑)。宮崎の人も「盛り上げよう」とか「新規の客を呼ぼう!」っていうテンションでもなくて、常連で回ってしまうというか。俺も宮崎以外のライブや仕事が多いんで、つぶさには宮崎のクラブやシーンを見れていないけど、ヒップホップシーンに関してはけっこう厳しいと思いますね。でも、宮崎の女性はきれいです。

──今度行きます(笑)。その街に対して、GADOROさんが「どうにかしよう」という意思はありますか?

GADORO

俺がもっともっとブチかませば、宮崎もおのずと盛り上がっていくんじゃないかな、そうなるだろうなと思ってやってますね。でも「俺が宮崎を盛り上げよう!」とかは正直思ってないです。

──個人的な好みなんですが、「カクシゴト」の「今日もポルノハブで邪念消して書いた歌詞」というリリックの描写力は素晴らしいなと(笑)。

ああ。めっちゃうれしいっす。それは書きたかったんで。俺も歌詞って……えーと、マスターベーションしてから書くことが多くて(笑)。邪念というか……エロい欲求を取っ払ってからのほうが集中できるんですよね。だからポルノハブにお世話になってるし、それは正直に書いておこうと。

──賢者モードになってからリリックに向かうという。

そうですね(笑)。失恋曲である「靴紐」で「1人孤独の中 スペルマが飛び散る その後も恋しい これが愛と思い知るよ」ってリリックも、いいように書いてるんですけど、女性のことを思ってオナニーして、そこで本当に好きなのか嫌いなのか確かめるというか。

──そういった生々しい感情や状況の発露がありつつ、同時に「愛は靴紐のようなものだって自然と解けても自然と結ばれねえ」のようなシンプルでタフな表現の中に直接的すぎないポエジーがあるのが、やはりGADOROさんのリリックの面白さだなと。

「わかりやすくうまく伝える」っていうのが歌詞書くうえでの絶対的なモットーなんです。幼稚園児でも歌詞を聴いて意味がわかるような表現がしたい。すごく難しい言葉とか、比喩表現を使いすぎてしまって「なんのこと?」みたいなリリックってあるじゃないですか。そういうリリックは作りたくないんですよね。共感してくれたり、理解はしてくれなくていい。でも言葉の意味はわかってほしいというか。その部分はめちゃくちゃ意識してますね。

武道館で俺の曲をやったら絶対ヤバい

──アルバム後半の「ハジマリ」と「幸せ」は自伝的な部分を感じさせますね。

「ハジマリ」はこのアルバムの中で最初にできあがった曲で。ikipediaさんからもらったトラックが「なんか卒業っぽいな」と感じて、それで自分の学生だった頃のことを書こうとかなと。だから卒業ソングというよりも俺の小、中、高の生い立ちですね。

──この曲で「次武道館であるときは全員で来てくれ」とラップしてますが、目標の中には日本武道館があるということですか?

武道館は1つの目標ですね。大阪城ホールに立ったときすごく気持ちがよかったんで、さらにその気持ちは強くなりました。「武道館で俺の曲をやったら絶対ヤバいだろ」って勝手に思ってるし、ブチかませる自信しかない。武道館に集まってくれるのが俺のことを全員知らんやつでも逆にブチかましてやれるだろうな思うくらい。大阪城ホールでパフォーマンスしたことが自信になったし、目標がよりはっきり見えたんですよね。

──そして、アルバムは「生きていて良かったと一度でも思えたらきっと笑顔で散れる」と歌う「幸せ」で閉じられます。

小学生くらいのときは怖いこととか、つらいことなんてなにもなくて、ただ無邪気にあるがままに生きちょったじゃないですか。でも大人になっていくにつれて、現実を知ったり、葛藤を感じるようになって。そういう人ってめちゃめちゃ多いと思うし、この曲はそういう気持ちを、自分の思い出を通して代弁したかったんですよね。

──「幸せ」というタイトルなんだけど、2ndヴァース以降はかなりシビアな感触がありますね。

めちゃめちゃ闇を書いてるんですけど、それでも最後に小っちゃく光は見えるような感じで。

──この曲の「瞼には満帆の涙を溜め込み閉じた瞬間に濁流のように溢れる / それは人間の作る最も小さな海 / 大丈夫泳ぎきれる」というリリックは素晴らしいリリシズムでした。

ありがとうございます。「幸せ」っていうシンプルなタイトルなんだけど、内容はすごく詰め込んでいます。

──最後に、原点回帰を図るアルバムを制作して見えたものはありましたか?

見えたものは……ないですね。でも、逆に見えんからこそいいですね。何があるかわからんし、俺がいつ死ぬかも、音楽がどうなるかもわからんし。何も見えんからこそ、ずっとハングリーにやっていけると思うし、それが原動力になってくれると思います。

GADORO