音楽ナタリー Power Push - 藤井隆
“道”でつながる音楽史
テレビに育ててもらったからこそ
──自身の音楽史をまとめた1枚に、なぜ「AUDIO VISUAL」というタイトルを付けたんですか?
藤井 CDももちろん思い出いっぱいなんですけど、ビデオも当時の思い出がいっぱい詰まってるんです。なんかね、よみがえってくるんですよ。当時の自分とか、住んでた家とか。最初からCDだけで出すイメージがなかったんです。出させていただくならDVDも付けたいって。だから“視聴覚”という意味で「AUDIO VISUAL」というタイトルにしました。
──音はともかく映像で昔の自分を観るのは恥ずかしいという人も多いかなと思うんですけど。
藤井 恥ずかしいですよ。というか物理的に画角が4:3なのも恥ずかしい(笑)。出てくる携帯電話とかすっごい古くて笑うんですけど。作家の皆さんと同じように、MVの監督さんやスタッフの皆さんも当時わかんなかったと思うんですよ。「藤井隆のミュージックビデオ!? 藤井隆でしょ?」って。でも皆さんすごく丁寧に作ってくださったし、こういう作品が出ていたんだというのを1つの作品に収めたかったんですよね。
──なるほど。
藤井 ツアーにはおじいちゃんおばあちゃんもいらっしゃっていて、話を聞いたら「朝の連続ドラマ観てたよ」って言ってくださるんです。もう十何年も前の話ですよ。当時はわけもわからずやってましたけど、やっぱり僕はテレビを通じて知ってくださる方がたくさんいるんだって改めて気付かされて。テレビに育ててもらったという思いをより強く感じられたから、映像も1つの作品として観ていただきたいという気持ちもあります。
つながる「道」ジャケと狂気
──あとはこのジャケットですね。「Coffee Bar Cowboy」もすごかったですけど、これは一体どういうビジュアルなんでしょうか。
藤井 「AUDIO VISUAL」というタイトルと同時に浮かんできたのがこれなんですよ。「Coffee Bar Cowboy」を出したとき、郷太さんがこれを見つけてくれたんですけど……(「オール バイ マイセルフ」と「Coffee Bar Cowboy」のジャケットを並べながら)。
──あ、Twitterで挙げられてましたね。実は2つのジャケットがつながってると。
藤井 郷太さんはそれを意図的にやったと思ってたんですって。「さすが」みたいな感じでおっしゃってくれたんですけど「いいえ」って(笑)。全然そんなことなくて、偶然なんです。「音楽家としての11年の『道』は、ここに繋がってたんだな」(参照:西寺郷太(@Gota_NonaReeves) | Twitter)なんてさすが作詞家やなあ、そんなところに気付くなんてすごいなあ……ってさんざん話したのに、まったくド天然でまた道路(笑)。
ミッシェル どんだけ道が好きなんだっていう(笑)。「ロミオ道行」から始まってますからね。
藤井 そうなんですよ! 道ばっかなんです。今回のは……僕、信濃町の首都高4号線が走っているあの辺りの道が大好きで。そこで撮りたいというのがまず最初にあって。道が2本、「AUDIO」と「VISUAL」というアイデアで、これは絵に描いたまんまです。絵と違うのはここにフェンスがあることぐらい。カメラマンの高村(佳典)さんに本当に感謝しています。
──説明を聞いてなるほどと思う部分はありますけど、やっぱり「ん?」と思うんですよ。パースも奇妙だし、なぜタクシーの運転手なんだろう?とかツッコミどころはたくさんあって。
藤井 衣装がなかなか決まらないときに、メイクさんが「運転手さんは?」とアイデアをくださって。僕、父が昔タクシーの運転手だったんですよ。んで、藤井隆を姪っ子が言えなくて、タクシー、タクシーって呼んでたんです。そんで「藤井タクシー」ってのが自分の中になんとなく残ってたんです。あとは後付けなんですけど、「ナンダカンダ」から「YOU OWE ME」までご案内します、運転するのは私藤井ですみたいな。この間の「MUSIC JAPAN」は、デビューからずっと振り付けをしてくださっているYoshi Yoshi先生と、PASSPO☆とかの振り付けをされている竹中夏海先生と3人で出たんですけど、Yoshi Yoshi先生は今タヒチアンダンス世界2位なんです。世界2位ってオモロいなあと思って(笑)。Yoshi Yoshi先生はタヒチアンの衣装で、竹中先生はPASSPO☆の衣装を借りてきて、僕はタクシードライバーで。意味がわかんないんですよ。カメラリハーサルが終わったら僕のスタッフがNHKの方から「ちょっとご質問が……」って言われて。
──あははははは(笑)。
藤井 「あの衣装はどういう意味なんでしょうか?」って聞かれたらしくって。丁寧に説明したら本番でカンペが変わって「今日はタヒチアンダンス世界2位の方と、PASSPO☆の振付師の方が一緒に踊ります」って説明が加わっていて。
──や、藤井さんは当たり前のようにしてますけど、不条理は世間の人は怖いんですよ。前回も同じこと言いましたけど、藤井さんの表現は上品に狂ってるんですよ。佇まいが上品だからなんとなく受け入れてしまうけど、不条理で狂ってるんですよね。
藤井 その辺の自覚が本当にないんですよね。周りは言ったことをすぐ理解してくださる方ばかりなので。「MJ」のときは人形を2つ連れてきたみたいなイメージだったんですよ。「人形ですよね、OK!」みたいな感じだと思ってたんで本気でツッコまれるなんて思ってなくて。説明が足りないかもしれないですね。
──そういうまろやかな狂気がお茶の間に紛れ込んでいるのが、藤井さんの面白さだなというのはあるんですけど。
藤井 そういう意味ではね、僕、最近TOKYO MXの「おしえて!美bien!!!」(参照:おしえて!美bien!!!|バラエティ・情報|TOKYO MX)という番組でMCやってるんですけど、それは本当に観ていただきたいです。働くOLさんたちの美と健康に関する疑問や悩みを専門のドクターがズバズバ解決しますという番組で、金曜の夕方15:30からやってるんですけど、OLさんはバリバリ働いてる時間なんですよ(笑)。
──あはははははは(笑)。
藤井 キャスティングも変わってて、バッファロー吾郎の竹若(元博)さん、アジアンの馬場園(梓)さん、桂三度さん、まちゃまちゃさんとか。女性のときは「よしもとクリエイティブOLを代表してお越しいただきました」、男性のときは「メンズOL代表です」って紹介しても、それがなぜか全然OKなんです。ちゃんとスポンサーさんがいらっしゃるのに。あの番組はだいぶおかしいですね。
SLENDERIE RECORD第2弾アーティスト、すでに計画進行中
──「Coffee Bar Cowboy」、そして今回のベストアルバムと、自身のレーベルから2枚の作品を世に送り出したわけですが、藤井さんは今後SLENDERIE RECORDをどういうレーベルにしていこうと考えているのか、すでに次のアイデアを考えていたりしますか?
藤井 はい。これは何度かお話していますけど、「Coffee Bar Cowboy」を出す前、宇多丸さんのラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」に出たときに、アルバム制作のスケジュールも全然決まってないのに「今度『Coffee Bar Cowboy』ってアルバムを出そうと思ってるんです」って言っちゃったんですよ。そういう発表はいろんな方々がしかるべきタイミングを検討してから決定するんだから勝手に言っちゃダメだ……ってわかってるんですけど、一方で占い師のゲッターズ飯田さんに「あなたは言葉の力が強いから、思ったことを口にすると実現する」って言われているので、ナタリーさんに聞かれたら言おうって決めていたんです。
──えっ?
藤井 デビューさせたい人がいて。暗黒天使さんという吉本の芸人さんなんですけど、マドンナとかレディー・ガガとか荻野目洋子さんとかの振りマネをする女性がいるんです。この方はもともと日本版Spice Girlsとして歌手でデビューしていて、10年ぐらい前に吉本に入ってこられたんですね。ある時期からすごく気になっていて、一緒にお仕事してから確信に変わったんですけど、彼女にアーティストとしてデビューしてもらいたいです。
──おお。レーベルをどう動かすかは、主宰者である藤井さん次第ですからね。
藤井 そうなんですよ。僕には決定権があるんです。
──今の段階でそんなふうに話しているということは、藤井さんの中ではかなり具体的なアイデアが浮かんでいるんじゃないでしょうか。
藤井 ええ。
──それって暗黒天使さん本人には伝えてあるんですか?
藤井 伝えました。僕は本当に恵まれていて、音楽でこれまでと全然違うところにジャンプさせてもらったし、もっと元をたどれば間寛平さんの「ひらけ!チューリップ」とか芸人さんが歌を歌う歴史は脈々とあって。自社にレコード会社があるのも、吉本に所属する人間として誇りに思っているんです。その中に自分のレーベルがあるからには、もちろん自分の作品も考えていますけど……夏ぐらいから目の前にフワーッと浮かぶのは暗黒さんの顔ですし。
ミッシェル まぶたを閉じるとあいつの顔が(笑)。
藤井 そう。暗黒さんの顔が浮かぶと、メロディが鳴ってるんですよね。妙なもんで、一緒にいるときにはそんなことないんですけど、会ってないときにメロディが聞こえてくる人で。なので暗黒さんをなんとか、デュエットで……。
──デュエット?
藤井 はい。もう1人の方は他事務所なんで今は言えないですけど、決めている人がいて、もう口説いています(笑)。レコード会社の方からしたら何言ってんの?って話ですけど、もう決まってるし、歌詞も1番までできてますし。あとは早くレコーディングスタジオを押さえようと思っています。
──今後は藤井さんの直感に従ってレーベル運営を進めていきたい?
藤井 と思ってますけど、昔からお世話になっている会社のお偉いさんには「お前最近オモロいことやっとるらしいな。でももし赤字が出た場合は、別の仕事で補填せなあかんで。決定権ってそういうことやからな」って釘を刺されてます(笑)。もちろん直感だけではダメですし、プランニングを考えながら限られた予算の中でベストを尽くしていけるよう、もっともっと勉強してがんばりたいと思っています。
- ベストアルバム「ザ・ベスト・オブ藤井隆 AUDIO VISUAL」2015年10月21日発売 / よしもとアール・アンド・シー
- CD+DVD 4000円 / YRCN-95248
- CD 2500円 / YRCN-95249
CD収録曲
- ナンダカンダ
- 絶望グッドバイ
- 代官山エレジー
- 乱反射
- 未確認飛行体
- わたしの青い空
- ある夜 僕は逃げ出したんだ
- 月と砂漠と
- 赤と黒
- 1/2の孤独
- T&T / T&T
- OH MY JULIET!
- RAIN RAIN RAIN...
- She is my new town
- Selfish Girl feat. 藤井隆 / Small Boys
- ディスコの神様 feat. 藤井隆 / tofubeats
- YOU OWE ME(Radio edit)
DVD収録内容
- ナンダカンダ(Music Video)
- アイモカワラズ(Music Video)
- 絶望グッドバイ(Music Video)
- 未確認飛行体(Music Video)
- わたしの青い空(Music Video)
- T&T(Remix version)/ T&T(Music Video)
- OH MY JULIET!(Music Video)
- Selfish Girl feat. 藤井隆 / Small Boys(Music Video)
- ナウ・ロマンティック / Like a Record round! round! round!(Music Video)
- kappo! / Like a Record round! round! round!(Music Video)
- YOU OWE ME (Music Video)
- 負けるなハイジ -Live-
- アイモカワラズ -Live-
- discOball (Music Video)
ライブ情報
ザ・ベスト・オブ藤井隆 AUDIO VISUAL 発売記念イベント
- 2015年10月21日(水)東京都 新宿LOFT
ザ・ベスト・オブ藤井隆 AUDIO VISUAL TOUR
- 2015年11月2日(月)北海道 Sound Lab mole
- 2015年11月14日(土)大阪府 名村造船所跡地
- 2015年11月15日(日)京都府 KYOTO MUSE
「ザ・ベスト・オブ藤井隆 AUDIO VISUAL TOUR」番外編(※ライブイベント「でゑれ~祭」出演)
- 2015年11月21日(土)岡山県 旧内山下小学校
ザ・ベスト・オブ藤井隆 AUDIO VISUAL RELEASE PARTY
- 2015年11月22日(日)東京都 恵比寿ザ・ガーデンホール
藤井隆(フジイタカシ)
1972年3月10日生まれ。1992年に吉本新喜劇オーディションを経て、お笑い芸人として吉本興業入り。2000年にシングル「ナンダカンダ」で歌手デビューし、同年「NHK紅白歌合戦」に初出場する。数々のシングルのほか、2002年発売のアルバム「ロミオ道行」、2004年発売のアルバム「オール バイ マイセルフ」などで高い評価を得ながらも、2007年8月発売のシングル「真夏の夜の夢」以降はしばらくアーティストとしての活動を休止。2013年6月にニューシングル「She is my new town / I just want to hold you」で6年ぶりに個人としてアーティスト活動を再開した。その後はさまざまなアーティストとのコラボレーションも展開し、2015年6月におよそ11年ぶりとなるオリジナルアルバム「Coffee Bar Cowboy」を自身のレーベル「SLENDERIE RECORD」より発表した。同年10月には初のベストアルバム「ザ・ベスト・オブ藤井隆 AUDIO VISUAL」をリリース。