ファンキー加藤|「頑張れ、みんな!」覚悟を決めた男の魂の叫び

当たり前の展開は嫌だった

──アルバムはここから先の展開も油断できないんですよね。「死守」もオーソドックスなピアノバラードかと思いきや、妙におしゃれな転調があったり、Aメロが最初と最後にしか出てこない変則的な構成だったり。

ファンキー加藤

以前なら普通の構成にしてたと思うんですけど、そうすると5分くらいの曲になっちゃうんですよね。このサブスク時代、もっと短いほうがいいだろうと。それもチャレンジの1つです。

──「Be Alright」も陽気なサンバのリズムでひたすらアゲアゲな曲だとばかり思っていたら、最後で急にメランコリックになるんですよね。「情緒大丈夫かな」っていうレベルで。

わっはっはっは!(笑) これも間奏にいってDメロにいって、みたいな当たり前の展開は嫌だったから。それだとやっぱり長くなるし、別のアプローチはないかプロデューサーと相談して作ったらこうなりました。

──その終盤部分のメロには、ちょっと昭和歌謡に近いテイストを感じました。田原俊彦さんとかが歌ってもハマりそうだなって。

ああ、確かに! (田原の歌い方を真似しながら)「まーだー止まーないー」。

──サブスク派の人にも、油断せずに通して聴いてほしいですね。

そうですね。「Be Alright」はライブでもお客さんがどんなテンションで最後のパートを受け止めてくれるのか、すごく楽しみなんですよ。

ここは加藤の治外法権枠

──で、問題の「デ・マ」は、ある健康器具の名称にしか聴こえないんですが、これはいったいどうしたんですか?(笑)

がははは!(笑) アルバムを作るときに必ず1曲だけ、事務所の社長もディレクターもノータッチで「なんでも自由にやっていいよ」っていう枠を与えられているんですよ。加藤のガス抜きというか、治外法権枠ですね。自然と下ネタ混じりの曲になっちゃうんですけど、そのまんまやってもしょうがないんで、基本はダブルミーニングにしてるんです。例えば1stアルバムに入れた「Good Show」は「Good Show Good Show」で「ぐしょぐしょ」だったり。でも今回はテーマに悩んでしまったんです。ガス抜きなのに(笑)。

──真面目だなあ(笑)。

うまいダブルミーニングが出てこなくて。「俺も41歳だからネタ切れなのかなあ」なんて思ってたんですけど、ピンと来たんです。「……今回はアレだ!」と(笑)。

──なるほど。

でもピュアなお客さんが多いこともあって、これまではダブルミーニングが伝わらないことも多かったんですよ。さりげなくやりすぎて。だから今回はちょっとだけ、3歩くらい前に出してわかりやすく提示した感じです。最初はマネージャーにすら伝わってなかったですからね。

オートチューンって楽しそう

──それと同時に、「デ・マ」は音楽的にもめちゃくちゃ攻めたなと思いまして。ここまで本格的なヒップホップ調の曲って、実はあまりなかったですよね?

ファンキー加藤

今までのアルバムの治外法権枠ってソウルやEDM、ユーロビートとか、その時代ごとを彩るダンスミュージックをもとに作ってきたんですよね。じゃあ今はなんだと言ったら、こういうトラップ系の音だろうと。それと、今の人たちってみんなラップにオートチューンをかけてるじゃないですか。

──T-ペイン的な。

そうそう。そういうものを聴いて、「楽しそう……」と思っちゃって。もともとヒップホップは好きなので、これまでの楽曲でも取り入れてきたんですけど、今回は思いっきりその流儀に即してやってみたんです。でも、このリズムでラップすることは今までなかったから大変でしたね。いろんなアーティストの音源を聴いて、自分なりに「これはこういう拍で取ってるのか」とか研究しながらやりました。

──この曲を聴いて、僕は前アルバム「今日の詩」の「ダイジョウブルース」を思い出したんです。あれってお遊び曲のようでいて、実は本格的なブルースロックだったじゃないですか。

そうっすね。あれを弾いてくれたギタリストが「こんなブルージーなギターを弾いたのは初めてだ」って言ってましたし(笑)。日本だとなかなか機会がないみたいで、喜び勇んで弾いてくれたんですよ。

──「ダイジョウブルース」を作ったことで、加藤さんがふと「ヒップホップより先にブルースを本格的にやってる場合じゃねえぞ」とか考えたのかなって思ったんですけど。

なるほど(笑)。確かに「やるんだったら徹底的にやってやろう」みたいな思いは共通してありましたけどね。

──ヒップホップ畑の人たちも、加藤さんがこれをやってくれたら喜ぶんじゃないですか?

社長からのリアクションは皆無でしたけど(笑)。