fuzzy knot|原点を見つめ直し、わがままに作り上げたセルフタイトル作

シドのShinji(G)とRayflowerの田澤孝介(Vo)によるfuzzy knotが、ユニット名を冠した1stアルバムをリリースした。

1stシングル「こころさがし」は1990年代のJ-POPを想起させるキャッチーでさわやかなサウンドが特徴だったが、アルバムにはハードロック、ジャズ、ブルースなど多様なサウンドを盛り込んだ楽曲が収録されており、fuzzy knotの音楽性の幅広さが感じられる。Shinjiと田澤の相性のよさも伺える本作はどのように作られたのか。各曲の制作時のエピソードを2人に語ってもらった。

取材・文 / 真貝聡 撮影 / 上原俊
メイク / 青柳正和 スタイリング / 小田優士
衣装 / Karaln、S.O.S fp

全部がfuzzy knotと言える仕上がり

──今年4月にリリースされた1stシングル「こころさがし」のファンや周囲からの反応はどうですか?

田澤孝介(Vo) 関係者の方もそうですけど、シンプルに「いいね」という声がとても多かったです。やっぱり音楽仲間というのは手放しで褒めるよりも、何かちょっと意見を言いたかったりするじゃないですか(笑)。

──純粋なリスナーではなくて、プロ目線で聴いてしまうからですよね。

田澤 そうそう。やっぱり音を聴く耳が一般の方たちと違うというか、プロだからこそ「いい曲だけど、ここはこうしたほうが……」みたいな細かい意見を言いたくなると思うんです。そういう意識を飛び越えて、単純に「いいね」と受け取ってくれている状況がすごくうれしいですね。

Shinji(G) 「こころさがし」だけを聴いたら、わりと「fuzzy knotはさわやか系でいくのかな」って想像すると思うんですよ。だけど、アルバムの中では「こころさがし」が逆にイレギュラーに感じる気がしますね。

──アルバムを通して聴いたときに「こころさがし」がまた違った曲に聞こえました。

田澤 それそれ! その声が欲しかったんです。やっぱり聞こえ方が変わるっていうのは、アルバムだからこそ生まれるコントラストですよね。アルバムに入っている10曲はそれぞれジャンルも内容も違うから「どれがfuzzy knotだろう?」と思われるかもしれないけど、「どれというよりも全部なんだよ」と言える仕上がりになっています。

楽しいと思えるのは貴重

──収録曲はどのように決めていったんですか?

Shinji アルバムの曲順は、ほぼほぼ作っていった順番になっていて。ライブを想像しながら「次にこういう曲が来たらいいな」という感じで進めていきましたね。

──じゃあ、最初の突破口になったのが1曲目「深き追憶の残火」だった。

Shinji そうです。1曲目を考えるのは、ものすごく時間がかかりましたね。やはり初めて田澤さんに歌っていただくので、最初のデモを送るのってけっこうドキドキするんですよ。田澤さんはどう思うだろう?と「深き追憶の残火」のデモを渡したら、すぐに「いいね!」と言ってくれて。そこから吹っ切れて、バンバン曲が生まれていきました。ただ、最初に「深き追憶の残火」を聴いて「こういう路線でいくのかな」と思ったよね?

田澤 そうやね。わかりやすく言うと1曲目は「こころさがし」みたいな楽曲が来ると思っていたから、和っぽいテイストなんや!とは思いましたけど、同時にShinjiくんのソングライティングの幅の広さを感じましたね。

──作詞はどのように取り組まれたんですか?

田澤孝介(Vo)

田澤 実は僕、歌詞を書くのがあまり好きじゃないんですよ。

──え、そうなんですか?

田澤 文字に起こすと「歌詞を書くのが嫌い」みたいになりますけど、そうじゃなくて。むしろ好きなんですよ。だけど歌詞がうまく書けないときに、その現実ととことん向き合わなければならない。「ホンマに能力ないわ」と自分を責めてしまう。

──いわゆる、生みの苦しみですね。

田澤 そうそう。書けないつらさと戦うのが好きじゃないんです。だけどね、今回は作詞をするのが楽しかったんですよ。この感覚は初めてかもしれない。作詞もそうだし、レコーディングもホンマに楽しかったですね。

──長いキャリアを積んでいる田澤さんが言うと、重みがありますね。

田澤 音楽を仕事にするうえで「楽しい」ってすごく貴重なことやと思うんですよ。やっぱり重圧のほうがデカいので、ライブをやっている瞬間、曲を作っている瞬間、レコーディングをしている瞬間も「楽しいのか?」と聞かれると、むしろ楽しいよりもつらいことの方が多い。作品が世に放たれて、自分のやったことが誰かのためになっていると思えたときに、ようやく報われるんですよね。だから音楽家が音楽をやっていて楽しいと思えるのは貴重。振り返ると「深き追憶の残火」も書いてて楽しかったですよ。

音像に導かれながらの作詞

──2曲目「ダンサー・イン・ザ・スワンプ」は、出だしからトップギアで走り出していくような曲ですね。

田澤 これは僕の知っているShinjiくんっぽさを感じましたね。「深き追憶の残火」もそうやけど「ダンサー・イン・ザ・スワンプ」も最初とサビメロが変わったよね? 仮歌を入れた音源を渡したら「やっぱりサビのメロディを変えるね」と言われて。第2稿が届いたときに「この曲は英語よりも日本語の歌詞がいい」と強く言われた気がする。

Shinji そうだね。最初に送ったサビメロは英語のほうがハマりがよかったと思うんですけど、サビを変えたことによって日本語のほうがいいなって。そういう流れがあったので、田澤さんに日本語の歌詞をお願いしましたね。

田澤 この曲はジャズの匂いがするけど、これをジャズと言い切ってしまうのは違うんでしょ?

Shinji ちょっと違うかな。

田澤 ジャズっぽい匂いもするし、ロカビリー感もある新しい感じだよね。

──それに、大人っぽさと妖艶さを孕んでいるサウンドに感じました。

Shinji そうですね。それこそ僕は1980年代から2000年代くらいまでの音楽がすごい好きで、特に80年代は暗い曲が多かったりして、そういうのが沁みるんですよ。

──あと、田澤さんの艶っぽいボーカルも魅力的ですね。

Shinji これは歌唱力があってこそですね。高いキーを優しく歌うのって、一番難しいんですよ。

田澤 そうやね。まあ、たまたま歌いやすいキーだったのもあるし、結局は音像に導かれた感じですね。

──曲の力に引き出された。

田澤 はい。それは歌詞にも共通することで、この曲のデモの音源ファイル名に「ダンサー」というワードがあって、それを軸に踊り子というよりは“踊らされ子”を書こうと思って作詞をしました。男に振り回されている人にも見せつつ、そうではなくて両方の側面があるっていう。スワンプは沼という意味なんですけど、わりと流行とか世の中の流れに翻弄されている人かと思って解釈すると、また違った画が浮かぶ内容になっています。

──「ダイナマイトドリーム」はインドのラーガロックの印象を受けました。

Shinji 民族的なフレーズを多用したら、メロディラインもそっちの毛色が入ってきましたね。僕の傾向としてはわりと切ない曲が得意だったりするので、自然に作ると元気のない雰囲気の曲ばかりが増えてしまうんです。なので、3曲目から明るいのを作ろうと意識して。

田澤 それで明るくしたんやね(笑)。僕も力を抜いて歌詞を作ろうとしたら、悲しみを帯びた暗い雰囲気になる傾向があるんですよ。なのでテンションを明暗の明に向けて書きましたね。そうは言っても、無理に明るくしてもバレるじゃないですか。なので明るいことを言ってそうで、そんなに明るいわけでもなくて。

──タイトルはどのように考えたんですか?

田澤 仮タイトルが「ダイナマイトドゥリーム」やったんですよ。この曲には「夢を持っていること自体が素晴らしいんじゃないか」という裏テーマがありまして。叶おうが叶うまいが、何かを目指して夢を持って人生を生きていくこと自体が、日常を潤したり輝かしいものにする。目指すものがあるだけで、生き生きするじゃないですか。「夢を持ってドカーンと爆発させようぜ」ってメッセージに、実は「ダイナマイトドゥリーム」ってけっこうハマってないか?と思って。それで小さい「ゥ」を抜いて、このタイトルになりましたね。