音楽ナタリー Power Push - 藤巻亮太

解き放たれた今だから歌える「日日是好日」

音楽を作ることで癒されていった

──ニューアルバム「日日是好日」は、藤巻さんの心の中の風通しのよさが如実に表れた作品になりましたね。

前作(「オオカミ青年」)からの約3年半、わりと長い間、暗いトンネルの中にいたと思うんですけど(笑)、そこからようやく抜け出せて今回のアルバムが完成した感じはしますね。藤巻亮太として今、鳴らせる音楽を詰め込むことができたと思います。

──トンネルの中にいる期間は、このアルバムのようなイメージを思い描いていたんでしょうか?

藤巻亮太

いや、どこを目指していいかわからなかったから苦しかったんですよ。このアルバムのような明るい景色が見えていたらそれほど悩んではいなかったと思うので。

──ああ、確かにそうですね。ということは、制作の過程でどんどん暗闇の先に光が見えるようになっていった?

この3年半っていうのは自分自身が音楽で救われていく時間だったんです。年齢やキャリアを重ねていくとどうしても固定観念を持つようになって、自分の中で勝手な線引きをしちゃうところがあるんですよ。そういった心の中に自分が引いた線を1本1本、12曲を作りながら消していくことで気持ちが癒されていったんですよね。だからこそ風通しのいい作品になったんだと思います。

──それは音楽に対してよりピュアな感覚で向き合えるようになったということでもありそうですね。

そうですね。僕は18、19歳の頃に音楽を作り始めたんだけど、当時は劣等感の塊だったんですよ。ほかの誰かと自分をすぐ比べちゃうし、とにかく自信がないしっていう状態で。でもね、それをありのままに音楽として表現してみたら、「そんな自分でもいいじゃん」って思えて気持ちがすごく楽になったんです。音楽に対しての原体験として味わった感覚を、今回のアルバムを作る中で改めて感じられたというのはありましたね。「音楽を作るってこういうことだったよな」って、10何年ぶりに感じたというか。

──音楽で迷っていた心が音楽で癒されたのは素敵なことですよね。もし「登山にこそ癒しがある」と感じていたら今頃……。

あははは(笑)。ひげボーボーの登山家になってたでしょうね。ほんとにそうだと思う。

今できることを自分なりに楽しんでいけばいい

──アルバムタイトルには、「日というものすべてによし悪しはない」という意味を持つ禅の言葉が引用されています。そこにはどんな思いがあったんでしょう?

僕はずっと自分の過去と未来に対して悩み続けていたんですよ。“昨日”までのレミオロメンらしさというものに縛られて、「それとは違うものを作らなきゃいけない」と自分を追い詰めていた自分。そして、“明日”からのソロ活動に対して、「ホントに1人でやっていけるんだろうか」と不安になっている自分。その2つに苦しめられていた。でも、昨日という日にはもう手が届かないわけだからそれを今考えてもしょうがないし、明日悩むことを今、前借りして悩む必要もないわけで。そういうことに、「日日是好日」という言葉をきっかけに気付けたんですよね。そうしたら今日という日がすごく輝き出して、今できることを自分なりに楽しんでいけばいいって気持ちになれたんです。

藤巻亮太

──そこでもご自身の中の線が1つ取っ払われたということなんでしょうね。

だと思います。ただ、タイトル曲の「日日是好日」が生まれたのは、無意識なんですよ。曲を作ってるときにメロディと一緒に、以前、コラムか何かで読んで知っていた言葉がポロッと出てきたことで曲が生まれて。そのときに、さっき言ったようなことを感じたんですよね。で、それは今の僕の気持ちやストーリーにもマッチするものだったから最終的にアルバムタイトルにすることを決めたっていう。

──無意識に出てきた言葉に導かれていった感じなんですね。

僕らの仕事って案外そういうところがあるんですよ。意識したものって、どうしても経験やデータに左右されるじゃないですか。もちろんそれを大事にして素晴らしい作品を作る方もいる。でも僕の場合は無意識の世界のほうが絶対豊かだと思ってるので、そこは大事にしたいと思うんです。

──そのためには無意識下にさまざまなものをインプットしておくことも大事になりますよね。

もちろんそれは義務ではないんだけど、いろんなところに根っこを伸ばしておくことはいいことだとは思いますね。一見なんの役にも立たなそうなことであっても、そこから何かしらの養分を吸い上げている自分がいるし、それがふとしたときに新しい鉱脈を生むこともあるんじゃないかなって。まあでも、どれだけ根っこを張り巡らせても果実を実らせるまでには時間がかかるもので、いろんなことをただ楽しんでればいいんだとは思うんですけど。だって野口健さんと一緒にアフリカに行ったりヒマラヤに行ったりしましたけど、それがどんな“果実”になるかなんてそのときはまったくわかんないですからね(笑)。

2ndアルバム「日日是好日」2016年3月23日発売 / 3240円 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-65039
「日日是好日」
収録曲
  1. 花になれたら
  2. Weekend Hero
  3. 回復魔法
  4. 日日是好日
  5. 8分前の僕ら
  6. 夏のナディア
  7. My Revolution
  8. 大切な人
  9. 春祭
  10. 雷鳴
  11. おくりもの
  12. ing
藤巻亮太(フジマキリョウタ)
藤巻亮太

2000年12月に前田啓介(B)、神宮司治(Dr)とともにレミオロメンを結成し、ギター&ボーカルを担当。「3月9日」「南風」「粉雪」など数々のヒット曲を発表する。2012年2月にレミオロメンの活動休止を発表し、同月に初のソロシングル「光をあつめて」をリリース。10月には1stソロアルバム「オオカミ青年」を発表した。以降もソロ活動を活発に展開し、2015年5月にはソロ初のミニアルバム「旅立ちの日」をリリースした。2016年2月に初の写真集「Sightlines」を、3月に2作目となるオリジナルフルアルバム「日日是好日」を発表。