藤井隆の2年3カ月ぶり通算4枚目のアルバム「light showers」が完成した。セルフプロデュースで大半の作詞・作曲も自らが手がけた前作「Coffee Bar Cowboy」から趣を変えて、今回はプロデュース / アレンジを冨田謙が担当。堂島孝平、西寺郷太(NONA REEVES)、YOU、EPO、葉山拓亮(Tourbillon)、澤部渡(スカート)、シンリズム、RIS、ARAKI(BAVYMAISON)ら多彩なソングライターからの提供曲がズラリと並んでいる。
藤井がもっとも影響を受けた“1990年代の音楽”をテーマに据えたというこのアルバムの制作裏を紐解くべく、藤井と冨田の“塾生・塾長”コンビにインタビューした。
取材・文 / 高岡洋詞 撮影 / 相澤心也
“冨田塾生”になりたかったんです
──「light showers」、素晴らしいアルバムですね。自信作なんじゃないですか?
藤井隆 ありがとうございます! うれしいです。昔はやっぱり照れ臭かったりとか、自己防衛のために「いやあ、やらされてるんですよ」とか言って逃げてたんですけど、SLENDERIE RECORDを立ち上げた今となっては、そんなこと言ったら怒られるし、自分でも腹が立つし。だから言うんですけど、正直、自信はあります(笑)。本当にあります!
──ですよね。実際いい作品ですし。
藤井 でも、前作の「Coffee Bar Cowboy」のときはわかんなかったんですよね。自分の好きなものを、1回限りのつもりで「これとこれは入れたいです!」ってゴリ押ししたから、冨田さんにも(西寺)郷太さんにもご迷惑をおかけしたんですけど……。
冨田謙 いえいえ、全然。
藤井 あれからスタッフ周りも含めて環境が変わって、一層やりやすくなったし、今回はとにかく“冨田塾生”になりたかったんです。“冨田塾生になる”っていうコンセプトが思い浮かんだ段階で、本当に自信がありました。
──冨田塾生は今回のキーワードですね。
冨田 ことあるごとにそれを言われるので、針のムシロです(笑)。
藤井 でも本当にそうなんですよ。嘘をついてもしょうがないので。
冨田 「Coffee Bar Cowboy」は藤井さん主導でアルバムを1枚作るという実験を行う感じだったので、僕と郷太はそれをサポートする立場でしたけど、今回は藤井さんが「一緒にやりましょう」って感じで来てくれたので、作業はすごくやりやすかったですね。それぞれ楽曲提供者も違うし、1曲ごとに異なるストーリーがあって、通して聴いたときに短編映画集を観たような気持ちになれたらいいなと。
90年代のCMソングみたいな曲がいっぱい
──作家選びはどちら主導で?
冨田 基本、藤井さんのアイデアです。何回かミーティングをしてリストを作って、その中から絞り込んでいきました。
藤井 1990年代がテーマだったんです。でもEPOさんが90年代かって言ったらそういうことではないし、澤部渡さん(スカート)とかシンリズムくんも違うんですけど、「90年代のCMソングみたいな曲をお願いします」っていうリクエストを受け入れてくださる方っていうのが、作家を選ぶ1つの基準としてありました。
──郷太さんや堂島孝平さんなどおなじみの方もいますけど、初めての方も多いですよね。例えば「mode in the end」を作曲したRISさんとか……。
藤井 RISさんね。冨田プロデューサーの愛人枠です(笑)。
──えっ、どういうことですか? ご説明お願いします!
藤井 いや、これはあくまで僕の勝手な妄想なんです。単に推薦してくださったっていうだけです(笑)。ある曲を「すごく好きなんですよ。こういうのをやってみたいんですけど、なんていうジャンルかわからなくて」って冨田さんに聴かせたら、すごくわかりやすく解説してくださって、「RISさんならできるんじゃないかな。面白いことやってる人ですよ」って。それを僕は勝手に「愛人枠や。セクスィー!」って言ってるんです。
冨田 これも1つのストーリーですね(笑)。
藤井 僕はロックが詳しくないのですが、冨田さんに聴かせたその曲はギターがガンガン鳴ってるのに、なぜかすごく好きで。英語の歌で歌詞がわからないから、ガレージの中で何か悪いことをしてる……みたいなイメージを浮かべながら聴いてました。
冨田 デジロックというかガレージパンクっぽい曲なんですよ。ほかにリストに挙がっていた作家の方々が手練れぞろいで、ちょっとインディー感も欲しいなと思っていたところだったので、RISさんを推薦しました。彼女はほとんど楽曲提供の経験はなかったと思いますけど、聞いてみたら「やります!」ということだったので、「こんな感じの曲を」って熱っぽく伝えたんです。口説きついでに(笑)。
──ここは大人の冗談ということで(笑)。
藤井 そこは強調しておいてください(笑)。
冨田 アルバムにはお題がいくつかあったんですよ。まず、さっき藤井さんが言った90年代感。それから、ダンスミュージックで固めたいということと、1曲ごとに別の方に曲を書いていただくということ。この3つがあって、そのあとにそれぞれの曲を90年代のCMソングのイメージにしようという話になったんです。衣料品、食品、クルマ……と世界観を割り振っていったら、曲ごとの匂いが把握しやすくて、楽しく作業できました。
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自分の好きなものを一度疑ってみたかったんです
- 藤井隆「light showers」
- 2017年9月13日発売 / SLENDERIE RECORD
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[CD]
3000円 / YRCN-95284
- 収録曲
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- Going back to myself~再生のリズム~
[作詞・作曲:EPO] - mode in the end
[作詞:YOU / 作曲:RIS] - DARK NIGHT
[作詞・作曲:堂島孝平] - AIR LOVER
[作詞・作曲:ARAKI(BAVYMAISON)] - 守ってみたい
[作詞:藤井隆 / 作曲:冨田謙] - くちばしは黄色
[作詞・作曲:シンリズム] - 踊りたい
[作詞・作曲:澤部渡(スカート)] - カサノバとエンジェル
[作詞・作曲:西寺郷太(NONA REEVES)] - ドライバー
[作詞:藤井隆 / 作曲:葉山拓亮] - プラスティック・スター
[作詞:藤井隆 / 作曲:冨田謙]
- Going back to myself~再生のリズム~
- 藤井隆(フジイタカシ)
- 1972年3月10日生まれ。1992年に吉本新喜劇オーディションを経て、お笑い芸人として吉本興業入り。2000年にシングル「ナンダカンダ」で歌手デビューし、同年「NHK紅白歌合戦」に初出場する。数々のシングルのほか、2002年発売のアルバム「ロミオ道行」、2004年発売のアルバム「オール バイ マイセルフ」などで高い評価を得ながらも、2007年8月発売のシングル「真夏の夜の夢」以降はしばらくアーティストとしての活動を休止。2013年6月にニューシングル「She is my new town / I just want to hold you」で6年ぶりにアーティスト活動を再開した。2015年6月におよそ11年ぶりとなるオリジナルアルバム「Coffee Bar Cowboy」を自身のレーベル「SLENDERIE RECORD」から発表。2016年8月には早見優21年ぶりの新作「Delicacy of Love」のプロデュースを担当した。2017年7月には藤井隆の楽曲を多彩なクリエイターがリミックスしたアルバム「RE:WIND」、9月13日には2年3カ月ぶりのオリジナルアルバム「light showers」をリリースしている。
- 冨田謙(トミタユズル)
- キーボーディスト、プロデューサー、アレンジャー。これまでにNONA REEVES、宇多田ヒカル、FPM、サカナクション、ORIGINAL LOVE、YUKIら数々のアーティストのレコーディング、ライブツアーに携わってきた。藤井隆の作品にはアルバム「Coffee Bar Cowboy」でアレンジャーとして参加。最新アルバム「light showers」ではプロデューサーを務めている。