ライブハウスに出演するノウハウも知らずに、初ステージが「ワンマンライブ」からスタートしたFUNKISTの歴史。昨年2月には、47都道府県でのライブを達成。その旅の途上での出会いは堅い「絆」を次々に生みだし、全国にファンの環が広がっていった。2006年のツアーでは、各会場でファンが自主的にメッセージを綴ったノートが、次の会場へ次の会場へとファン同士で託されていき、ファイナルのライブでステージ上のFUNKISTメンバーに渡された。全国のファンたちからの心が込められたサプライズプレゼント。

FUNKISTのオフィシャルサイトには、今回のメジャーデビューを祝うコメントが、「五体不満足」の著者・乙武洋匡、女優の市原悦子、ミュージシャンの高野寛、「STOP ROKKASHO」プロジェクトでShing02と共に作品を発表した沖縄のラッパー・カクマクシャカなど、さまざまな人たちから寄せられている。ツアー各地で共演し、FUNKISTに惹かれたミュージシャンも少なくない。

2010年、南アフリカのワールドカップで歌いたい!

——ライブ毎に、ツアー毎に、FUNKISTの輪が大きくなっていますよね。「この場にひとりでも欠けてたらこのライブはなかった」という染谷さんのMCに、確信を持ってうなづいてしまうライブでの説得力、一体感はどうやって生まれたんでしょう。

僕の父親と母親は南アフリカという国で出会いました。父親は日本人、母親は南アフリカ人。当時、南アフリカでは肌の色が違うと法的に結婚ができなかったんです。肌の色が違うと「わかり合えない」とされていた国。でも僕は、肌の色が違うふたりが愛し合って、わかり合えたから生まれた。僕は小さいときからずっと「生まれてきてよかったのか」という自問自答があったんです。

だけど音楽を始めて、自分の苦しみを音楽に込めて投げかけたときに、ファンからの応えで、そんなふうに悩んでいるのは自分だけじゃなかったんだとわかったんです。ツアーをしていろんな場所で音楽を通して、いいミュージシャンたちと知り合って仲良くなっていった。それは自分にとって音楽以上に、生きていく上ですごくウエイトの大きいことでした。違う場所で生まれ、文化も違う人同士が音楽で仲良くなり、共感し、高めていけるという現実は、アパルトヘイトも吹っ飛ばせるぐらいのすごいことです。小さいときから考えていた問いの答えが、「人はわかり合えるじゃないか!」と音楽でわかったんです。

FUNKIST写真

——「誰かが引いたボーダーなんて越えよう」と染谷さんが歌うとき、その声は東京の地下のライブハウスからだろうが、世界に届くような、音楽を信じる力が込められてるように感じます。

20歳のときに初めて母の故郷、南アフリカにひとりで行って、それまでは「飢餓」や「貧困」というのはテレビの中の世界でした……。バナナトレイン(バナナ畑の中を走る観光用の列車)に乗ったんです。観光客たちが車内から投げるお菓子を、線路際に立って待っている子供たちがいる。僕は子供の眼を直に見て、彼女の瞳には僕が映っている。その瞬間に、僕は無関心でいることはできないと思ったんです。これが自分の故郷だということがショックだったんです。そのときに「世界を変えたい」と本当に思ったし、その瞬間からこれをどう伝えていこう、どうやったら変えられるだろうかという旅がずっと続いています。

2006年にFUNKISTとしてバンドで南アフリカをツアーしたときには、すごい覚悟で行ったんです。全部で6カ所でライブをしたんですけど、毎回死ぬ気で歌ってました(笑)。実際にこのツアーで、30分あれば肌の色が違っても音楽で仲良くなれるということが経験できた。いま、東京で歌っても現実的に僕の声が南アフリカまで届くことはないけど、そのイメージを持って歌うことで、僕の声を受け取った人が誰かに何かを伝えてくれたりすることでちょっとでも遠くに届くんじゃないかと信じています。

——ライブの中ではメンバーの手品もあったり、「エア花火」があったり、俳句を詠ませたり、MCも笑いに包まれることがほとんどだし、音楽もどうにも静止してられないぐらい踊れる。今回のデビューシングルのタイトル曲「my girl」も「SUNRISE」もそんなアッパーなナンバーですが、ツアーでずっと大切に歌われてきたバラード「白い世界」も、今年4月のSHIBUYA-AXでのライブトラックで、シングルに収録されてますね。新曲「my girl」と「SUNRISE」2曲の、ダンスするしかないリズムにちょっと覆われているメッセージが、この3曲のパッケージではっきりと表れてきますよね。歌詞はラブソングのフォーマットだけど、その「愛」は広く開かれててますよね。

FUNKIST写真

今回メジャーからリリースするのは、めでたいことだけど今までの続きの1枚であって、僕らが何をしたいかということをレコード会社が理解してくれたからなんです。ピースを歌うこと、このCDに「白い世界」が入ったのも僕らにとっては当たり前だし、FUNKISTのメッセージはどこまでいっても変わらないと思います。

僕は、「俺について来いよ!」なんて言える人間じゃないけど、同じように苦しんでる人たちがいたら、その苦しみを俺もわかるよ、とは歌えると思うんです。新曲「my girl」も思いっきりラブソングなんですけど、単なるラブソングにはしたくなくて、1人に対しても、みんなに対しても共有できるラブソングにしたかったんです。「SUNRISE」は、僕は肌の色の違いから苦しいことや辛いことがあったけど、そういう経験があって初めて気づいた楽しさってあるんだなって、最近やっと実感できてきて、例えば他のミュージシャンたちと音楽で仲良くなったりできることがすごくうれしくて、暗闇の中を走ってきたからこそ、太陽の光を強烈に感じることができるということを、自分の言葉で書けたと思っています。

——サッカーが好きで、スポーツジャーナリストになりたい夢と、歌を歌いたいという夢の二択で、歌を選んだということですが、2010年に南アフリカで開催されるサッカーW杯。この公式テーマソングを、もしFUNKISTが歌えれば、ふたつの夢を両立できるじゃないですか(笑)。

それ、むちゃくちゃ夢見てることなんです! 南アフリカが開催地に決まったときから「俺しか歌えないだろー!」って思ってるんです(笑)。2006年に南アフリカをツアーしたときに、この街中に響く歌を歌いたいって! 2010年、南アフリカのW杯で歌いたい! 夢ですね。でも、実はもう作ってあるんです(笑)。まだバンド内にしか聴かせてないんだけど(笑)。ただ、日本が出場してもらわないと……だから最終予選も必死で応援します!

FUNKIST メジャーデビュー・マキシシングル

ジャケット写真

『my girl』 2008年7月16日発売 / 1260円(税込) / PCCA-02701 / ポニーキャニオン

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CD収録曲
  1. my girl
  2. SUNRISE
  3. 白い世界
    (Live at SHIBUYA-AX 08.4.29)
プロフィール

FUNKIST(ふぁんきすと)

染谷西郷(Vo)、宮田泰治(G)、ヨシロウ(G)、JOTARO(B)、オガチ(Per)、春日井陽子(Fl)、住職(Dr)による7人組のバンド。2001年結成以来、年間100本を越えるライブで、多くのファンの心を掴んできた。これまでにインディーでアルバムを3枚、シングルを4枚、また、染谷西郷の母親の故郷である南アフリカでのツアードキュメンタリーDVDをリリース。2008年7月16日、シングル「my girl」でメジャーデビュー。