マカロニえんぴつ|リクルート「FYHM」|迷いを振り切ってたどり着いた“素晴らしき世界”

新たな一歩を踏み出そうとする人々を音楽の力で応援するリクルートの企画「Follow Your Heart & Music」。音楽ナタリーでは、この企画を紹介する特集を5回の記事で展開している。

今回は、マカロニえんぴつが登場。彼らは“挑戦”がテーマの本企画のために、数年前から温めていた楽曲「ボーイズ・ミーツ・ワールド」を完成させ、番場秀一のディレクションのもとミュージックビデオを制作した。この曲は4月1日に発売されるニューアルバム「hope」にも収録される。この記事では「ボーイズ・ミーツ・ワールド」の歌詞とサウンド、そしてMV制作に込められた挑戦について詳しく語ってもらった。

取材・文 / 三浦良純 撮影 / 前田立

  5組が「挑戦」をテーマにしたコラボMVは「Follow Your Heart & Music」サイトにて順次公開中。

最近のテイストとはちょっと違う曲

──今回のオファーを受けたときはどう思いましたか?

はっとり(Vo, G)

はっとり(Vo, G) 誰もが知っているリクルートからのオファーなので、純粋に驚いたし、うれしかったです。テーマを知る前はリクルートからの依頼にどんな曲がハマるんだろうって不安もありましたけど、“挑戦”というテーマは書きやすかったし、楽しくやれましたね。

──「ボーイズ・ミーツ・ワールド」はマカロニえんぴつらしくキャッチーでエネルギッシュな楽曲です。どう作り始めたんですか?

はっとり ワンコーラスだけできていた曲がハマりそうだったので、「こんなのはどうでしょう?」と提案したところ、OKが出たので進めていった形ですね。あのワンコーラス、何年くらい前に作ったっけ? 2年くらい前?

田辺由明(G, Cho) 「CHOSYOKU」(2017年12月発売の1stアルバム)のあとくらいかな。

はっとり だから最近のバンドのテイストとはちょっと違うんですけど、それが逆によかったのかなって。こういう勢いのある荒々しい曲は今回のアルバムには入る予定がなかったんですけど、若さを取り戻したというか。

長谷川大喜(Key, Cho) 2年前と今で全然違うからね。

はっとり ちょうど全然声が出ない時期だったから、デモは声がすごく枯れていたんですよ。

田辺 それがまたエモーショナルな感じだった。

はっとり だから完成した曲を聴くとデモとだいぶ違って。荒っぽく歌う努力はしたんですけどね。

──歌い方はその2年の間に変わっているんですね。

はっとり この1、2年ツアーが多かったこともあって、変わりましたね。温存というわけではないんですけど、ライブの本数が多いと力任せじゃない歌い方をしないと声がつぶれちゃうので。

一番つらかった時期を思い出しながら

──ワンコーラスだけだったこの曲が“挑戦”をテーマとする今回の企画にぴったりだと思った理由は?

はっとり 挑戦というものは、全部納得しながらできるものではないと思うんですよ。ちょっとした葛藤や迷いがある中での挑戦のほうがリアル。この曲の、特にギターのサウンドにはそういう葛藤を無理やり振り切ろうとしているような荒々しさがあったので、そこがマッチする気がしたんです。

──「現実を知る大人よりも夢を持った少年であり続けたい」という思いが勢いあふれるサウンドに乗せて歌われています。

はっとり 僕らは企業に勤めたことのない人間ですけど、同窓会とかで友達に会うと、仕事を辞めたいとか職場を変えたいと言っている人も多いし、望んで入った会社でもいつのまにか自分がやりたいことと実際にやってることにズレが生まれてくるのかなって。そんなときは違和感を持った自分の心に従うのが正しいと思うし、純粋に“好き”に向かっていく心を忘れるのは悲しいことだという思いを歌にしました。そういうズレは俺らがやってる音楽にもあることで、やりたい音楽性と求められているものの間で生じた葛藤が解散や脱退の引き金になることってありますよね。今の俺は比較的やりたいことをやれているけど、8年間の中では葛藤もあったので、そんな葛藤があった昔のことを思い出しながら書きました。

マカロニえんぴつ

──具体的にはどのようなズレや葛藤があったんでしょうか?

はっとり ライブのチケットがソールドアウトするようになったのはつい最近なんですけど、過去には思い描いているビジョンと集客との差に悔しくなることがありました。それこそ最初に渋谷CLUB QUATTRO(2017年4月開催「マカロックツアーvol.3 ~芯トンガっていたい編~」ツアーファイナル)でライブをやったとき、理想との差をえらく痛感して。

田辺 そうね、あのくらいのタイミングが一番つらかったね。

はっとり 「s.i.n」っていうミニアルバム(2017年2月発売)はタワレコメンに選出されたり、バイヤーさんにすごくいいねって言ってもらえたんですけど、それと反比例するかのように客足は遠のいていって。

長谷川 周りの言ってることと集客の差がね。

はっとり 曲調も変わったタイミングだった。それまで自分たちは四つ打ちの邦ロックに括られるシーンにいて、その方向に向かってたんだよね。お客さんもそういう音楽を求めている子たちが多かったのに、「s.i.n」では自分たちがやりたいことをやったもんだから「これは別にいらないかな」ってなっちゃったんだと思う。

田辺 でも俺らにとってはめちゃめちゃいいアルバムで。

長谷川 渾身の1作だった。

はっとり だけどクアトロには350人くらいしか入らなくて、次のワンマンはキャパを落とすということにもなり……悔しい気持ちに加えて、恥ずかしい気持ちもあったんですよね。「ああ、キャパ落とすんだ。このバンド売れてないんだ」って思われるなと……。

長谷川 世間体を気にしちゃうとね。

──それでもやりたいことを追求したからこそ、翌年にクアトロを満員にすることができたわけですよね(参照:マカロニえんぴつ、満員の渋谷クアトロで新たなスタート切る)。

はっとり 続けられる環境にいたことが幸運だったんですけどね。そこで嘘をついて、媚を売った曲を書いたところでしんどくなるだけ。1回振り切って「s.i.n」を作ったんだから、この方向で行こうと決めて次作の「CHOSYOKU」でも好きなことをやらせてもらいました。求められるほうに流されず、自分たちが楽しいと思うほうを選んできた結果が今。「ボーイズ・ミーツ・ワールド」では「『いいかい、寝ぼけてでも現実をこなせ』 僕や僕以外へのメッセージ 響かないな、どこを取っても」と歌っていますけど、“こなす”ことはしたくないんです。“楽しい”は難しいからこそ発生すると思うから。

──なるほど。この曲の歌詞について、サビの「素晴らしきこの世界」という言葉が最初は皮肉のように聴こえていたのが、最後はストレートに世界を肯定する言葉として響いているように感じました。

はっとり この世界には敵も多いけど、味方も絶対いるんですよ。俺たちもいろんな人に力を貸してもらってここまで来たし、まったく捨てたもんじゃないというか。どうしても悪いことばかりを溜め込んでしまいがちですけども、本当は素晴らしいんだって。そうやって肯定しないとしんどいですよね。思ってなくても、言葉で言ってみるだけで違うし、そういう意味で背中を押せたらなと思って書いたメッセージソングです。