ナタリー PowerPush - フルカワミキ
2年ぶりニューアルバム「Very」完成記念インタビュー
基本的な考えは「人間が歌うとしたらこんなアレンジに」
──楽曲の制作はどんなふうに行ったんですか? 小林オニキスさんは絡まず、ミキさんの制作チームが手がけられたんでしょうか。
そうですね。最初に会ったとき「音を任せてくれませんか」ってお願いして、OKをいただけたんです。「こんな感じでやりたいんですけど」って、ラフな感じのデモを聴いてもらったら「あぁもう全然どんなふうにやっていただいても大丈夫です」って言ってくれて。なので、オニキスくんは現場には付かない形でどんどんやらせてもらいました。
──前作のアルバム「Bondage Heart」は、生音を多用したサウンドが印象的でしたが、今回のシングルは完全に打ち込みですよね。これは、ミキさんが今やりたい音、興味のある音を鳴らしたらこういうサウンドになったということですか?
いえ、私自身は曲に合う音を選んでるだけなので、生音が良ければ生音、打ち込みが良ければ打ち込みを使うっていうスタンスは未だに変わっていないんです。……あの、実は「サイハテ」に取りかかる前からアルバムを作ってたんですよ、ずっと。で、アルバム制作を一旦中断してた時期があるんですけど、そのときに新しい何か……ちょっと刺激を受けるようなことをしてみようかな、と思ったんですね。そこで、いろいろ観たり聴いたりしている中でこの曲に出会ったんです。
──なるほど。
「サイハテ」は、元々ボーカロイドを使った曲で、生音は一切入ってませんよね。私は別に自分の作詞・作曲にこだわっているわけでもないし、自分の声が一番の特徴であり持ち味だと思っているので、この曲でそれを生かせたらいいなって思ったんです。原曲の良さは消さずに自分なりの解釈を加えた形でうまくできないかなって。だから、実際の制作作業では「私だと音色はこういうのを使うかな」とか「人間が歌うんだったら、オケはこんな感じなのかな」って考えながら音色を選んでいった感じですね。
みんなに愛されているという事実を大事に
──ミキさんは毎回リリースごとのビジュアルにもこだわっていらっしゃって、自分で映像を撮られたりもしてますけれど、「サイハテ」のビジュアルを作るにあたってイメージしたことはどんなことですか?
基本、お願いしているアートディレクションチームにお任せしていますけど、個人的に最初に「燕尾服を着たいな」って思ったんです。普段着の私じゃなくて、コスチュームを着ることで、「もう既にある物語」に第三者的な角度からかかわってるということを表現したかったんですよね。「サイハテ」は、私が主人公の物語ではないから、その物語を私の読み方で読ませてもらうっていうスタンスで。なので、ストーリーテラーというか、「世にも奇妙な物語」のタモリさんみたいな(笑)、そういう記号のような存在になりたかったんです。だから燕尾服っぽいコスチュームにこだわったし、PVは私が持つ本から何かいろんなものが出て、という映像になってるんです。
──第三者の視線ですか。面白いテーマがあったんですね。
はい。例えば「シンデレラ」みたいな皆さんが知ってるおとぎ話も、読み手によって捉え方や伝わり方が違いますよね。なので、今回のビジュアルでは元々「サイハテ」を愛していた人たちが大切にしていた、聴き手に想像の余地が残されている物語があるという事実を大事にしたかったんです。ボーカロイドもそうだし。だから、あえて普段着は着たくなかった。
CD収録曲
- I'm On Earth
- 金魚
- サイハテ
- Remember
- Make Up
- New Days
- Come Now
- Ice Way
- Bridge To Heaven
- Day Sleep
- Chain Reaction
- Amore
- Star Pain
- Harmony
フルカワミキ
1979年青森生まれ。1995年に彼女のメンバー募集の張り紙がきっかけで、地元青森にてスーパーカー結成(B,Vo担当)。1997年にシングル「cream soda」でメジャーデビューを果たす。ノイジーなギターロックから徐々にエレクトロニカを取り入れたサウンドへと音楽性を変化させ、日本のロックシーンを代表するバンドに成長。5枚のオリジナルアルバムを残し2005年2月に惜しまれつつ解散。2006年に入り「フルカワミキ」としてのソロプロジェクトを立ち上げ、6月にシングル「Coffee & SingingGirl!!!」で満を持してのソロデビューを果たす。7月に初のソロアルバム「Mirrors」を発表し、独自の世界観を提示し続けている。