ナタリー PowerPush - 古川本舗

変化への序章、アルバム「SOUP」全曲解説

03. HOME

──そして今少し話題に出た「HOME」が3曲目です。

アルバムの中で最初にできた曲です。前のアルバムが発売された直後に「ここで1曲作らんと次に続かん」って、とにかくなにかしなければならないという至上命題を感じて慌てて作ったんです。で、これが完成したことで初めて「じゃあアルバムはどうしよう」って考えられるようになりました。ちなみにこの曲には一応、裏ストーリーがあって。

──おお、どういうストーリーですか?

この曲に出てくるのはネコと女の子で、進学かなにかの理由で飼い主がどこかへ行っちゃうんです。ネコは飼い主がいなくなった事実を理解する。その視点を歌った曲なんです。だから「舌先でそっと触れた」みたいな歌詞が出てくるけどエロい意味じゃないし、「恋をしたんだ」とは言っても色恋の歌とはちょっと違うんですよ。「(I'M)HOME E.P」っていうCDタイトルは、帰ってきた女の子の「I'm home!(ただいま!)」って言葉です。

──曲を聴いただけでそこまで気付くのは難しそうですね。

古川本舗

絶対わかんないと思うけど、いいやと思って(笑)。でもPVを撮っていただいた岩井俊二監督とスタッフには一応この話をしてます。だからそのへんをうまく汲んでもらえて。ネコのかぶりものをした女の子が出てくるのはそこから来てるんです。

──岩井監督にはどういう経緯でPV撮影をお願いすることになったんですか?

岩井さんの作品が大好きで、毎回「どういうPVにしようか」っていう会議のときに例に出してたんですよ。「スワロウテイル」みたいな色味で、とか。それで「じゃあ頼んでみる?」って話になって、無理だろうと思いつつ一応ダメ元でお願いしてみたら「面白そうだから事務所に遊びにおいで」って言っていただけて。そのときはホントにミーハーな話をいっぱいしましたね。「リリイ・シュシュ(のすべて)」大好きです!とか。

岩井俊二監督からの「HOME」へのコメント

古川本舗さんの世界は、ちょっとファンタジックでマジカルで心地よいです。

そのイメージの中で遊ばせて頂きました。完全夜間撮影のPV、考えてみたらはじめてかも知れません。楽しい撮影でした。

04. 東京日和

──次は「東京日和」。

古川本舗

これは古川本舗として発表した中で2番目に古い曲なんですよ。僕が前のバンドをやっていたときにできていた曲で。ボカロを使いはじめるより前、21~22歳くらいの頃に作った曲ですね。ちなみに一番古いのは「Family」で、これは18~19歳くらいの頃です。

──そんな昔の曲をなぜ今回収録したんですか?

さっき話した「20代前半」というキーワードを考えながら、「あの頃どんなん作ってたっけな」って眠らせてた曲を聴き返してたんです。そしたらこれが出てきて「あれ? これキクチくんに合うんじゃないのかな?」って。歌ってもらったらピッタリでした。

──このアルバムの流れに合ってると思います。

もともとバンド向けに作ったので、Aメロは静かで、サビになるとデカい音でファズがドヒャーっと鳴る曲調だったんですけど、もっとメロディを際立たせたほうがいいと思っていろいろ削ってたらこうなりました。

──結果として、アルバムの中で一番シンプルなサウンドになりましたね。

そうですね。

05. orbital

──「orbital」はインストですね。2000年くらいにスリル・ジョッキーからリリースされてそうな曲というか。

あはは(笑)。やっぱりね、シカゴ音響とか、こういう淡々としたアンビエントっぽい曲がホントに好きなんですよ。でもインストってなかなかやるタイミングがなくって。実はこういう曲のストックは結構あるんですけど、お金を払ってまで聴くもんじゃないんじゃないかなと思って。

──いや、これはいいと思いますよ。むしろこのアプローチでインストアルバムを1枚作ってもいいんじゃないかというくらい。

古川本舗

完全受注生産で作ってみますか(笑)。僕はアルバムの中に箸休め的な1曲が入ってるのがすごく好きなんです。昔はイントロ、アウトロ、インタールードみたいなのが入ってるアルバムが多かったけど、iTunes Storeとかでバラ売りされるのが当たり前になってきたからか、最近はそういうのが少なくなってきた気がして。Aメロ、Bメロ、サビみたいな構造を持たない自由な曲って、作ってても楽しいんですよ。

──これに歌が乗っても面白そうですけどね。

最初は歌が乗ってたんです。キクチくんに歌ってもらったテイクもあったんだけど、途中で「いいや、やめちゃえ」と思って。キクチくんの声は加工してサンプラー的に使おうとも思ったんですけど、なんかあんまりグッとこなかったんで、こっそり全部消しました(笑)。アルバムができあがったあとでキクチくんに「ごめんね、あれ全部ボツになったの」って言ったら、「えっ! すげえ急いでレコーディングしてくれって言われませんでしたっけ?」って(笑)。こういうことって、1曲ごとにいろんなボーカリストにお願いしてたら絶対できませんでしたね。せっかく歌ってもらったのに「声だけ素材としてもらっていいですか?」なんて、口が裂けても言えないじゃないですか(笑)。

ニューアルバム「SOUP」/ 2013年11月6日発売 / Head.Q.music / 2500円 / PECF-3062
ニューアルバム「SOUP」 ジャケット
収録曲
  1. スカート
  2. あいのけもの
  3. HOME
  4. 東京日和
  5. orbital
  6. emma brown
  7. 枯れる陽に燃える夜は
  8. ストーリーライター
  9. アン=サリバンの休日
  10. SOUP
ライブ情報
古川本舗 ワンマン・ライブ「.QII.」
  • 2014年2月28日(金)
    東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
    OPEN 18:30 / START 19:30
    前売3500円(ドリンク代別)
    一般発売:2014年1月11日(土)
【先行抽選受付】

2013年11月10日(日)18:00
~11月23日(土)23:00

古川本舗(ふるかわほんぽ)

楽曲制作からデザインまで幅広い分野を手がけ、作品の世界観を多岐に渡る方法で表現するソロアーティスト。10代の頃より作曲活動を始め、数々のバンド活動を経て宅録に目覚める。2009年に初音ミクを使ったオリジナル曲「ムーンサイドへようこそ」をニコニコ動画に投稿し、これを皮切りにネット上で人気曲を次々に発表。エレクトロニカやポストロックを取り入れた、ノスタルジックかつ幻想的な独特の作風で一躍人気ボカロPとなり、同人音楽としてCDを頒布する傍ら、多数のコンピへの参加や楽曲提供などをメジャーやインディーズに関わらず行う。2011年には8人のボカロPによる、新しい形の音楽流通を目指すレーベル「balloom」の設立に参加。同レーベルの第2弾作品として、野宮真貴やカヒミ・カリィらをゲストに迎えた初の流通盤アルバム「Alice in wonderword」を発表した。同年、Billboard JAPAN主催の音楽賞「Billboard JAPAN Music Awards」で優秀インディーズアーティストにノミネート。2012年にはSPACE SHOWER MUSICより2ndアルバム「ガールフレンド・フロム・キョウト」をリリース。2013年にはシンガーソングライターのキクチリョウタがすべてのボーカルを担当したアルバム「SOUP」を発表した。