元モーニング娘。の福田明日香が、1999年のグループ卒業から19年の時を経てソロでの活動をスタートさせた。モーニング娘。卒業以降、2011年に男女混声ボーカルグループ・PEACE$TONEに加入するまでは一切表舞台に立つことのなかった彼女。個人名義による初のミニアルバム「Sing」には、PEACE$TONEの仲間たちと作り上げた楽曲に加え、モーニング娘。卒業の際に歌ったナンバー「Never Forget」のセルフカバーも収められている。新たな一歩を踏み出した福田が「Sing」の5曲に込めた思いとは。
取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 塚原孝顕
- 福田明日香「Sing」
- 2018年3月14日発売 / おせちRECORDS
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[CD] 1500円
ORCL-1005
- 収録曲
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- 80's [作詞・作曲・編曲:再起$TONE]
- スタイル [作詞:再起$TONE / 作曲:福田明日香 / 編曲:再起$TONE]
- フリージア [作詞・作曲:福田明日香 / 編曲:再起$TONE]
- みんな旅人 [作詞・作曲・編曲:再起$TONE]
- Never Forget [作詞・作曲:つんく / 編曲:再起$TONE]
歌を世に出す覚悟が決まった
──福田さんは「ASAYAN」のオーディションがきっかけで、モーニング娘。としてデビューしました。子供の頃から歌手になりたいという夢を持っていたんですか?
オーディションを受けたのは12歳の頃なんですけど……そもそも12歳なんて、なりたい職業だとかリアルに考えてないですよね(笑)。男の子がサッカー選手や野球選手に憧れるのと同じように、私は歌が好きというだけで。「私には歌ぐらいしか取り柄がないのかな」という感覚でした。歌うことで何かを発散するような、自分の中で爆発が起きるような感じが面白くて。
──モーニング娘。では最年少なのにすごく大人びた声だし、グループの中で歌を牽引するポジションという印象でした。あの年齢ですでに完成されていたので、小さな頃から歌手を目指してトレーニングしていたのかと思っていました。
歌が自分にとっての持ち味やアピールポイントだと思っていましたけど、それってすごく刹那的で。お仕事としてやるには持続力のあるものではなかったんでしょうね。歌うたびにときめく心は持っていたくて活動を辞めたので、25歳になってPEACE$TONEを始めるときも(参照:福田明日香が音楽活動再開、3人組ユニットでCDデビュー)、実はすごく悩んだんです。ときめきや青い衝動みたいなものって、プロになるとなくなっちゃうんじゃないかと思っていたから。最近こうやって話していると「私ってすごく小心者だな」と思うんですけど(笑)。青い衝動を守りたいという気持ちより、歌を歌いたいという気持ちが勝ったんでしょうね。
──PEACE$TONEに誘われるまでの10年ほどの間は、自分から音楽活動をしたいと考えることはなかった?
はい。それは十代の早い段階で「歌が好きで好きで好きで……という気持ちだけでは、プロとしてやっていけない」と知る機会が私にはあったために、音楽で食べていこうという気持ちにはならなかったです。
──ではPEACE$TONEの活動でも「デビュー当時の感覚を取り戻した」という感じではなく。
全然違います。「取り戻した」と感じたのはつい最近ですね(笑)。
──PEACE$TONEのasukaとして活動するのと、福田明日香名義でソロとして歌うのは気持ちの上でも大きく違うのではないかと思うのですが。
そうですね。2015年に子供を授かってしばらく産休してたんですけど、出産と子育てを経て……ありきたりですけど、本当に人生観が変わったんですよ。今までは「こういう歌を歌いたい」「こんな歌詞が書きたい」みたいな気持ちがそんなになかったんですね。ただ単に歌が好きだったから。でも、人生観が変わったことで創作意欲が湧いてきた。自信とも違う……覚悟が付いたんだと思います。個人名義で自分の作った歌を世に出す覚悟が決まった、ということですね。
──子育てによって人生観はどんなふうに変わりましたか?
客観性が生まれました。自分の分身とも言える存在を0歳からずっと見続けて育てていくことは、自分を客観視しているような感覚があって。個人差はあると思うんですけど、私はそれを素直に受け入れることができたんです。過去の活動を振り返るのは自分にとって気恥ずかしいことだったんですけど、それがなんのためらいもなくできるようになって。だから、あらゆる意味で覚悟が決まったんですよね。
PEACE$TONEの活動があったからこそ
──最近のブログを読んでいると、過去を楽しく振り返っているような感じがします。
そうなんです。「みんなは私が卒業したあとも活動していたのに」「ファンの方の期待を裏切ったのに」という後ろめたさもあって、過去を語るのはおこがましいな、厚かましいなと遠慮してしまうところがあったんですけど、改めていい体験をさせていただいたなと思いますし、心からファンの方への「ありがとう」という思いが自然にあふれてきて。
──単純に「大人になったから」というだけではないかもしれませんね。
うん。でもそれはやっぱり、PEACE$TONEのメンバーのおかげでもあるんです。PEACE$TONEの活動がなかったら今に辿り着いていないから。
──出産時を振り返ったブログ記事(参照:出産のときのこと。|asukaオフィシャルブログ Powered by Ameba)を読むと、緊迫感のある様子が伝わる中に「スティービー・ワンダーや、ダニー・ハサウェイとか流してマッタリ痛みに耐えていましたら」とあって、「福田さんはそのあたりの音楽を聴いてたんだ」と本筋とは関係ないところで感慨にふけってしまいました。
あははは(笑)。
──やっぱりイメージとしては14歳の頃で止まっていたので「今はダニー・ハサウェイなんだ」と。PEACE$TONE結成時にも「ジャック・ジョンソンなどに影響を受けたオーガニックなアコースティックサウンド」という触れ込みがありましたけど。
PEACE$TONE結成の頃はブラックミュージックにかぶれてました(笑)。PEACE$TONEの$TONEは、Sly & The Family Stoneから取ってるんですよ。古いレコードをかけてくれるお店によく行ってたので、1970年代の音楽、特にブラックミュージックをよく聴いてました。最初にカッコいいと思った女性シンガーはジャニス・ジョプリンですけど、それはボーカリストとしての憧れで、サウンドとして好きなのはKC & The Sunshine Bandとか、ソウル、ディスコが多いですね。
──ブログではほかにも気になったことがあって。知り合いのおじさんたちと組んだThe Beatlesやグループサウンズのコピーバンドでドラムを叩いているそうですね(参照:ドラム叩いてきたー|asukaオフィシャルブログ Powered by Ameba)。
ドラムはたしなむ程度ですけど。私の場合そういうところでデトックスしないと、つまんなくなってっちゃうんで(笑)。なんと言うのかな、リスナーとしての、お客さんとしての気持ちを持っていたいんですよ。肩肘張らずに純粋に音楽を楽しみたいので、そういう活動も楽しみつつ。
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J-POPへの回帰と大滝詠一のナイアガラサウンド
- 福田明日香(フクダアスカ)
- 1984年12月17日、東京都生まれのシンガー。1997年にテレビ東京系「ASAYAN」から生まれたアイドルグループ・モーニング娘。に初期メンバーとして参加し、1998年1月にシングル「モーニングコーヒー」で13歳にしてメジャーデビューを果たす。メンバー最年少とは思えない憂いを帯びた歌声と確かな歌唱力で注目を集める中、翌1999年4月にはグループを卒業し、芸能界を引退した。以降しばらく表舞台に立つことはなかったが、2011年に男女混声ボーカルグループ・PEACE$TONEのasukaとして音楽活動を再開。2018年に個人名義でのアーティスト活動をスタートさせ、3月にソロデビュー作となるミニアルバム「Sing」を発表した。