ナタリー PowerPush - 風味堂
“ぼくらのイス”に座り続けるために
そのバンドにしか座れないイスがある
──アルバムにはリード曲となる「あふれる愛を伝えたい」というナンバーも。これは友人のご夫婦に贈るために書き下ろされたそうですね。
渡 はい。僕らのチームのスタッフの人に「俺の代わりにプロポーズソングを書いてくれよ」みたいなことを冗談ぽく言われたことがあったので実際に書いてみたんです。
──その方はこの曲でプロポーズしたんですかね?
中富 どうだろう。聞いてないね、そういえば。
渡 うん。でも、その後ご結婚はされてるんですけどね。
スタッフ この曲を聴いて泣いたって言ってましたよ。
渡 あ、そうなんだ。じゃよかった(笑)。今回の収録曲の中では、これが一番華やかな感じがするサウンドになったのでリード曲にしたんですけど、結果的に明るい曲調で未来に向かって走り出していくような雰囲気がアルバムの内容にもぴったりマッチした気がしてますね。
──そうですよね。いろんな経緯で生まれた曲たちも、しっかり1枚としてまとまってると思います。アルバム全体のテーマや方向性にちゃんと寄り添ってます。
渡 今回はそういう統一感みたいな部分はすごく意識したんですよ。できたものを改めて聴くと、自分の心境だったり、実際の出来事だったりがもとになっている曲ばかりなので、今の風味堂にしかできないものを記録として詰め込むことができたなって思いますね。
──先ほど、この3人で作れば「風味堂で包み込むことができる」とおっしゃっていましたが、それはきっと風味堂にしか描き出せないものがより明確になってきたことの表れだと思うんです。で、そういった思いがアルバムのサブタイトル「~ぼくらのイス~」という部分に集約されているのではないかな、と。
渡 まさにそうですね。そのサブタイトルはBEGINの(比嘉)栄昇さんに言っていただいた言葉がもとになってるんですよ。以前、「最近はいろいろ悩みながら活動してるんです」みたいな相談を栄昇さんにしたときに、「どんなバンドにもそのバンドにしか座れないイスというものがあるんだよ。そこはほかのバンドに絶対座られちゃダメなんだよ」って言葉をいただいて。
──風味堂だけが座れるイスに座り続けることが大事だ、ということですよね。
渡 はい。その言葉は、ほかのバンドとは違う風味堂ならではの音楽を伝えるにはどうしたらいいのかってことを改めて考えるきっかけになったんです。だから今回のアルバムは、風味堂というものを客観視しながら作ったところもあったんですよね。
──だからこそバンドとしての原点を見つめ直すことにもなった。そして、自分たちの座るべきイス、守っていかなきゃいけないイスが見つかったと。
渡 うん、僕らなりの今の答えがこの形っていうことですね。
目指すべき存在はBEGINというバンド
──デビュー10年目にそこへたどり着けたのは非常に大きな意味がありますよね。それを踏まえてこの先はどんなふうに歩んでいきたいですか?
渡 先ほど栄昇さんの話をしましたけど、僕にとっての目指すべき存在はBEGINというバンドなんですよ。BEGINは「イカ天」(※1989年から1990年にかけて放送されていたオーディション番組「いかすバンド天国」)に出ていたときすでに「僕らは沖縄の音楽とブルースを融合させたいんです」っていうことをおっしゃっていて。で、それを今でも一貫して続けている。きっとここまでにはいろんな迷いが生じる瞬間はあったと思うけど、でも本線から外れることなくとにかく続けることができている人たちなんですよね。僕らもそういうバンドになりたいんですよ。だからこそ、今回“ぼくらのイス”はこういうものですっていう表明はできたと思うけど、今度はそれをしっかり手に入れて離さないということをやっていかなきゃいけないんだろうなと思うんです。「風味堂みたいなバンドをやってみたいんだよね」って、例えに使われるくらいの存在になりたいっていうのが今の目標ではありますね。
鳥口 そうだね。日本の音楽シーンから例えば風味堂がいなくなったときに、「寂しいな」って思ってくれる人たちがいる限りは、やっぱりやり続けていかないといけないなって思いますね。やっと自分たちのスタイルがしっかり固まってきたところなので、ここからそのイスにどっしり座り続けていかないと。
──そのイスを磨いていくことも必要でしょうしね。
渡 そうですよね。リクライニング機能をつけたりとかね。踏ん反り返れるように(笑)。
中富 それダメなパターンでしょ(笑)。踏ん反り返っちゃダメ。でもマッサージ機能とかついたらいいよね(笑)。
──あははは。中富さんはこのアルバムを経て、今後はどんなふうに活動していきたいですか?
中富 僕らはデビューした当初、CDが出せること、ライブができることは当たり前だと思ってたところがあったんですよ。でも約10年やってきた中で、バンドとしてのいろんな波を経験し、それが当たり前のことではないということに気付けたんです。だからこそお客さんもスタッフも、僕らの周りにいてくれるすべての人たちの期待に添えるような、「風味堂のファンなんだよ」「風味堂に関わった仕事をしてるんだよ」って自信を持って言っていただけるようなバンドになりたいなって思います。そういう気持ちはこのアルバムでしっかり表せた気もしていますので。
──この先、活動が続いていく中にはきっとまた悩みを抱く瞬間もあるでしょうけど、このアルバムに込めた思いがあれば迷いなく前に進めそうな気がしますよね。
渡 ほんとにそうですよね。うん、そう思います。
- ニューアルバム「風味堂5 ~ぼくらのイス~」 / 2013年11月10日発売 / Victor Entertainment
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3800円 / VIZL-594
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3800円 / VIZL-594
- 通常盤 [CD] 3000円 / VICL-64077
CD収録曲
- 夢は二度目から
- あふれる愛を伝えたい
- 光の道
- 銀河鉄道
- 泣きたくなる夜に
- 夢を抱きし者たちへ
- 静かな夜の向こうへ
- パズル
- ワガママンのテーマ
- 足跡の彼方へ
初回限定盤DVD収録内容
- “風味堂 unplugged live” at 福岡カフェガレリア
- 眠れぬ夜のひとりごと
- 楽園をめざして
- 車窓
- 足跡の彼方へ
- ママのピアノ
- 夢を抱きし者たちへ
- エクスタシー
- 家出少女A
- ナキムシのうた
- 宝物
- “おかえりなさい”が待っている
- 「足跡の彼方へ」ビデオクリップ
風味堂(ふうみどう)
2000年に渡和久(Vo, Piano)、中富雄也(Dr, Cho)、鳥口JOHNマサヤ(B, Cho)によって結成された鍵盤トリオ。地元福岡で支持を集めたあと、2003年に活動の拠点を東京に移す。同年4月にミニアルバム「花とりどり」をインディーズで発表。2004年11月にシングル「眠れぬ夜のひとりごと」でメジャーデビューする。2005年にはシングル「ナキムシのうた」が多数のFM局でパワープレイを獲得し、2006年にはシングル「愛してる」がオリコン週間ランキングのトップ10入りを果たすなど一気に人気を拡大させた。その後も数々のCMソングやドラマ主題歌を担当し活動の幅を広げる。キャッチーなメロディと渡の情感豊かな歌声、アグレッシブなライブパフォーマンスが魅力。デビュー10周年目に突入した2013年11月に、4年8カ月ぶりとなるアルバム「風味堂5 ~ぼくらのイス~」を発表する。