Hiroの考えるライブの面白さ
──ライブを今まで通りにやれない現状に対してはどう感じていますか。特にフィジカルな交感だったり、肉体的な高揚だったりを大事にしてきた3バンドだと思うんですが。
Kazuki うーん……これはちょっと違う話になるかもしれないけど、今は配信ライブが多くあるじゃない? でも、俺が今バンドを始めようと思った年頃だったとして、そのタイミングで配信ライブが“ライブ”とされていたら、俺はきっとバンドを始めてないと思う。やっぱり、空気感、熱気、感動が直に伝わってくるのがカッコいいと思ってバンドを始めたからさ。だから、とにかく人のために何かをやることを第一義にしたくないっていう原点だよね。人が待ってるから配信ライブをやるとか、そういうことじゃなくてさ。
──もちろん配信ライブにも、パッケージとしての新たな楽しさや可能性があるわけですけど、「誰でも見られる」という意味では、従来のライブとは似て非なるものですよね。ライブに限らず物でもなんでもそうだけど、その人にしか所有できない感覚が生まれたり、コピーできない1回限りの体験があったり、ある種の限定性があることが、従来のライブの価値になってきたわけで。
Hiro そうだね。もちろん、配信ライブを楽しみにしてる人を否定する話でもなんでもないんだけどね。でも、俺らの思うライブの面白さっていうのは、誰のためになんてことを考えずに、好きなように盛り上がった結果として人と共に作り上げられる現場の熱気だったんだよね。でも、現実的に俺らにとってのライブができなくなっちゃったわけだから。そこでどうするのかっていうのは、まだまだ答えは出せないんだけど。
──そもそも、この3バンドのベースになってきたパンク、ハードコア、ラウドミュージックって、人と人の間に線を引かないために鳴らされてきたものだと思うんです。自分たちを傷付けるものや人生を害してくるものと闘うために生まれた音楽だからこそ、人を攻撃したり人との隔たりを作ったりするためではなく、人を受け入れるための寛容性とユニティを持ってきたわけで。
Hiro うん、そうだね。間違いない。
明るさも暗さも盛り込みたかった
──「人のためじゃない」とは言いつつも、「DAWN」はやっぱり仲間や友達のためによりよい未来を望む歌にはなっていると思うんです。そのあたり、自分たちでどんなことを考えたのか教えてもらってもいいですか?
Kazuki 最初はAGがマイナーコードの曲を持ってきたんだけど、俺はとにかく明るい曲のほうがいいなと思ったのね。さわやかな感じでいいじゃんって言ってさ。歌詞が英語で何を歌ってるかわからなくても、深刻じゃないことが伝わればいいなと思ったんだよね。
Ryo このメンバーで何を歌うのか、歌詞を書いていくうえで大事にしたのは不安の共有から始めることだったんですよ。コロナで自粛期間が続く中で不安じゃない人なんていなかったし、楽しみがなくなっていって心細いことばかりだったと思う。だからこそ、俺たち自身も不安だし、聴いてくれる人と同じなんだっていうところから始める歌にしたくて。不安を受け入れて現実を直視しないと、希望も生まれていかないと思うので。だから歌詞の内容は、ただ明るくハッピーなだけじゃない、暗さやマイナスの感情も全部盛り込みたかった。ただ「みんなで進んでいこう」とか、ただ「前向きにがんばろう」とかだと、むしろ人と人の間に線を引いてしまう歌になってしまう気がしたんです。そうじゃなくて、今の現実と不安を直視することからしか希望は生まれてこないじゃないですか。
──「がんばろう〇〇」というスローガンもよく目にしますけど、もうすでにそれぞれががんばっているし、これまでと違って、心の距離も物理的な距離も隔離されていく中にあっては、がんばり方すら失くしていく感覚を持つ人も増えていったと思います。
Ryo そうそう、大事な人がいても、これまで通りの支え方ができないことも出てきたと思うんですよ。会いに行けない、触れ合えない……どんどん不安になっていく気持ちを一度打ち明けることで、誰もが入ってこられる歌にできるんじゃないかと思ったんです。
──そもそもラウドミュージック自体が、マイナスのエネルギーやネガティビティをプラスに転換する作用を持っていますよね。レベルミュージック全般に言えるけど、生きるための武器になってきた音楽だからこその切実なポジティビティというか。
Ryo まさにそうです。やっぱりライブや音楽がないと俺たちの心が死んじゃうよっていう気持ちをどこかで表現したくて、後半でSHADOWSに掛け合いで歌ってもらったんです。ライブを今すぐやりたいんだ!っていう気持ちの高まりがちゃんと入ってるんですよね。ただ勝手な言い方で「がんばろう」って言うんじゃなくて、俺ら自身もやりたくて仕方ない、みんなもそうでしょ?って言いながら人を巻き込んでいく歌にできたと思いますね。
──だから、よくあるマイクリレーというよりも、とにかく全員で大声で歌うアレンジになってるのが最高ですよね。
Ryo そうそう。とにかくあふれ出てきてしまうっていうか。それをそのまま歌うんだっていう感じになってると思います。またライブハウスで歌いたいっていう気持ちをそのまま入れてますね。
何者でもなくても認められる場所
──あえて野暮な質問をしますが、ライブハウスは自分たちにとってどんな場所ですか?
UTA(NOISEMAKER) なんだろうなあ……やっぱり、どんな人でも入れる、どんな人でも人とつながれる場所っていうのがライブハウスだと思いますね。で、僕ら自身もそこに救われてきたんですよ。だから大事だし、例え何者でもない人でも、何者でもないまま認められるっていうか。
──よく言われる多様性の尊重だったり、寛容性だったりが自然と根付いている場所ですよね。
HIDE(NOISEMAKER) そうそう。さっき言われたように、今回の曲は全員で歌うパートが強く出てるじゃないですか。それはまさに、俺らの思うライブハウスなんですよ。もちろん俺らの曲は俺らが歌うためにあるけど、だけど本当の意味で曲が完成するのって、ライブで鳴らして人が好きに歌ってくれたときなんですよね。それは今回、ライブができない状況になって改めて実感したことで。誰が歌ってもいいし、どう歌ってもいい。その自由を認め合えるからライブハウスって面白いんですよ。決まった動きもないし、それぞれが好きにやることを認め合えるから本当の一体感が生まれるんだよなって。
──ライブハウスに限らず、人と共に生きていくうえで大事なことだと思います。
HIDE さっきRyoも「自分次第なんだ」って話をしてたけど、どんな時代になったとしても、自分たち自身で作ってきた信頼が大事なのは絶対に変わらないと思うので。今回のプロジェクトの話をもらったときに二つ返事で了解したってみんな言ってましたけど、でもCrystal LakeとSHADOWSと一緒じゃなかったらOKしなかったと思うんですよ。それも結局、ちゃんと自分たちの目で見てつながってきたバンドと一緒だから「やりたい」と思えた。そのつながりも、ライブハウスという場所があったから作ってこられたものだと思ってて。
Takahiro(SHADOWS) もっと言えば、俺らは昔、ただのスナックとかでもライブをやったことがあって。ステージもない中で機材持ち込んで、完全DIYでライブやって……海外でライブをやるときも、機材とかステージがしっかりしてないところも多いんですよ。だけど日本のライブハウスは機材も環境もしっかりしていて。それが当たり前だと思っちゃいけないし、そのありがたみは今だからこそ沸いてくるんですよね。そもそも、人にとって場所があることのありがたみっていうかね。場所があることで、俺らは好きなものを通じて人と出会ってきたんだなって改めて思うんですよね。
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大切なのはバンドが動き続けること