音楽ナタリー Power Push - 藤原さくら

手練れとの濃密な経験が織り成す 1stアルバム「good morning」

ポールは神レベル

──ちなみにビートルズはポール(・マッカートニー)派なんでしたっけ?

藤原さくら

断然、ポール派です。もちろんジョン(・レノン)も大好きですけど、ポールは私にとってもう神レベルといいますか。あらゆるミュージシャンの中で一番尊敬しているので。ポールの曲って、メロディを聴くだけでなんか涙が出ちゃうんです! 歌メロだけじゃなくてベースラインも本当にきれいで。英語がまったくわからなかった子供の頃から聴くだけで勇気が出たり、元気付けられたりしたんですよね。今の私はワールドミュージックも大好きで、歌詞がひと言もわからないアフリカやアラブ系の音楽の旋律に胸を締め付けられることも多いんですけど、その原点はたぶんポールの音楽じゃないかなって思います。

──メロディの持っている圧倒的な普遍性みたいな?

そうそう! 私、ポールの話をすると本当に止まらなくなっちゃうんですけど(笑)、1971年にリリースされた「Ram」っていうアルバムが一番好きで。子供の頃、最初に聴いたときに鳥肌が立って、涙が止まらなくなったんです。もう間違いなく、私の中では無人島に一番持っていきたいレコード。「Heart Of The Country」という曲なんて、言葉を超えて胸に迫ってきます。ああいう世界中のみんながいいと思える曲を作るのが、私にとっての生涯の目標ですね。

──無理やりビートルズの曲で言うと、アルバムの真ん中に収録されている「1995」なんかは、ポールよりむしろリンゴ(・スター)風かもしれませんね。カントリーミュージック調の明るいアレンジで、節回しもわりとストレートで。ギターの名手、高田漣さんが編曲を担当しています。

これも高校時代に作った楽曲で、自分の生まれた年について歌ってるんです。1995年に誕生した自分が今ここで歌ってるという事実を、20歳にリリースするアルバムに刻みたくて。もともとカントリーっぽいアレンジだったので、これはもう漣さんにお願いするしかないって最初から決めてましたね。実際すごくカッコいいリフを付けていただいて……マルチプレーヤーの漣さんが多様な楽器を弾きこなしてさまざまなフレーズを紡いでいくのは魔法のようでした。

私にとって幸せな朝って?

──8曲目の「good morning」はOvallの関口シンゴさんプロデュース。シンプルで幸せ感いっぱいの、かわいらしい曲ですね。

今回、アルバムタイトルを「good morning」にしようって決めたあとで、全体のトーンを端的に表すような楽曲が1つあってもいいかなって思ったんですね。それで「じゃあ私にとって幸せな朝ってどんなだろう」って考えてみたんです。そうやって頭に浮かんだ情景を、シンプルに書き下ろしたのがこの楽曲です。

藤原さくら

──ゆったりしたリズムにオーガニックな音色、ささやくような歌声が耳に心地よかったです。ところで藤原さんにとって幸せな朝の情景って、具体的にどのような?

福岡でライブがあったときは実家に帰るんですけど、うちには梅さんってちっちゃな犬がいて、朝になると「もう起きなよ、散歩に行こーよ!」みたいな感じで、私の顔をペロッと舐めるんですね。それで目が覚める。一人暮らしを始めてから、そういうなんでもない朝をとんでもなく幸せに感じることが増えて……。それで「あ、これを曲にしたい」と思ったんです。きっとみんな、同じ気持ちを経験したことがあるんじゃないかなあって。もちろん犬じゃなくて恋人にキスされて起きる朝だったり、家族に起こしてもらう朝だったり、人によっていろいろだと思うんですけど(笑)。

──そして、表題曲の「good morning」が本作の明るくて風通しのいい面を象徴してるとしたら、10曲目の「これから」は切実な恋心を訴えかけるように歌われていて。ストレートな日本語の歌詞が、リアルな思いを伝えてきます。スモーキーな声質が生かされたアレンジですね。

「これから」は、実は曲を書き始めてから2番目くらいに作ったものでして……。

──あ、そうなんだ。大人っぽい雰囲気なので最近の曲かと思ってました。

高校1年の頃だったでしょうか。初めてのオーディションで歌った曲なんですよ。なので最初はアルバムに入れたくなかったんです。昔すぎて恥ずかしいっていうか、冷静に向き合えなかったんですね。でもディレクターから「この曲は絶対入れたほうがいい」と強く言われて……。「じゃあ、編曲をCurly Giraffeさんにお願いできるんだったら」ということで進めていただいたんですね。そしたら自分でもびっくりするくらい、カッコいいアレンジに仕上がってきて……。

──驚きました?

驚きました。この曲のレコーディングでは、プロデュースという作業の意味を改めて教えてもらった気がします。作った当時の自分との距離を感じていた曲に、違う角度からパッと光を当てられたというか。Curlyさんの存在なしにはありえなかった貴重な経験で、曲への思い入れが逆に強まりました。ちなみにこの曲、Curlyさんの仮歌がとても素敵だったので、そのままコーラスに生かしてもらったんですよ。日本語で歌うCurlyさん、かなりレアじゃないかなあと思います。

20歳の藤原さくらを出せた

──アルバムのラストを飾る「You and I」は、OvallのShingo Suzukiさんのプロデュースですね。落ち込んで混乱した人をさりげなく励ますような内容です。ちょっとソウルっぽい旋律のゆったりした楽曲で……。

藤原さくら

これは、ある日、お父さんが唐突にLINEでコード進行を送ってきたんですよ。「これで曲作ってみ?」って。試しにギターで弾いてみたら、これがすっごくよくて。最初は「父コード」って仮タイトルをつけて、あとから歌詞を乗せました(笑)。それまで私、誰かを元気付ける曲ってあんまり歌ってこなかったんですけど、当時たまたま悩みを抱えた友達がいたので。その子に向けて詞を書きました。詞の最後は「Just believe. Sunday night」っていう1行で終わるんですけど、明るい朝で始まって静かな夜で終わる構成もいいかなと思ったんですね。

──初のフルアルバムを発表して新たな一歩を踏み出した藤原さんにとっては、どこかリスナーとの関係性を表した曲にも聞こえます。

そう感じてもらえたら本当にいいなあって思います。このアルバムと出会った人が、ここで歌われている“You”を自分に置き換えて聴いてくれたら、こんなうれしいことないですね。今回「good morning」には、今の私が日々感じてることや伝えたい気持ち、大好きな音楽をめいっぱい詰め込んだんです。去年とも来年とも違う、20歳の藤原さくらを出せたんじゃないかなって。そう思ってます。

──じゃあ最後に、20歳になったばかりの抱負を1つ。

うーん……神様ポールに少しでも近付けるようがんばることですかね(笑)。「若い女の子が、こんな毛色の変わった曲を歌ってるんだ」みたいな聴かれ方じゃなくて、純粋にメロディと歌声だけでも人の心を揺さぶれるようなミュージシャンを目指したいです。

1stアルバム「good morning」/ 2016年2月17日発売 / 3024円 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64482
「good morning」
収録曲
  1. Oh Boy!
  2. 「かわいい」
  3. I wanna go out
  4. maybe maybe
  5. How do I look?
  6. 1995
  7. BABY
  8. good morning
  9. Give me a break
  10. これから
  11. You and I
藤原さくら Major 1st Full Album「good morning」リリース記念ミニライブ&サイン会
2016年2月18日(木)
東京都 タワーレコード渋谷店 1F イベントスペース
START 20:00
2016年2月21日(日)
福岡県 キャナルシティ博多 B1 サンプラザステージ
START 13:00
藤原さくらワンマンツアー2016「good morning」~first verse~
2016年6月25日(土)福岡県 イムズホール
2016年7月1日(金)東京都 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
藤原さくら(フジワラサクラ)
藤原さくら

福岡県出身の女性シンガーソングライター。幼少期からさまざまな音楽に親しみ、父親の影響で10歳からギターを弾き始める。高校進学後からオリジナル曲を作り始め、地元でライブ活動も行う。高校在学中の2013年に3枚の自主制作盤「bloom1」「bloom2」「bloom3」を発表し、2014年3月に初のフルアルバム「full bloom」をリリースする。高校卒業を機に上京すると音楽活動を本格化させ、2015年3月にミニアルバム「à la carte」でSPEEDSTAR RECORDSからメジャーデビューを果たす。2016年1月に東京・Billboard Live TOKYOにて単独公演を開催。2月にメジャー1stフルアルバム「good morning」を発表した。