藤田麻衣子|あふれ出る思いを歌にした 原点回帰のニューアルバム誕生

完璧じゃなくてもいいのかもな

──JINUさんの言葉をきっかけに生まれたという「クリア」に加え、本作には「それくらいでいいよね」という曲があったりもします。どちらもいい意味での“適当”を受け入れる曲になっていて、完璧主義者のイメージがあった藤田さんの変化が垣間見られますよね。

あはははは(笑)。華ちゃん(奥華子)にも「完璧主義者だよね」とよく言われますからね。だからすぐ疲れちゃうのかなあ。でも確かに、数年前にJINUさんに言われた言葉の意味も含め、「完璧じゃなくてもいいのかもな」という考え方ができるようになってきたところはあるのかもしれないです。「それくらいでいいよね」と歌う曲が書けたのも、心に余裕ができたからなのかもしれないし。そういう考え方のほうが生きるのがラクになりますもんね(笑)。今、いろいろな葛藤で苦しんでいたり、ガーッとがんばりすぎちゃってツライ人たちに届いてくれたらうれしいですね。

──「それくらいでいいよね」は、楽しげなコーラスや口笛が入っているほっこりした曲なので、聴いているだけで心がほぐされていく感じがありますからね。

真面目なメッセージを込めているからこそ、サウンドはあえて緩いものにしたかったんですよ。私自身、がんばりすぎているときに必要だったのが緩さだったので。ディレクターからのアイデアで“ドゥビドゥバ”コーラスを入れたのも楽しかったですね。「ヤバイね、これ。新しいね!」って爆笑しながら、でも真剣にやり切りました(笑)。

──ちなみに口笛は藤田さんが?

私だったらよかったんですけどねえ。口笛吹けないんですよ。昔から一切吹けたことがないので、できる方にお願いしました(笑)。

いいよ いいよ 寝ていいよ

──それ以外の曲についても聞かせてください。2曲目の「chapter」には「過去から切り替わる時が来た」「さぁ新しい章の幕開け」といったフレーズがあって。今の藤田さんのモードが鮮明に出たナンバーになっていますね。

歌詞の書き方もそうだし、サウンドの雰囲気に関してもちょっと新しい感じがありますよね。これはまさに目の前のもやが晴れた今の自分のことを書きました。何か目標を抱いたときに、今までの私はそれが叶った自分と、叶わなかったときの自分の両方を思い描いていたんですよ。それはもし叶わないとしても必要以上に傷付かないための保険として。でも今は、そんなに臆病にならなくてもいいやと思えるようになったんです。「思い描くのは笑顔で輝く姿だけでいい」という歌詞が書けたのは自分にとってすごく大きいことでしたね。

──打ち込みを使った「線香花火」は独特な世界観を持った1曲です。この雰囲気は藤田さんが得意とするものではありますよね。

藤田麻衣子

うん、すごく自分らしい世界観だと思います。これは制作の最後の頃に書きました。今回、ジャケット写真を海で撮影したので、夏の海についての曲があってもいいかなと思ったんです。ただ、私は海に行って「イエーイ!」とはしゃぐような性格ではないので、イメージがまったく思い浮かばなくて。結局、海とは関係ない曲になりました(笑)。

──まあでも花火という部分で夏は感じますから。

そうですね(笑)。線香花火がポタっと落ちる様を、恋に落ちる瞬間に重ねて書きました。アレンジもね、花火がパチパチ弾けるような音がずっと入っていたりするので、面白い仕上がりになったと思います。ぜひ夏の夜に聴いてください。

──タイトル曲となる「necessary」は、ピアノとバイオリンと歌のみのバラードで。まさにシンプルなサウンドの中、アルバムを象徴するメッセージが歌われています。

さっきも言いましたけど、この曲には特定の主人公がいないので、どんな方にも自分の曲として聴いていただけると思うんですよね。さらに、歌詞に出てくる“君”という言葉に対しても聴く人ごとにそれぞれの対象が浮かぶと思うんです。恋人や家族、ひょっとしたらペットにも当てはまる内容かもしれないので。こういうタイプの曲はだいたいピアノの方にアレンジをお願いすることが多いんですけど、今回はあえてバイオリンのなっちゃん(沖増菜摘)にお願いしたところもポイントだと思います。

──そしてアルバムのラストには子守歌とも言える「おやすみ」が。

ボーナストラックみたいなイメージで冗談半分に書いたんですよ。そうしたら案外、評判がよくて収録してもらえることになりました。私のライブはけっこう眠くなるようで、実際、寝ている方もいらっしゃるんですよね。私としては、起きて聴いてくださっていても、眠ってしまっていても、本当にどっちでもいいんです。でも寝ていた方は、ハッと目覚めて「いや寝てなかったですよ」みたいな動きをされるんで(笑)、この曲では「いいよ いいよ 寝ていいよ」と歌いました。

──眠ってしまうほど心地いいということではありますからね。

そうそう。心地よく眠れると心がスッキリしますから。私はそれはそれですごくうれしいんです。今の時代、なかなか眠れない人も多いようなので、この曲を聴いてしっかり寝ていただけたらと思います。

──まさに新章の始まりを感じさせてくれる素敵なアルバムだと思います。

うん、また新しいスタートのような気がしますね。今は作品を作ることがこれまで以上に楽しいし。このアルバムはもちろん、この先に生まれる曲たちに関しても、受け取ってくださる皆さんからどんな反応をいただけるのかがすごく楽しみです。

藤田麻衣子