fuzzy knotは一番意味のない名前
──そんな互いの音楽性に惹かれ合う2人のユニットであるfuzzy knotという名前には、どういう意図があるんですか。
Shinji 候補が5つくらいあったんですけど、その中でも一番意味のない名前を選びました(笑)。
──意味のない名前。
田澤 直前まで別のユニット名でいこうとしてたんですけど、Shinjiくんが「ライブのときも言わないといけないんだよ! もういっぺんよく考えよう!」って(笑)。
Shinji 最初は「36パーセンツ」というユニット名が第1候補にあって。36%はラーメン屋さんの原価率を1%超える数字という意味なんですよ。
──Shinjiさんはガラからスープを作るほど、ラーメン好きですからね。
Shinji つまり1%を超えてでも提供しますよ、という志の言葉だったんですけど……ダセエな!って(笑)。最近は変わった名前のバンドが多いじゃないですか。「それって曲名じゃないの?」みたいな名前も多いから、一瞬はそういうアプローチもいいのかなと思ったんです。だけど、やっぱりカッコいい響きがいいと思ってfuzzy knotに決めました。
──資料に「fuzzy knotの意味は曖昧な結び目」と書いてある通り、柔軟性がありますよね。
田澤 意味はしっかりあるんですけど、それを出さないというか。曖昧くらいのほうがよくて、「最後にキュッと結ぶのは聴いてくれた方、どうぞ」という感じなんです。その姿勢は作品作りにも精通している。ノリで決めたんですけど、今となってはこんなにピタッとくる名前があるだろうか、と思ってます。
──そして4月26日には「こころさがし」でデビューされるわけですけど、これは最初にできた曲なんですか?
Shinji いや、7番目くらいにできた曲ですね。
──この曲を一発目に発表するのは、どういう理由からですか?
Shinji どんどん楽曲を作っていく中で、7曲目あたりが一番力を抜いて作れたんです。わりといろんなレパートリーの曲がそろってきたタイミングで「そろそろ遊んでみよう」と思ってできたのが今作でした。それで田澤さんと相談しながら、まずは「こころさがし」を発表することにしました。
──どんなことを意識して作曲しました?
Shinji 僕の経験上、BPM130から140くらいのダンスビートの曲ってライブが盛り上がるイメージがあって。縦に揺れやすいようなノリで、キャッチーかつポップな作品を作りたいなと思って、まずはイントロから考えました。それからAメロとか四つ打ちのリズムで広がっていく構想まで浮かんだんですけど、サビのメロディで行き詰まって。それで相談も兼ねて田澤さんにデモを送りました。そしたら「すごくいい!」と言ってくれて。
──デモをお聴きになった印象はどうでしたか?
田澤 悩んでいたなんて微塵も感じなかったですね。シングルにするならどれか?と考えたら、一番にこの曲やなと思いました。どれもいいんですけど、2人のやっていることが一番伝わりやすいのはコレちゃうか?と。
──アレンジについてですけど、今作はギターの音がかなり細かく入ってますね。
Shinji シドでこういう曲を作るなら、電子音を入れることになるんですよね。でもfuzzy knotはギターユニットなので、あくまでギターを生かしたアレンジにしたかった。付点8分音符、付点4分音符のディレイがかかっている音を普通に弾くとああいう音になるんですけど、昔からよくある奏法で、それをふんだんにやった感じですね。解説としては……それしか言うことがないかな(笑)。
田澤 アハハハハ(笑)。
Shinji というのも、この曲って何か特定のジャンルじゃないんですよ。“ザ・ポピュラーソング”というか。
田澤 そうやんな。
Shinji 説明が難しいですね。
──確かに、これは形容しがたいというか。
Shinji そうそう。強いて言えばJ-POPですよね。僕は日本のポピュラーソングがすごい好きで。インプットのためにいろんな洋楽も聴くんですけど、やっぱり帰ってくるところは日本のいいメロディの曲なんです。「こころさがし」はそれを存分に表現してますね。
田澤 で、楽曲が概ねできあがったら仮歌を入れるんですけど、サビの「季節は巡り 夢ひとひらよ」は最初から歌っていたんじゃないですかね。そこから意味を持たせていくために、本格的な作詞作業に移りました。
わかりやすさだけがすべてじゃない
──作詞にはかなり時間を要したとか。
田澤 fuzzy knotとして最初に世に出る作品だからという意気込みもあって、なかなかOKが出せなかったですね。果たしてこれでいいのだろうか?みたいな。で、試行錯誤した結果、やっぱり歌詞という部分においての原点に帰ろうと思いました。わかりやすさだけがすべてじゃないだろうって。
──歌詞の内容がまさにそうですよね。
田澤 田澤という人間が歌詞を書くときに、「どう見られるのか?」とか「どういう表現をする人と思われたいのか?」とかが作業中にも頭にあって。でもそれはとても邪念だなと。そうではなく、Shinjiくんの書いた曲はどうすることで生きるのか考えるのが、僕がfuzzy knotで作詞をするうえでの使命だろうと。ということは、仮歌ではめた言葉たちがきっと自分の中にあるメロディを生かす言葉じゃないだろうかと考えて、そこに沿って作詞しました。掘り下げたら意味はあるんですけど「意味があるよ」と提示するのをやめましたね。fuzzy knotの名前の意味とつながりますが、ボケっと何も考えずに聴いても、耳障りの悪い言葉を選んだつもりはなくて。「読み解きたい方はどうぞ。そこにはきっと楽しさがあるし、答えはあるよ」という意識で作りました。だからShinjiくんとの制作においては、自分が言いたいことは二の次に抑えてます。逆に、そうじゃないと言葉が乗らないんですよ。言いたいことを言おうとすると、メロディを殺してしまいかねない。
──田澤さんは以前「曲を生かすも殺すも歌詞次第だ」と言ってましたよね。
田澤 そうそう。結局ね、歌詞って省略の美学なんです。メロディが先にある以上、文字数が決まっているから言いたいことを書こうとすると、どうしても文字数に合わせないといけない。とにかくメロディの邪魔はせんとこう、というのはありましたね。
Shinji 仮歌の語呂がすごくいいんですよ。歌いやすいハマりになってる。で、僕は語呂ってものすごく大事だと思っていて。やっぱり今は、歌詞カードを見ながら曲を聴く人って少ないし、僕自身もそういう機会はほぼないから、断片的にしか言葉を聞いてない。それもあって、響きのいい歌詞はあらかじめ伝えたんですよ。例えば「夢ひとひらよのハマりがめちゃくちゃいいから残してほしいな」とか。
田澤 うんうん、言ってた。
Shinji 歌詞の意味はもちろん大事なんですけど、同じくらい語呂を大事にしたいのは田澤さんも僕も同じ。最初からそこが合致していたのはよかったですね。
──完成した歌詞を読んで、どのように感じましたか?
Shinji 文学的ですよね。今作だけに限らずほかの歌詞にしても、すごくいい学校を出た人なのかなって。
田澤 ハハハハ(笑)、そういうわけでもないです!
Shinji 僕だったら「愛してる」8連発くらいの歌詞になってたと思うんですよ。すごく深くて難しい言葉が並んでいるんですけど、歌詞でありながら、ちゃんと文章にもなっているのがすごいと思います。
次のページ »
お互いの魅力は?