fuzzy knot「BLACK SWAN」インタビュー|闇と向き合い、ダークサイドを全面開花 (2/2)

ダークはダークでもいろんなジャンルを

──「カミカゼスピリット」は、個人的に今作で一番好きな楽曲でした。

田澤 サウンドがカッコいいですよね!

──特にリズム隊が素晴らしいですよ。

田澤 これベースはShinjiやろ?

Shinji 僕ですね。実はギターだけでなくベースも弾いてるんですよ。

──あ、そうなんですか!

Shinji fuzzy knotでは、作曲も演奏もアレンジもするので忙しいんです(笑)。しかもギターとベースって、弦の太さ的に指に当たるところが違って。ギターで強靭になっているのとは違う部分が当たるから、指がけっこうな水ぶくれになってしまうこともあって。そういう面でもレコーディングは大変でしたね。

──この楽曲を作られたきっかけはなんだったんですか?

Shinji ダークという一貫したテーマの中でも、いろんなジャンルの5曲にしたいと思ったんですよね。あとは1stアルバム「fuzzy knot」もそうでしたけど、テンポや暗さや明るさなど、細かくメモしながら曲作りをしていったので、やっぱりこれまでになかったテンポ感を出したいなと。あとは基本的にマイナー調というのは意識しましたね。

──サビのメロディがとにかく気持ちいいですよね。

Shinji いいですよね。サビの流れのまま終わってもよかったんですけど、さらにラストのサビで変わるのが個人的に気に入ってて。ノリのいいメロディラインだったのが、ちょっと切ない雰囲気になる。もっと聴きたいけど、それで終わっちゃう感じがいいなって。

Shinji(G)

Shinji(G)

田澤 歌詞は僕が会社員だった頃を思い浮かべて書いたんですけど、僕は高校入学直後に退学して社会人として働き出したので、長い間「最近の若いもんは」と言われながら生きてきたんですね。昔って、苦難も根性論とか気合いでなんとかなると言われていたんですよ。それに対して疑問を抱きながら「ふざけんじゃねえよ」という気持ちで生きていた。だけど今、自分がその先輩風を吹かす立場にいるのかも、と思って。「最近の若い奴は」と思いがちな自分に気付いた。だから最後にサビのメロディが変わって、自分も先人が僕に浴びせ続けていたフレーズを自分も歌い出すのかもしれんと、危機感を覚えて曲が終わるという。

──まさにShinjiさんの狙いと合致していると。

田澤 今、Shinjiの話を聞いてビックリしましたもん。

──ちなみにタイトルの「カミカゼ」というのは、特別攻撃隊のことですか?

田澤 そうです。今でこそ心の病が病気と認められるようになりましたけど、昔も心が弱っている人は大勢いて。以前は「気合いが足りない」「根性がない」「意志が弱い」と一蹴されてた。日本男児たるもの、みたいな。それって「お国のために人間魚雷になってこい。それが誇りなんや」と言われていた時代とあんまり変わらんかもな、と思った。そういう精神のループがあるとしたらそこは断ち切らないとあかんのちゃうんかなって。正義と正義がぶつかるのが戦争だとしたら、そんなのはそこいらで起こっているわけですよ。捉え方が大袈裟すぎるのかもしれないけど、そんな世界で自分を保ちながら生きていく難しさを僕は日々感じている。それをライトに「あ、俺もあんなに嫌っていたことを自分もやってるかも」という危機感に置き換えましたね。

──ほかの楽曲は闇から光に這い上がろうとする歌詞でしたが、「哀歌 -elegy-」は光から闇に落ちていきますよね。

田澤 これはシンプルに喪失がテーマですね。ひねりはなくて、大切な人をなくしてしまったことをただただ歌っています。後悔に気付いただけいいんでしょうけどね。でも、今回は曲の魅力を引き立てるために、喪失したまま締めくくりました。

Shinji もう少し今時っぽさを意識した音もあったんですけど、親父くさいUK感とブルージーなフレーズをあえて入れて、渋みを出しました。最近YouTubeを見ていると、若い人でおっさんぽいギターを弾く人が多いんですよ。じゃあ、こっちはもっと渋いギターを弾こうと思って(笑)。

ハロウィンライブをやりたい

──改めて「BLACK SWAN」はお二人の中でどんな1枚になりました?

Shinji fuzzy knotは曲数がまだまだ少なかったので、今回はどんよりしつつも、ライブで盛り上がる曲というのは意識しましたね。

田澤 根性論みたいで嫌ですけど、自分と深く向き合ってしんどい思いをした甲斐があったなって。効率よく生きたいけど、作品に対しての真心と愛着は失いたくないなと再確認できた1枚だと思います。あと、改めてShinjiってすごいなと思いました。僕らっぽさがありながらも、新しい感じがあるし、もう何をやっても大丈夫なところに来つつある。レーダーチャートで言うと新しい角ができたような、僕らの可能性を広げてくれた1枚になったんじゃないかなと思います。俺の印象やと、今回はデモから与野っち(与野裕史)のドラムがイメージできたよ。それはライブをやった経験が出ているのかなと思った。

Shinji 確かに、与野くんの音はかなり意識したかも。ツーバスとか得意そうだもんね。

田澤 「こころさがし」を作った頃は、そういうのが見えてなかった。だけどライブを重ねていった今は、音の中に与野っちが見えるんですよね。それはライブで一緒に音を出した証かなと思いますね。

──1月のワンマンライブを観に行きましたけど、fuzzy knotがユニットではなくてバンドになっていってる印象を受けました。

田澤 それこそZepp Tokyoでやった1回目のライブ(「fuzzy knot Live 2021 ~Beginning of knot~」)は、まだ演奏ばかりに集中していたかもしれないです。やってみてわかったことを年末の武道館(「JACK IN THE BOX 2021」)で修正して、そこで見えたことを東阪ライブ(「fuzzy knot Live 2022 ~S.T.F.~」)で生かした。その結果、変わっていった感じがします。正直、初めてのライブは間違えないようにしなきゃ、と思ってましたね。

Shinji うんうん。初めて田澤さんとライブをやるのに、演奏が下手だったら「こいつ大丈夫かな?」と思われるプレッシャーがあったよ(笑)。

田澤 アハハハ。それは俺もそうよ。でも今は変な意味じゃなくて、間違えたらそれでええがなと思える余白ができてきた。じゃあ、その余白に何をねじ込んでいくのかが僕らの課題ではあります。どんどんいい雰囲気になっていってると思いますね。

田澤孝介(Vo)

田澤孝介(Vo)

──8月から始まる「fuzzy knot Tour 2022~BLACK SWAN~」は、どんなツアーにしたいですか?

田澤 うちらのライブってけっこうガイドラインが厳しめだと思うんですよ。そんな中でいかにノリを作っていくのかが課題ですね。できる範囲の中でどうやったら一番楽しめるか。初めてライブをする土地が多いので、本当にツアーらしいライブをしたいですし、メンバー間の仲も深めていきたいと思いますね。

Shinji 「BLACK SWAN」が出ることによって、fuzzy knotが攻撃的な感じになる気がするんですよね。見た目でも攻めた感じにしたい。あと、田澤さんの言う通り、サポートメンバーともどこかしらで一緒に食事がしたいですね。ただ単にお酒を飲みたいわけじゃなくて、やっぱりそういうことで絆とかグルーヴも絶対に生まれるから。許されるならツアー中にどこかでね。

田澤 そうやね。「この人が何を好きなんだろう」とか「これをされたらうれしいんだな」とか、そんなんがわかるだけで音もけっこう変わってくるんですよ。だからメンバーのことをもっと知りたいですね。

──さらに先の話で言うと以前のインタビューで「いつかは日本武道館に立ちたい」と言ってましたよね。

Shinji 僕は、あんまりいろいろやりたいと思わないほうなんですよ。シドのメンバーが新しいことに挑戦する中でも、自分だけは頑なにやってこなかったんです。だけどいろんな人に背中を押されたのもあって、やるんだったら自分は絶対に半端なことはやりたくない。もちろんシドをやってるときはシドに全力を注いでますけど、fuzzy knotをやってるときはシドを超えるくらいの勢いで楽曲を作りたいし、ライブもやりたい。戯言みたいになっちゃうかもしれないですけど、やるんだったらアホみたいにデカい夢を掲げたほうがね。ベテラン風を吹かせて腰を据えるんじゃなくて、バリバリやって行きたいんですよ。だから目標も大きな場所に設定しました。あと……今日お話して思ったことがあって。

──なんでしょう?

Shinji 僕はハロウィンパーティとかにぎやかなことがあまり好きじゃないんですけど、「Inferno」は仮装が似合う曲だなと思っていて。ハロウィンライブをやりたいなと思っちゃいました。

田澤 ええやん! また新しい扉が開いちゃったね!

ライブ情報

fuzzy knot Tour 2022 ~BLACK SWAN~

  • 2022年8月11日(木・祝)埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
  • 2022年8月20日(土)宮城県 darwin
  • 2022年8月27日(土)福岡県 DRUM Be-1
  • 2022年8月28日(日)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2022年9月11日(日)愛知県 ElectricLadyLand
  • 2022年9月25日(日)神奈川県 新横浜 NEW SIDE BEACH!!
  • 2022年10月9日(日)東京都 新宿BLAZE

プロフィール

fuzzy knot(ファジーノット)

シドのShinji(G)とRayflowerの田澤孝介(Vo)によるロックユニット。Shinjiがもっとも影響を受けた1990年代の音楽を織り交ぜつつ、ジャンルに縛られない音楽を発信することを目的に始動した。作曲はすべてShinji、作詞は田澤が手がける。2021年4月に1stシングル「こころさがし」を配信限定でリリース。6月には1stアルバム「fuzzy knot」を発表し、同年11月に初ライブを東京・Zepp Tokyoで開催した。2022年7月に1stミニアルバム「BLACK SWAN」をリリースした。