シドのShinji(G)とRayflowerの田澤孝介(Vo)によるロックユニット・fuzzy knotの新曲「Set The Fire !」が先行配信された。
11月14日に東京・Zepp Tokyoで初ライブを行い、MCで「fuzzy knotは突っ走っていきます」と高らかに宣言していた2人。そのライブで初披露された「Set The Fire !」は、ブラスサウンドを取り入れたファンキーなアッパーチューンで、fuzzy knotの新たな一面を感じさせる勢いのある1曲だ。
年末には東京・日本武道館で行われるライブイベント「JACK IN THE BOX 2021」に出演し、2022年1月には初の大阪公演を含むワンマンライブを控えている彼ら。“大型新人”として今年6月にデビューした2人は、先日の初ライブでどのような手応えを感じ、これからの青写真を描いているのか。新曲の制作エピソードとともに聞いた。
取材・文 / 真貝聡ライブ写真撮影 / 江隈麗志
田澤とShinjiがいいと思った音楽をやる
──改めて初ライブおつかれさまでした(参照:fuzzy knotがZepp Tokyoで初ワンマン、最高のスタートを切った「Beginning of knot」)。ライブの場内BGMで、Shinjiさんが昔から「神のような存在」と言っているBOØWY、氷室京介さん、布袋寅泰さんの曲のみを流していたのが印象的だったんですけど、あの選曲には何か意図があったんですか?
Shinji(G) 世に出て数年目とかだったら、あの選曲にはしなかったと思うんですよ。一番好きなものって、あまり人に言いたくなかったりするじゃないですか。でも僕はギターを始めて30年くらいになるし、もう時効かなって。目指しているのはBOØWYじゃないし、布袋さんでも氷室さんでもなくて、結局は自分らしい音楽。こうやって自分のわがままで始めたプロジェクトだからこそ「こういう音楽が好きなんです」と提示するのもアリかなと思ったんです。とはいえ、僕1人の意見を押し通すのもよくないので、あらかじめ田澤さんに確認をしまして(笑)。
田澤孝介(Vo) 僕としては断る理由などないので「好きな曲を流しちゃいなよ!」と言いましたね。
Shinji 今度は田澤さんの好きな聖飢魔IIを流したいよね。
田澤 今、まさに俺も言おうと思った。
──ほかにも、田澤さんがMCでジョージ・バークリーの「誰もいない森で倒れた木は、音を出したか?」について話をされたのも強く印象に残っていて。コロナ禍で有観客ライブが難しくなった時代に、同じ空間で音楽を共有できる喜びを伝えたかったのもあると思いますけど、音楽の道へ進むために高校進学を辞退して、ライブハウスで歌い続けてきた田澤さんにとって「ステージは自分の生きる場所なんだ」と示した言葉にも思えたんです。
田澤 まさにおっしゃった通りですね。自分の音楽に対する思いを、あれだけ不特定多数の人にぶちまけるのって、大袈裟かなと思ったりもしたんです……なんですけど、ライブハウスで生きてきた人間として、ステージに人生を捧げてきた人間として、お客さんの前で歌える喜びを分かち合いたくて出た言葉でした。
──それだけ思いの強いステージに立ってみて、fuzzy knotのお客さんはお二人にどう映りましたか?
田澤 新しいプロジェクトあるあるなんですけど、まだお互いのファンが気を遣いあってる感じがしましたね。あとは声が出せないとか、いろんな制約がある中で、ルールを守りながら精一杯楽しもうとしてくれて。そういう意味でもいい人たちだなって印象を受けました。この人たちとなら、これからもいい空間を一緒に作っていけるだろうと。明るい未来を感じられる、これからが楽しみな方たちが集まってくれたなと思いました。
Shinji 田澤さんがMCで言ったように、やる側としては「時勢的にこういうルールで楽しんでね」と制限を促すんです。だけど「拳を肩までしか上げちゃダメですよ」と制限しても、気持ちを抑えきれずに思いっきり拳を上げて楽しんでくれているお客さんの姿を見ると、内心は「よっしゃ!」と思っちゃうんですよ。こっちは一生懸命、曲を伝えようと演奏してるから、本来はダメなことなんですけど、お客さんの気持ちを動かせた瞬間を見れてうれしかったですね。
──終演後にShinjiさんが「周りから古いと言われようが、自分のやりたいことをしたい。それこそがfuzzy knotなんです」と話していましたよね。10年前のソロインタビューでは「シドは自分のやりたいことをやっているだけじゃダメだと思っている。目指しているのがアンダーグラウンドじゃないので、自分の好みだけを通していたんじゃ多くの人に伝わらない」と言っていたからこそ、今になって「好きなことをやる」と思われたのは何がきっかけだったのかなって。
Shinji そもそも僕は、シド以外で個人活動をするつもりがなかったんです。でも、最近になって自分自身で何かを成し遂げる体験をしたいと思うようになりました。偉そうですけど、わりとベテランの域に足を突っ込んでいる状況で、改めて「自分に何ができるのか」「自分の持ち味はなんなのか」を制限なしでやりたい。例えそれが古いものになったとしても、fuzzy knotは田澤とShinjiがいいと思った音楽をやる。周りから見てダサいことでもなんでも、自分たちは絶対にいい音楽だと信じてやっていこうと。
──それが活動の原点になっている。
Shinji ええ。結成当初に「fuzzy knotは90年代の音楽をやるユニット」というキャッチコピーを“大人”の手によって付けられたんですけど、正直そうは思っていなくて。「やりたいことをやる」というのが個人活動をするうえで一番の醍醐味だと思っているので、90年代とか縛りを作ってしまったら儚く感じてしまうんですよ。もちろんコンセプチュアルなものは大事ですけど、今後の曲作りでも「90年代の音楽を作らなきゃ」とか、そういう縛りの中で曲を作りたくないですね。
死ぬまでロック
──好きなことを発信する活動を1年間みっちりと経験されて、どんな手応えを感じていますか?
Shinji 自分のやりたいことだけをやるのって、もっと簡単だと思っていたんですけど、やっぱりなんでも本気になると制作は大変だなと思いました。時間が十分にあるわけでもないし、限られた時間の中で自分の好きなことをやるのが苦しかった時期もありました。それでも人から「fuzzy knot、いいね」と言われたときは本当にうれしいんですよね。
田澤 Shinjiの言った通り、好きなようにやるのって難しくて。「やりたいようにやる」とは言っても、どうしても考えなければいけないことがたくさんある。そんな中で、自分の中から出てくるものと純粋にひたむきに向き合うShinjiの物作りに対する姿を見て、すごく感銘を受けましたね。こんなに真面目で、こんなに子供のような純粋さを持っている人は見たことがない。そんな人と一緒に音楽をやれたからこそ、自分の中にいたであろう少年心を起こすことに成功した。だから、fuzzy knotをやっていてめちゃくちゃ楽しいです!
──個人的には、お二人が真剣に好きなことをやる姿を見ると、勇気をもらえるしうれしくなるんですよね。
田澤 その感想を聞けて僕らもうれしいですね!
──僕は30代前半なんですけど、つい打算的になるときがあって。この仕事をやるとどんな見返りがあるのかとか、数字も含めて損得勘定で考えてしまうことがあるんですよ。
田澤 あー、なるほどね。僕だってどっちもありますよ。数字も見るし、好きなこともしたいしっていう。ちょうど、僕も30代前半の頃はどれが正しいんだろう?と精神的な冒険に出ていた気がします。言ってしまえば、自分探しというかね。
──その冒険は、どのタイミングで終えたんですか?
田澤 終えられてんのかな?(笑) でも、40歳手前かな。このタイミングで自分のやりたいことをやる理由って、後悔をしたくないからだけの気がしていて。人間としてではなくて、音楽家として死んだときに「やっておけばよかった」と思いたくないんですよね。で、40歳手前って自分の死を射程圏内に捉えられる年齢なんですよ。いつまで音を鳴らせるのかはさておき、20年経ったら60歳なんですよね。そのときに音楽家として生きてるかは謎。60歳になっても音楽を続けることはできるけど、「木が倒れた」の話と一緒で、聴く人がいないと音楽家として成立しないわけで。そういう意味で、音楽家として死んだときに悔いが残らないようにしようと、40歳くらいで思ったんですよね。それが音楽活動の根本にあるから、ソロをやろうとか、誰に何を言われようがいろんなバンドや形態で音楽をやったろうと、そういう考えに至ったんです。
Shinji その話を聞いて思ったのが、僕のおとっつぁんが死んだのは52歳のときだったんですよ。僕の年齢は非公表にしていますけど、そんなに遠くない未来に死ぬ可能性だってある。
田澤 そうやな。
Shinji うん。遺伝子も父親寄りの気がしているから、そう考えると、今やりたいことをやっていかないと体が動かなくなったらアレだしね。僕の考えとしては、60歳になってもめちゃくちゃ頭を振るおじさんでいたくて。60歳で一番頭を振った人、みたいな(笑)。世間一般的に60代でロックをやってる人って少ないと思うんですけど、自分の中ではロック魂を絶やしたくない。そういうものに導かれてバンドマンになったし、家族にさんざん反対をされても続けてきた。だから死ぬまでロックをやりたいですね。
田澤 うん。そういう生き方はホンマにカッコいいと思う。
さすがShinji!
──そんなお二人の振り切った生き方を、今回リリースする2ndシングル「Set The Fire !」からも感じました。
Shinji まさかZepp Tokyoで初披露できるとは思わなかったですけど、もともと広い会場で演奏することを想定して作ったんですよ。あとは田澤さんのRayflowerやWaiveのライブを観に行ったとき、センターで不動で歌っている姿がすごくカッコよかったから、一歩も動かずに歌って映える曲を想像して作曲しました。
──歌詞については「ラララ Round & Round」などの語呂の気持ちよさや、「めっちゃ吠ゆ(for you)」と日本語で英語の響きを作るとか、音を重視してワード選びをされている印象があって。
田澤 極端な言い方をすると、この曲は意味とかどうでもええやろみたいな(笑)。この曲に対して、何か強いメッセージを言ってやろうと思うこと自体がナンセンスである、という感覚なんです。だからおっしゃる通り、音の響きで作詞をしました。とはいえ歌詞にまったく意味がないのは嫌なので、「あの子のハートに火をつけろっていうことを言いたいの?」みたいなことが伝わればと思いましたね。あと2番で「1、2、3、ダー!」と歌ってるんですけど、これを“合法”で言いたかったんですよ。
──歌詞には「位置に雷鳴?」と書いてありますね。
田澤 アントニオ猪木さんの「1、2、3、ダー!」って商標登録をしてるから、そのまま歌えないんですね(笑)。だから空耳で聞こえるやん!というのをやりたくて。それぐらい遊び心豊かに歌詞をしたためましたね。韻を踏みたいときは、目の前に広辞苑的なのを置いて、使えそうな言葉を探していく。そういう意味で「Set The Fire !」の作詞作業はゲーム感覚に近くて。比較的に楽しんで書きました。
──fuzzy knot史上もっともアッパーな曲だと思うんですけど、お二人にとってはどんな位置付けの楽曲でしょうか。
田澤 「ライブ映えする曲が欲しいよね」くらいの軽いテンションの話から出てきたのがコレだったので、「さすがShinji!」の一言でしたね。
Shinji 四つ打ちの曲が欲しかったんですよ。これまで作った中で四つ打ちに近いものと言ったら「こころさがし」がそうですけど、あれはキャッチーというよりもメロ押しの曲なので。そうではなくて吐き捨てるような歌というか、そういう意味での盛り上がれる曲。今はライブでジャンプとか自由に盛り上がれないですけど、近い将来お客さんが跳んでる姿を見たいなと思って作りましたね。
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ライブで一番ピリついた「ペルソナ」