Furui Rihoの2ndアルバム「Love One Another」が、4月3日にポニーキャニオンからリリースされた。
彼女の人生のテーマである“Love One Another=お互いに愛し合う”という言葉をタイトルに掲げた本作は、昨年配信リリースされたシングル「Super Star」「ピンクの髪」「LOA」や、ドラマ「弁当屋さんのおもてなし」の主題歌「Friends」のアルバムバージョン、地元・北海道と音楽活動の拠点・東京を行き来する中で生まれたという新曲「SAPPORO TOKYO」を含む9曲入り。Furuiがこの数年間の活動で手に入れた独自のポップネスと、ルーツにあるゴスペルの要素が詰め込まれた作品となっている。
音楽ナタリーではFuruiにインタビューし、「Love One Another」に込めた思いや、ここ数年の活動の中での変化について話を聞いた。
取材・文 / 谷岡正浩撮影 / 垂水佳菜
2年間の成長と変化
──1stアルバム「Green Light」から新作「Love One Another」までの2年間でアーティストとしてさまざまな経験をされたと思うのですが、とりわけライブやツアーを経て得られたものが大きかったのではないでしょうか?
そうですね。私の音楽活動はステージに立つのが怖い、というところからのスタートでしたから。その怖いという気持ちがライブやツアーを通してだんだんと自信に変わって。今では楽しめるところまで来られたのが、この2年間で一番変わった部分だと思います。
──その自信というのは、ソングライティングにもフィードバックされましたか?
はい。そうした変化自体を歌詞に書いたり。一番大きかったのは自信を持って曲を書けるという、メンタルの部分でのプラスになっているところですね。
──自信を持ってライブができるようになったのには何かきっかけがあったんですか? それとも経験を重ねる中で徐々にそうなっていった?
以前、私は毎日のように「自信をつける方法」とか「ステージで頭が真っ白にならない方法」を調べていたんです(笑)。でも、答えなんて全然見つからなかった。そんな中、広瀬アリスさんのインタビュー記事を見つけて。広瀬さんは完璧主義で日々の生活やお仕事も完璧を目指されていたんですけど、「あるときから100%を目指すのではなく、80%を目指す方法を身に付けた」と、その記事の中でおっしゃっていたんです。要するに自分が100%だと思っていることでも、ほかの人から見たら100%じゃない場合もあるんだと。それで「ああ、そうか。『ライブで歌詞を間違えない』とか『日々の振る舞いを完璧にしよう』とか、私は常に100%じゃないとダメなんだと思ってたけど、お客さんから見たらそれは100%ではないのかもしれない。じゃあ80%を目指してがんばろう」と思えるようになりました。そしたら残りの20%の余白が自分に余裕をもたらしてくれて、それから少しずつ変わっていったように思います。
──ライブの場合、オーディエンスや音響、照明のスタッフさんなど、自分以外の人たちと一緒に作っていく側面が大きいと思うので、20%の余白を持つということはある意味で理に適っているんでしょうね。
そうなんですよね。そしてそれが実は曲作りにおいても生きてくるようになったんです。私は楽曲制作でも、例えば歌詞の言葉1つでも完璧じゃないと嫌だったんですけど、そこも80%でもいいんだと余裕を持てるようになった。そしたら曲作りそのものがすごく楽になって、必要以上に自分を責めることも人を傷付けることもなくなったんです。
──確かに「Green Light」まではFuruiさん自身にベクトルが向いた曲が多かった印象ですが、それ以降のシングル曲はだんだんと周りの人たちにもベクトルが向いているように感じます。
はい。自分にベクトルを向ける場合でも、少し余裕を持って外側から自分を見つめたりして、冷静に物事を判断して誰かを思う余裕が生まれました。
──その変化や心構えがまさに「Love One Another」という言葉に行き着いていますよね。このアルバムには「Green Light」からの2年間でリリースしたシングル曲を中心に、新曲も含めて全9曲が収録されています。アルバムという形にまとめてみていかがですか?
その時々で感じたことを曲にしているので、曲調や歌詞が曲ごとに全然違うんですよ。だからけっこうバラバラな印象になるかなと思っていたんです。まさに今お話ししたような気持ちの変化に合わせて曲ができていったので。でも、通して聴いてみて1曲目から9曲目までちゃんと私らしさが出ていたので、いいアルバムになったなと思いました。
Furui Rihoの人生におけるテーマ
──タイトルに掲げている「Love One Anther」、「お互いに愛し合う」という言葉は、Furuiさんにとってどのようなものですか?
なんとなく私の中にぼんやりとあった感覚で。気持ちに余裕ができて、自分や周りのことを客観的に見られるようになったことで、くっきりとこの言葉が浮かんできたんです。自分が人生においてやりたいことや、やらなきゃいけないことがこの言葉には込められています。
──Furuiさんの人生におけるテーマを言語化したものなんですね。
まさにそうですね。
──この言葉はFuruiさんの音楽的ルーツであるゴスペルと非常に近いような気がします。
本当にそうだと思います。ゴスペルは愛の音楽で、だからこそ私の中にずっとあるものなんですよね。私は愛が最強だと信じていて、これからもその考え方が揺らぐことなく過ごせれば幸せに生きていけるんじゃないかなと思っています。
ルーツにあるゴスペルを作品に
──昨年11月にリリースされた配信シングル「LOA」のタイトルは、「Love One Another」の頭文字から取ったんですよね?
はい。その時点で「Love One Another」という言葉が自分の中にあって、「じゃあアルバムのタイトルにしよう!」ということになりました。匂わせです(笑)。
──「Love One Another」という言葉が降りてきて、バチっとアルバムタイトルにハマったときに方向性が見えてきた曲も?
リード曲の「Your Love」は、実は2019年頃には原型ができていたんですよ。でも、けっこうゴスペル風味とR&B色が強い曲なので、ちょっと大人っぽいというか、その時点での私にはまだ早い感覚があったから寝かしていたんです。でもアルバムタイトルが「Love One Another」に決まったときに、「LOA」もゴスペル寄りの曲だから、この流れなら「Your Love」の曲調で言いたいこともハマりそうだし、アルバムのリード曲としてもぴったりなんじゃないかなと思ったんですよね。
──なるほど。そもそも「LOA」でゴスペル色を強く打ち出したのはなぜだったんですか?
その前にリリースしたシングル「Super Star」や「PSYCHO」は、ポップスという側面での歌詞やサウンドメイクを大切にして作ったんです。よりみんなが楽しく聴けるようなものを意識しながら。なので「次はもっと心が動くような、どちらかと言えば歌詞を聴かせる曲を作りたい」と思ったんですね。「LOA」は妹に向けて書いた曲なんですけど、彼女が落ち込んでいるときに支えになるような曲として作ったので、プロダクトとして突き詰めるというより、もっとハートフルで心に響くものを目指した結果、ゴスペルに寄って行った感じです。
──Furuiさんにとってゴスペルはどのような音楽なのでしょうか?
私はアフリカ系アメリカ人のゴスペルミュージック(ブラックゴスペル)に影響を受けたのですが、もともとゴスペルはジャンルはとらわれず、ハードロックやヘビーメタル、カントリー、そして演歌などのスタイルをとるものもあります。日本では、ゴスペルと聞くと大勢で歌うイメージが一般的ですが、実は1人で歌うこともゴスペルなんです。私はゴスペルが持つ独特のハーモニーと力強いリズムだけじゃなく、聖書から引用された歌詞の力強さにも惹かれていて。ゴスペルが持つ不思議な魅力は、実際に体験して初めて理解できるものだと思うんです。「楽しい!」「ワクワクする!」と感じさせてくれるだけでなく、時には涙を誘う感動も呼び起こしてくれる。ちなみに自分の曲にゴスペルを意識するときには、長くともに歩んできたゴスペルディレクターのSayo Oyamaさんと一緒にアイデアを詰めていくことが多いです。
不安を抱く人たちに届けたい
──「Your Love」のボーカルは、Furuiさんのこれまでの歌い方とは違うので驚かされました。声を張って歌い上げる感じというか。
もともとはこっちのタイプなんですよ。マライア・キャリーやホイットニー・ヒューストンが大好きで、ライブでもカバーしていたので。それが、なんていうんですかね……飽きたというか(笑)。少し型にハマっているように感じて、それから「もっと私らしさを出したい」という気持ちも強くなって、歌い方にオリジナルを追求するようになりました。でも、改めて自分の原点に立ち返ってみようと思って、「Your Love」では歌い上げるようなボーカルを意識しました。
──曲はどういうところからイメージして制作していったんですか?
もともとSayoさんがボイスメモに録っていたコードとメロディがあったんですよ。そこから私がメロディを少し変えたり、全体を膨らませて方向性を決めたりして制作を進めました。それが2019年頃ですね。で、今回それをもとにknoak(サウンドプロデューサー / アレンジャー)がトラックを組んで素晴らしいアレンジにしてくれました。
──knoakさんのトラックが入ることで一気にモダンになりますよね。
そうなんですよ。Sayoさんはバンドサウンドで音を作ってきた人なので、曲の仕上がりがどちらかと言うとクラシカルな生音の感じになる。それをknoakが今のトラックの音にしてくれるので、そのバランスがすごくいいんですよね。
──歌詞に関してはいかがですか?
レコーディングのスタートを1時間延ばしてもらって、ギリギリまで歌詞を書いてました(笑)。“Love”についてつらつらと書こうと思えば書けるんですけど、綺麗事になっちゃうのがすごく嫌で。歌詞に重みを持たせたいと思ったときに、どういう角度で書いたらいいのか悩んでしまったんです。
──歌詞で特に印象に残った一節が、「でもせめてと 手を伸ばしてみたんだ」という部分でした。暗中模索の状態で“でもせめてと手を伸ばす”姿が、表現という行為そのものを描いているように感じたんです。
実際に手を伸ばしたんです、私。2024年は始まりからいろいろあったじゃないですか。みんな先行きが不安にもなっただろうし、私自身もけっこう落ち込んじゃって。自分のことだけ考えても、音楽活動をしていく中で間違いなくこの1年が大切になるという不安も正直に言えばあったし、世の中が暗くなっているムードも感じていたし、あとは政治のこととか……。そんなふうにいろいろと考えていたら、ベッドの中で「ああ、助けて」と自然に手を伸ばしていたんです。それですごくつらくなったんだけど、この気持ちを抱えているのはきっと私だけじゃないと思ったんです。それに戦争もあって、その不安な気持ちを抱えているのは日本だけじゃない。そう考える中で「不安になっている人たちに曲を届けたい」と思いました。
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「PSYCHO」で歌う“本当の私”