ナタリー PowerPush - 古川本舗
変化への序章、アルバム「SOUP」全曲解説
01. スカート
──それではここからアルバムの各収録曲について、曲のテーマや制作時のエピソードなどをじっくり聞いていこうと思います。ではまず「スカート」から。この曲を1曲目に持ってきた理由は?
アルバム全体で考えたときに、早い段階でデカい音が鳴っててほしかったんですよ。
──さっき言った轟音ギターのことですね。
僕は曲を作るとき、淡々としていて、ふわーっと大きく盛り上がっていく感じが好きなんです。そうするとデカい音を出すタイミングがどうしてもケツのほうに来ちゃうんですよ。でも今回は「せーの、どーん!」みたいに、とにかく大きい音が鳴る曲を1曲目に入れたいと思って。最初に全部ひっくり返して、自分の中の気持ちや感情をバーッと散らかしたあとに、1曲1曲進めるごとにちょっとずつ整理していって、最後の10曲目で気持ちが落ち着いて終わる。そういう流れが作りたかったんです。
──歌詞についてはどうでしょう? 古川本舗の曲は物語調のものが多い中で、この曲は古川さん自身のことを歌ってるように感じました。ミュージシャンの目線というか。
まったくその通りで。この曲は生身の自分に近い感情というか。今までは世界を俯瞰して、そこから見るストーリーみたいな歌を作ってきたんです。でも今回は、アルバム全体がそうというわけではないんですが、なるべく俯瞰しないようにして、実際の自分に近い言葉選びを意識したんですよ。「古川本舗はインターネットに棲む電子の妖精じゃないよ、1人の人間なんだよ」ってことで。
──わはは(笑)。やっぱりそれにこだわってるんですね。
「スカート」は何の歌っていうわけでもないんですよね。別に恋愛の歌でもなければ、人生観を歌ったわけでもない。この曲は「うまく言えないな」ってフレーズで終わるんですけど、まったくその通りで、この曲の内容についてうまく言えない(笑)。次のアルバムはどうしようかとか、まだライブできねえなとか、曲を作った当時のそんなモヤモヤした気持ちを、特に整理もせずに思いつくまま全部出した感じ。とっ散らからせるっていうのがテーマだったんです。
──この曲のPVは古川さんが参加してるデザインチーム・gaphが手がけてますよね。ということは、自分が曲を作ったときのイメージがそのまま映像化されてるんですか?
いや、全然違いましたね(笑)。これに関してはコンテも全部投げちゃって、僕は編集とか細部を手伝う感じだったんですけど。まさかああなるとは思ってなくて(笑)。コンテを描いた子は「これはもう完全に不倫の歌だわ」って思ったそうで。身勝手な理由で相手を振り回していろいろ破壊する歌だって言われて、僕は「お……おう」みたいな(笑)。
──あのPVはそういう意味だったんですね。
その子は「身勝手な感情の発露」を曲から感じたそうです。まあ、とっ散らかった気持ちを吐き出して作った曲だから、合ってなくもねえなって。PVは「世にも奇妙な物語」みたいに、ちょっとホラーっぽくしたいって話してたんですよ。女性が感情の赴くままあっち行ったりこっち行ったりして、でも別に悪びれもせず、それでも日常はうまいこと回っていくっていう。
02. あいのけもの
──次は「あいのけもの」です。
TSUTAYAレンタル限定CD「(I’M)HOME E.P」のカップリングとして作った曲で、もともとアルバムに入れる予定じゃなかったんです。でも反応も良かったし、入れようかという話になって。これは比較的、昔の古川本舗っぽさを意識して作りましたね。「(I’M HOME)E.P」は新曲「HOME」のほかに過去の曲をいくつか収録したんですが、新しい曲と古い曲で分離してしまわないように、その中間のものを作って接着剤の役割をさせたかったんです。演奏まで全部自分でやったのは、今回のアルバムではこの曲だけですね。
──「昔の古川本舗」を表現するために自分で演奏したんですか?
そうですね。新しいものと古いものをゆるやかにつなげるって、微妙なニュアンスなので人にやってもらうのは無理だなと思って、自分でコントロールするしかないなと。
──ここで言う「けもの」は何を意味してるんですか?
具体的になにかの暗喩っていうわけでもないんですよ。ただ自分の中にあったイメージとしては……「天空の城ラピュタ」にロボット兵が出てくるじゃないですか。肩で小さいキツネリスが走ってて、摘んだ花をピーッて差し出す。なんかあの感じが近いかなと思います。
- ニューアルバム「SOUP」/ 2013年11月6日発売 / Head.Q.music / 2500円 / PECF-3062
- ニューアルバム「SOUP」 ジャケット
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収録曲
- スカート
- あいのけもの
- HOME
- 東京日和
- orbital
- emma brown
- 枯れる陽に燃える夜は
- ストーリーライター
- アン=サリバンの休日
- SOUP
- ライブ情報
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古川本舗 ワンマン・ライブ「.QII.」
- 2014年2月28日(金)
東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
OPEN 18:30 / START 19:30
前売3500円(ドリンク代別)
一般発売:2014年1月11日(土)
- 2014年2月28日(金)
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【先行抽選受付】
2013年11月10日(日)18:00
~11月23日(土)23:00
古川本舗(ふるかわほんぽ)
楽曲制作からデザインまで幅広い分野を手がけ、作品の世界観を多岐に渡る方法で表現するソロアーティスト。10代の頃より作曲活動を始め、数々のバンド活動を経て宅録に目覚める。2009年に初音ミクを使ったオリジナル曲「ムーンサイドへようこそ」をニコニコ動画に投稿し、これを皮切りにネット上で人気曲を次々に発表。エレクトロニカやポストロックを取り入れた、ノスタルジックかつ幻想的な独特の作風で一躍人気ボカロPとなり、同人音楽としてCDを頒布する傍ら、多数のコンピへの参加や楽曲提供などをメジャーやインディーズに関わらず行う。2011年には8人のボカロPによる、新しい形の音楽流通を目指すレーベル「balloom」の設立に参加。同レーベルの第2弾作品として、野宮真貴やカヒミ・カリィらをゲストに迎えた初の流通盤アルバム「Alice in wonderword」を発表した。同年、Billboard JAPAN主催の音楽賞「Billboard JAPAN Music Awards」で優秀インディーズアーティストにノミネート。2012年にはSPACE SHOWER MUSICより2ndアルバム「ガールフレンド・フロム・キョウト」をリリース。2013年にはシンガーソングライターのキクチリョウタがすべてのボーカルを担当したアルバム「SOUP」を発表した。