シャイな人だからこそ生み出せる言葉の強さ
──藤井さんはシャイな方というイメージがあって、そこが魅力的でもあると思うんですが、今回はためらいのようなものはかなり消えたんじゃないかと思うんです。
藤井 うんうん。その結果、どうですか?
──最高です。例えば「Going back to myself~再生のリズム~」のサビの「君は僕のことを嫌いになればいい」みたいな超二枚目な言葉を、変に照れることなくちゃんと歌い切っていますよね。だから歌の物語や、主人公の人柄とか気持ちがしっかり伝わってくるんです。
藤井 ほんまですか? よかった……。でも、照れ臭さみたいなものはもはやないかもしれないですね。これまでの経験を通して、照れとかは一番いらんものやってことはさすがにわかりました。
冨田 表現にはその人の品性みたいなものが出ると思うんですね。藤井さんの品のよさ、って言うとちょっと安っぽくなっちゃいますけど、下品じゃない感じがどの曲からも伝わるし、シャイな人がどうしても言わなきゃいけないことだから言う、みたいな強さはすごく出たと思います。
──わかります。「僕は本来こんな言葉を口にするタイプじゃないんだけど、これは言わなきゃいけないんだ、だってそれだけ思いが強いから」みたいな。
冨田 それがキュンとくるんですよね。
──さすが塾長(笑)。藤井さん、「何を言ってるんだろうこの人たちは」みたいな顔をされていますが……。
藤井 いやいや、聞いてますよ(笑)。自分の評価は別にして、お二人がおっしゃることはわかります。「守ってみたい」の歌詞を書くときにお題をいただいたんですけど、それが“忍びの者が好きな女性を支える”というもので。
冨田 大河ドラマ「真田丸」の佐助(※同ドラマで藤井が演じる人物)のイメージですね。
藤井 はっきり覚えてます。締切ギリギリで、京都のMETROでライブをしたあと、ホテルの部屋で書きました。お月さまがすっごく大きくて怖くて、あー書かなきゃ書かなきゃ、と思いながら書いた歌詞が、すっごく卑猥やったんですよ(笑)。これはまずいなと思いつつ、時間がないからそのまんま提出したら「ダメです」って言われて。
冨田 (笑)。
藤井 「ですよね」って思いました。それでマイルドにしていったんですけど、レコーディング直前、スタジオで追い詰められて、こんなことよう言わんけど……と思いながら「君が好きなんだ」って書いたら、塾長が「これです!」っておっしゃったんです。
冨田 忍びの者がある女性を慕い続けるんですけど、忍びっぱなしで終わったら話にならないじゃないですか(笑)。だから葛藤は最低限伝えたいし、気持ちを表す言葉がおいしいところで出てくれば一番いいなと思ってたら、サビに突入する直前のところで「君が好きなんだ」って歌詞が来たわけですよ。これはやったぞと。
女性に振り回されながらも、2本の足で立っているような品性
──ドラマチックですね。この曲に加えて「ドライバー」「プラスティック・スター」と、藤井さん自ら作詞されている3曲は、アルバムの中でも特別な感じがあります。
冨田 歌詞も素晴らしいんですよ。
藤井 そ、そんなことないです。
冨田 どれも最初に来たのが「えーっ、どうしちゃったの?」みたいなやつで、「藤井さん、ちょっとこれ直接的すぎるかな……」って言って直してもらったんですけど。
藤井 あと「わかりにくい」とかね。
冨田 いろいろ言ってるけど本心が伝わってこない、みたいなことがあるんですよ。やっぱりシャイな方なので。「少し整理しましょうか」ってお願いして、それこそボーカルを録音する前に「もうちょっと詰めましょう」って言って「ちょっと待ってくださいね」って5分くらいで書いてくる歌詞が、いきなりグワッとよくなるんです。
──追い詰められてなりふり構わなくなったときに出てきた本心が二枚目なんて、最高です。「ドライバー」を作曲された葉山拓亮さんは藤井さんのリクエストだそうですね。
藤井 はい。葉山さんが在籍してたD-LOOPがクルマのCMソング(「GLORY DAYS」)をやってたんですよ。それがすごく好きだったので、おねだりしました。
冨田 届いた曲がまた強烈な葉山節でね(笑)。
藤井 もう僕は大喜びでした!
──藤井さんの趣味を生かしていったんですね。
冨田 全然違うものを盛り込むようなことはあんまり考えなかったですね。ただ、ちょっと外れたところをうまいこと入れていくみたいな。
藤井 アルバムの1曲目「Going back to myself~再生のリズム~」はEPOさん、2曲目「mode in the end」はYOUさんとRISさんが曲を作ってくださって、お三方とも女性なんですよ。EPOさんはすぐ送ってくださいましたよね。しかも何日か経ってからもう1曲くださって。
冨田 手書きのコード譜と、シーケンスのフレーズとかも、これは入れたいというのを書き込んでこられて。今どきそういうことってほぼないんですよ。だいたい自分で打ち込んできますからね。澤部くんはギター1本でしたけど。
藤井 やはりCMソング女王でもあるEPOさんだからすごく楽しみだったので、今回、曲を頂けてうれしかったです。僕のことを調べてくださったのか、これまでの曲を聴いてくださったのか、ちょっとヒネくれたところがあるのを察して歌詞にも反映してくださって。2曲目「mode in the end」の歌詞を毎回お世話になってるYOUさんがキャッキャ言いながら書いてくださったのもうれしかったし。曲順を決めるときに、新機軸は早めに入れとくのがいいって言われたので、1、2曲目にしました。
──それでその2曲がアタマなんですね。たしかにインパクト十分です。
藤井 3曲目は堂島さんの「DARK NIGHT」なんですけど、アルバムのレコーディングで最初に録ったのがこれやったんです。やっぱり堂島さんってすごいです。1、2曲目でグンと遠くに行こうとしてる僕をそっとつかまえて、「ちょっと飛ばしましたけど、藤井のアルバムですよ。お嫌いじゃないですよね」って既存のお客さまに寄り添ってくれるような曲を作ってくださって。本当に僕のことを見てくださってるんですよね。
──歌詞のトーンもわりと統一されていますが、全体を貫くテーマはあったんですか?
冨田 歌詞の内容はリクエストしてなかったのに、結果的に女性に振り回される男性像がほとんどなんですよね。やっぱり皆さん、藤井さんにそういうイメージを持っているんだなって思いました。かと言って、ただ振り回されてボロボロになっている人ではなくて、振り回されながらも2本の足で立っている感じ。さっき言った藤井さんの品性ですね。
藤井 「女々しい」とかよく言われます。えらい言われようですよね(笑)。
冨田 葛藤の中で藤井さんがどう立ち続けるのか。それがアルバム全体を通して伝わるストーリーなんじゃないかと思います。
- 藤井隆「light showers」
- 2017年9月13日発売 / SLENDERIE RECORD
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[CD]
3000円 / YRCN-95284
- 収録曲
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- Going back to myself~再生のリズム~
[作詞・作曲:EPO] - mode in the end
[作詞:YOU / 作曲:RIS] - DARK NIGHT
[作詞・作曲:堂島孝平] - AIR LOVER
[作詞・作曲:ARAKI(BAVYMAISON)] - 守ってみたい
[作詞:藤井隆 / 作曲:冨田謙] - くちばしは黄色
[作詞・作曲:シンリズム] - 踊りたい
[作詞・作曲:澤部渡(スカート)] - カサノバとエンジェル
[作詞・作曲:西寺郷太(NONA REEVES)] - ドライバー
[作詞:藤井隆 / 作曲:葉山拓亮] - プラスティック・スター
[作詞:藤井隆 / 作曲:冨田謙]
- Going back to myself~再生のリズム~
- 藤井隆(フジイタカシ)
- 1972年3月10日生まれ。1992年に吉本新喜劇オーディションを経て、お笑い芸人として吉本興業入り。2000年にシングル「ナンダカンダ」で歌手デビューし、同年「NHK紅白歌合戦」に初出場する。数々のシングルのほか、2002年発売のアルバム「ロミオ道行」、2004年発売のアルバム「オール バイ マイセルフ」などで高い評価を得ながらも、2007年8月発売のシングル「真夏の夜の夢」以降はしばらくアーティストとしての活動を休止。2013年6月にニューシングル「She is my new town / I just want to hold you」で6年ぶりにアーティスト活動を再開した。2015年6月におよそ11年ぶりとなるオリジナルアルバム「Coffee Bar Cowboy」を自身のレーベル「SLENDERIE RECORD」から発表。2016年8月には早見優21年ぶりの新作「Delicacy of Love」のプロデュースを担当した。2017年7月には藤井隆の楽曲を多彩なクリエイターがリミックスしたアルバム「RE:WIND」、9月13日には2年3カ月ぶりのオリジナルアルバム「light showers」をリリースしている。
- 冨田謙(トミタユズル)
- キーボーディスト、プロデューサー、アレンジャー。これまでにNONA REEVES、宇多田ヒカル、FPM、サカナクション、ORIGINAL LOVE、YUKIら数々のアーティストのレコーディング、ライブツアーに携わってきた。藤井隆の作品にはアルバム「Coffee Bar Cowboy」でアレンジャーとして参加。最新アルバム「light showers」ではプロデューサーを務めている。