ソロをやってきた1つの証
──アレンジがガラッと変わった曲もたくさんありますね。
ファン投票1位の「永遠と一瞬」とかですね。やっぱりいろいろ思い出しながらやりました。1番で「ありのままでいる事はこれほど難しい」、2番で「ありのままでいる事はこれほど容易い」と歌ってるけど、もともとはどっちも「難しい」という歌詞だったんですよ。レミオロメンの2ndアルバム「ether[エーテル]」の頃はデビューできた安堵と、ここからがんばっていかなくちゃいけないという焦りがあって、自由を手にしたはずなのにいろんなものに駆り立てられてる。それがグワッと出たのがこの曲です。
──それでも、最終的に2番の歌詞は「容易い」になった。
当時のチームで話し合った末、希望も踏まえて変えました。でも、自分の中で「難しい」って感じてるときのリアリティがまだ残っていたから、それを大事にしようと。オリジナルは4/4拍子なんだけど、敢えて6/8拍子にしてギターを掻き鳴らすようにしましたね。当時の記憶や背景をアレンジのヒントにできました。
──選曲の際にアレンジがイメージできた曲というのは?
「春景色」「茜空」なんかはイメージしやすかったのでやってみたいなって。「春景色」も当時のことをヒントにしていて、完成したオリジナルはThe Policeっぽいアレンジになってるけど、もともと今回のアルバムのテンポで録ってたんですよ。のちのち倍のリズムにして激しい曲に変わったっていう。それを覚えていたので、もう一度最初の感じでアプローチしたら、面白いもので春の景色がどんどん浮かんできて、ギターやベースのフレーズもみるみる出てきて。結果的に、今思う春が凝縮できました。
──アルバム制作を通して、自分が変わったと感じたことはありますか?
歌が中心にある音楽をもっと作りたいなと思うようになりましたね。バンドのときの音楽の捉え方はすごくフィジカルだったんですよ。例えば「ether[エーテル]」ってアルバムはすごくやりたいことをやっててトライ&エラーもたくさんあっていいんですけど、歌というより混沌とした中にあるポップさやノリが魅力でした。
──確かに。
僕のRadiohead好きが高じてか、アレンジのほうに頭が行ってる時期が長かったですね(笑)。でも、アコースティックライブをする中で歌の面白さ、言葉を届けていくことの深度を知って、物語性をどう紡ぐかを考えるようになりました。お客さんと盛り上がるだけが音楽の楽しみ方じゃなくて、じっくり聴いてもらうのもいいなって。今回も歌を届けたい気持ちがあったから、できる限り少ないダビングでシンプルに、曲の魅力を伝えられたらなと思ったんです。レミオロメンをひたすら続けていたら作れていなかったアルバムで、こういうアルバムを作れたことがソロをやってきた1つの証にもなるんじゃないかなと思います。
──このアルバムを聴いて、「ソロ活動をやってくれてありがとうございました」と思いました。
ああ、本当にうれしいです。言ってみればオリジナルはもう完成されてるので、そっちはそっちで聴いていただきたいんですけど、7年経つとこういう解釈があって、こういう歌の在り方があって、また入ってくる感じも変わるはずなので。今回はコンセプチュアルに作らなかったからこそたくさんの気付きがあったし、僕の中にレミオロメンが生きてるんだなとわかりました。これは宝ですよ。形を変えていくんです、音楽って。そして新しい魅力を宿していく。胸を張って出せる1枚なのは、オリジナルと比べていないから。今は今でいいんですよね。
──作るときにオリジナルをあまり聴き込んだりはしなかったと。
まったく聴いてないわけじゃないけど、元のバージョンがどうとかよりも、自分がソロの弾き語りで歌ってきた感じを出したいというだけでしたね。
──では、逆に変わらないものは?
「やっぱりアルペジオが大好きなんだな、俺は」と思いました(笑)。今作でもアルペジオはけっこう残しています。編み込んでいくことが好きで、アコースティックだからこそ、より美しく奏でられるというか、音像に埋もれないので。
いい音楽って、作ったときに嘘がない
──今後の方向性も見えてきそうですね。
このアルバムってラブソングが多いんです。でもそれは20代のリアリティで書いたものであって。ソロになっていろんな場所を旅して、見える景色はすごく変わっているんですよ。例えばアフリカに行ったときに貧困があったりとか、世界にはいろんな人がいて、いろんなふうに暮らしていて、いろんな問題がある。でも結局、地球で生きてる以上つながってると思うんですよ。「ビールとプリンだけの小さな世界」もいいんだけど、それはハタチの頃だし、今は藤巻亮太の名前で仕事をしていて、この歳になって僕は世界をどう捉えてるのか。年相応に、そういうものとコミットした楽曲を作っていきたい。自分の名前で音楽をやってるからこそできるし、やっていくべきだと思っています。決して昔の感覚を捨て去るわけじゃなく、レミオロメン時代の楽曲も歌いながら、一方で今自分はどう生きるべきなんだろうっていう。
──もっと広いテーマに。
そうですね。広いテーマに向かって、歌詞は変えていきたいと思っています。いい音楽って、作ったときに嘘がないものじゃないですか。懸命に生きていく中でできた曲。今回セルフカバーしてみて一番よかったのは、その時々で一生懸命作ってきたんだなと思えたことなんです。同時に「今の自分は何が歌えるのか」を問うアルバムでもあります。自分自身が見てきたこと感じたことから逃げないで書いていく作っていくと決意できた……だから、マーケティングとかじゃないんですよ。39歳の人間が純粋に人生を求めていく様を歌にしていきたいんです。
──4月からのツアーも楽しみにしています。
Zeppの4公演は弾き語りのほかに、リズム隊を入れた3ピース編成の演奏もします。2月に福岡県八女市のイベントに呼んでいただいたときにひさしぶりに3ピースバンドを試したら、ものすごく楽しくて(笑)。レミオロメンの前も3ピースを組んでたので、やっぱり原点なんですよ。レミオロメンを知ってる人にとっては懐かしい佇まいも届けられるんじゃないかなって。それ以外の場所は1人で弾き語ります。1曲1曲をじっくり聴かせられたらなと思いますね。「この曲ってこういう感じで作ったんだよ」みたいに伝えながらライブしたいです。
ライブ情報
- 藤巻亮太 弾き語りLIVE TOUR "In the beginning"
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- 2019年4月6日(土)愛知県 Zepp Nagoya
- 2019年4月7日(日)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2019年4月10日(水)宮城県 darwin
- 2019年4月13日(土)山梨県 桜座
- 2019年4月16日(火)新潟県 NIIGATA LOTS
- 2019年4月19日(金)鹿児島県 CAPARVO HALL
- 2019年4月20日(土)福岡県 Zepp Fukuoka
- 2019年4月29日(月・祝)東京都 Zepp Tokyo
- 2019年5月3日(金・祝)石川県 Kanazawa AZ
- 2019年5月5日(日・祝)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2019年5月10日(金)徳島県 club GRINDHOUSE
- 2019年5月11日(土)香川県 高松festhalle
- 2019年5月12日(日)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2019年5月17日(金)京都府 ライブスポットラグ
- 2019年5月18日(土)奈良県 Cento LIVE
- 2019年5月19日(日)滋賀県 Live house Ban Boo Bon
- 2019年5月21日(火)兵庫県 チキンジョージ
- 2019年6月1日(土)山口県 Jazz Club BILLIE
- 2019年6月2日(日)大分県 ブリックブロック
- Mt. FUJIMAKI 2019
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- 2019年9月29日(日)山梨県 山中湖交流プラザ きらら
- 藤巻亮太「RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010」
- 2019年4月3日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
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[CD] 3240円
VICL-65156
- 収録曲
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- 電話
- 昭和
- ビールとプリン
- 3月9日
- 五月雨
- 春景色
- 永遠と一瞬
- 粉雪
- 太陽の下
- 茜空
- もっと遠くへ
- 透明
- 蛍
- Sakura
- 恋の予感から
- 藤巻亮太(フジマキリョウタ)
- 2000年12月にレミオロメンを結成し、ギター&ボーカルを担当。「3月9日」「南風」「粉雪」など数々のヒット曲を発表したのち、2012年2月にレミオロメンの活動休止を発表する。同月に初のソロシングル「光をあつめて」、10月には1stアルバム「オオカミ青年」をリリース。以降もソロ活動を活発に展開し、2016年2月に初の写真集「Sightlines」を発売。同年3月に2作目となるオリジナルフルアルバム「日日是好日」を、2017年9月には3rdアルバム「北極星」をリリースした。2018年4月には初のソロライブDVD「藤巻亮太 Polestar Tour 2017 Final at Tokyo」を発売。2019年4月にレミオロメンの楽曲をセルフカバーしたアルバム「RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010」をリリースした。同年9月、自身が主催する野外音楽フェス「Mt. FUJIMAKI 2019」を山梨・山中湖交流プラザ きららにて開催する。