藤巻亮太が4月3日にニューアルバム「RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010」を発表した。
3枚のソロアルバムを経てリリースされたのは、なんとレミオロメン時代の楽曲をアコースティックアレンジでセルフカバーした、ファンからのリクエストも踏まえたアルバム。藤巻曰く「マーケティングなどは一切考えていない」そうで、新作は作為的なものを排した、なおかつ歌が印象的に映える、シンプルで味わい深い仕上がりとなった。
ソロ活動を始めて7年が経ち、昨年は所属事務所から独立を発表。30代の終わりに今、藤巻亮太はどんなことを考えながら歌っているのか、話を聞いた。
取材・文 / 田山雄士 撮影 / 吉場正和
ヘアメイク / 原田武比古(Artsy Life) スタイリスト / 三浦一樹 衣装協力 / Iroquois
藤巻亮太の中に今あるレミオロメン
──レミオロメンの楽曲をセルフカバーするアルバムとなると、作る側も何かと力が入ってしまいそうですけど、聴かせてもらったらそんなことはなく、リラックスして素直に向き合えたのかなと感じました。
そうですね(笑)。こんなにノープランでレコーディングへ入ったことはないというほどでした。今までやってきたことを素直に出せたらいいなとは思っていまして。ソロ活動では弾き語りでアコースティックライブをし始めて、その中でファンの皆さんの気持ちに応えてだんだんレミオロメン時代の楽曲を披露するようにしていったんです。バンドと違うシンプルな状況で歌うと、歌詞とかメロディとか楽曲の持ってる核みたいな部分が浮き彫りになって、また捉え方が変わったというか。それがすごくいい手応えだったんですね。ライブでやっている感じで作りたいなと。ソロで蓄積した自分のノウハウもあったので、直感に従ってアレンジしました。ほとんど悩まなかったです。
──懐古主義的なわけでもなく、ソロの楽曲じゃなくてレミオロメンの楽曲なのに、いちシンガーソングライターの放浪感、飄々とした生き方がじわっと伝わってきました。
ありがとうございます。「アコースティックでぎゃふんと言わせてやろう」みたいなところはまったくなくて、39歳の今だからこそわかる楽曲の魅力が引き出せるんじゃないかと思ったんです。レミオロメンはすごく凝った作りの曲が多いけど、シンプルなアレンジでもこれだけいろんな表情を見せられるんだなって。僕自身、たくさん発見がありましたね。いつもはアルバムを作ること=アウトプットで「ああ、やり切ったなあ」という感じになるのに、今回はインプットのほうが多かったかもしれません。開拓したり自分の中を耕せたりしたレコーディングでした。
──今のモードですよね。最近はどんなことを考えながら活動してますか?
近頃よく思うのは、現状レミオロメンは止まっていて、藤巻亮太は動いているということ。そうなると、レミオロメンという枠から僕がもう出ちゃうんですよね。ソロでいろんな経験をして、音楽観も変わってきていますので。
──なるほど。
レミオロメンの藤巻亮太というものを背負っていかざるを得なかった部分もこれまであったんですけど、その中にとどまってしまうのは違うなと感じています。レミオロメンの藤巻亮太として歌っていくんじゃなくて、活動している藤巻亮太の中に今あるレミオロメンを大事に歌っていこうと思ったんです。
──逆転してますね。
結局、音楽というのは同じ曲でも、聴き手1人ひとりの心の在り方が違いますよね。同じように、所属している僕でさえもレミオロメンは自分の心の中にしかない。僕の中にあるものが大事だと思うんです。言ってみれば外にあるものは架空に近くて、僕がハンドリングできません。いろんな人のものになっていくし、それが音楽の素晴らしさでもある。自分の中に止まったままのレミオロメンがあるけど、その在り方もどんどん変わっています。
──どんなふうにですか?
20代じゃなかったら書けていない曲たちがレミオロメン時代の楽曲で、39歳になったらやっぱり感覚が違うわけですよ。そんな当たり前のことに気付いたり、当時と同じ感覚じゃないけど、それでもまだその楽曲が持つ魅力とつながってる自分もいる。今これを歌うのは自分にとっての使命で、そういう意味で在り方が違うかなと思います。僕以外のメンバーを含めて存在の仕方は違うでしょうし、実体があるわけでもなく、それぞれの中にしかない。つまり、切り換えて前に進んでいこうと思ったんです。このアルバムを作ることで僕がソロで7年間やってきたことがおそらく発揮できるだろうし、レミオロメン時代の楽曲にもう一度光を当てるいいきっかけにもなるだろうなと。7年間というと、生まれた子供は小学生になって、小学生がいい大人になっちゃったりしますから。止まったまま僕が歌わなかったら、過去のものになっていく気がするんですよね。だけど、歌っていくことで知らない人にも当時の楽曲を届けていきたい。「懐かしいな」も含めて、多くの聴いてくれる人を掘り起こしたい思いもありました。
自分都合で歌わないのは情けない
──お話を聞いて、自然な流れでできたセルフカバーアルバムという感じがしました。
順序で言えば、4月からの弾き語りツアーが先に決まってたんですよ(参照:藤巻亮太がレミオセルフカバー盤を携え弾き語りツアー、秋は地元で「Mt. FUJIMAKI」)。
──そうなんですか。
これだけ長い弾き語りツアーは初めてで、そこに向けて何か作りたいなと。去年の「Mt. FUJIMAKI」も含め、僕がいろんな方のカバーをすることがすごく増えたんです。カバーアルバムを出すのもいいかなと考えたり。でもチームで話す中で、誰かが作った曲をやるのもいいけど、今だからこその試みをしたくなったんです。すごく大事なツアーになるだろうし、自分の一番の原点をカバーしてみようかと思ったんです。
──ソロ活動の初期には考えられなかったことだと思います。
そうですね。最初はバンドとは異なるソロというものを作らなくちゃいけない焦りがあったので、レミオロメンは禁じ手だったんですけど、途中で「そんなこだわり必要ないな」「自分都合で歌わないのは情けないな」と思いまして。むしろお客さんの声に応えていくことも、ミュージシャンとしての大事な在り方だなと思って。そこからはもうガラッと180°変わって、聴きたいと言ってくれる人に届くよう、ちゃんと歌っていこうと考えてます。
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「聴きたい」の声にベストを尽くす
- 藤巻亮太「RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010」
- 2019年4月3日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
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[CD] 3240円
VICL-65156
- 収録曲
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- 電話
- 昭和
- ビールとプリン
- 3月9日
- 五月雨
- 春景色
- 永遠と一瞬
- 粉雪
- 太陽の下
- 茜空
- もっと遠くへ
- 透明
- 蛍
- Sakura
- 恋の予感から
- 藤巻亮太(フジマキリョウタ)
- 2000年12月にレミオロメンを結成し、ギター&ボーカルを担当。「3月9日」「南風」「粉雪」など数々のヒット曲を発表したのち、2012年2月にレミオロメンの活動休止を発表する。同月に初のソロシングル「光をあつめて」、10月には1stアルバム「オオカミ青年」をリリース。以降もソロ活動を活発に展開し、2016年2月に初の写真集「Sightlines」を発売。同年3月に2作目となるオリジナルフルアルバム「日日是好日」を、2017年9月には3rdアルバム「北極星」をリリースした。2018年4月には初のソロライブDVD「藤巻亮太 Polestar Tour 2017 Final at Tokyo」を発売。2019年4月にレミオロメンの楽曲をセルフカバーしたアルバム「RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010」をリリースした。同年9月、自身が主催する野外音楽フェス「Mt. FUJIMAKI 2019」を山梨・山中湖交流プラザ きららにて開催する。