歳相応の曲を作るのはやめた
──続いて「R15+」とは正反対のタイプの曲で構成された「青春」についてお伺いします。フミヤさんにとって「青春」とは?
「一生青春」という考え方もあるし、今でも青春っちゃ青春だけど、俺にとっては「知識の薄いとき」かなあ。イケイケだった30代も青春ではあったけど、10代や20代の頃とは違ったよね。年齢とともに無垢さが薄れていったし。だから、というわけじゃないけど、これからそのテーマで歌詞を書くのは難しいかもしれない。
──なぜでしょうか?
うーん、日常で使うツールが変わってきたことが一番大きいかな。結局俺が書くのはラブソングなわけだけど、恋愛するうえでのツールが俺の時代とは違うんだよね。今はケータイがないと恋愛が成立しないでしょ? 俺たちの世代はなくても恋愛ができたんだよ。例えば「君がいなくなった」ってフレーズも、今だと「電波が届かないところに行っちゃった」ということになっちゃうでしょ?
──突き詰めるとあまりロマンがないですね。
でも、今の恋愛においてはケータイが必須だから。かと言って、自分の書く曲の歌詞にケータイが頻出するのもなんだし。
──「青春は知識が薄いとき」とおっしゃっていましたけど、プレイリストの選曲もその視点で?
そうだね。それでいて繊細で傷付きやすい年頃というか。あとはノスタルジーだよね。青春時代なんてノスタルジックにならざるを得ない。ただ、昔のことだけじゃ歌詞は書けないから、本を読んだりして情報とかいろいろ仕入れてくしかない。若い子と会話すると言っても娘の友達くらいしかいないし(笑)。
──それでも20代か30代ですよね。
俺の年代で10代の子となんてほとんど接点はなくて。フェスに出るようになってから若いアーティストが挨拶に来てくれたりするけど、そこで会話とか生まれないもん(笑)。こっちから「ちょっとしゃべろうよ」とかも言えないし。
──相手がかしこまってしまうかもしれないですね。
そう、委縮されるんだよ(笑)。それで自分が書ける範囲となると、だいたい20代を中心に上幅と下幅を設定した歌詞になるわけ。
──ちなみに「青春感」という言葉に対するイメージは?
セックスがない感じだね。
──「R15+」とは真逆のものだと。
もうチューだけで精一杯!みたいな(笑)。プラトニックさが青春感かな。「青春」のプレイリストに入ってる15曲は全部ラブソングだけど、セックスを感じさせる要素はひとつもないね。
──青春をテーマに曲を書くのは難しいとおっしゃっていたので、今後は聴けなくなるのかなと思うと寂しいですが。
自分が歌うという意味ではなかなかね。メロディから触発されて書く可能性はあるかもしれないけど。(プレイリストの一覧を眺めながら)いや、そんなことないわ。去年発表した「君の手に初めて触れた日」は青春を歌ってる。自分で歌詞を書いたうえに、歌ってるな。
──早くも前言撤回(笑)。
(笑)。青春から話はズレるけど、最近歳相応の曲を作るのをやめたんだよね。ハリウッドって履歴書に年齢を書かないじゃない? 実年齢が20歳の人が16歳の役のオーディション受けてもいいわけよ。その役柄を演じられるのであれば、どんな年齢の人でもいい。そういう意味で、藤井フミヤの声は20歳の気持ちを歌っても伝わると思うんだよね。声だけなら俺が60歳なんてわからないから。
出棺のときは「TRUE LOVE」
──続いて「Lovers」という同じサブタイトルが付けられているプレイリスト「TRUE LOVE」「Another Orion」についてですが。
「Another Orion」のほうはハートブレイク系が多いかな。逆に「TRUE LOVE」はそんなになくて、前向きな曲が中心。
──ラブソングという点では共通しているけれど明確な違いがある。
そう。ドーンと暗くなりたいときには「Another Orion」をどうぞという感じ(笑)。でもね、全部のプレイリストに共通して、最後は気持ちが上向きになるような曲順にはしてるの。最後にドツボで終わると聴いててしんどいから。
──そんな配慮がありましたか。「TRUE LOVE」は言わずと知れたフミヤさんの代表曲ですが、現在のフミヤさんにとってこの曲はどういう位置付けの作品ですか?
俺が亡くなって、出棺のときはこの曲がかかるだろうね。「涙のリクエスト」じゃないと思う(笑)。
──失礼な言い方になってしまうのですが、「TRUE LOVE」の大ヒットが足かせというか、その後の活動においてプレッシャーになったりはしませんでしたか?
そう感じた頃もあったよ。歌ってほしいと言われるのが「TRUE LOVE」ばかりで、「またかよ」って。でも、いつしか「TRUE LOVE」があったから今の俺があるんだろうなと思い始めた。あと、これを歌わないと怒られるんだよね(笑)。ファンは死ぬほど聴いていると思うけど、一般的な人からしたら俺のコンサートに来て、聴けなかったら「え? 藤井フミヤなのに歌わないの?」って思うでしょ? 「TRUE LOVE」=藤井フミヤだからさ。
──ご自身でもその自覚があると。
大いなるスタンダードになっちゃってる。俺の中で「『TRUE LOVE』の『上を向いて歩こう』化計画」というのがあって。坂本九さんの「上を向いて歩こう」って、すごく有名だし、みんな歌えるけど、ほとんどの人が音源を持ってないんだよ。あの曲は口伝えで広まっていった。
──確かにそうですね。
それこそがポップスの真髄というか。「TRUE LOVE」のCDは持ってないけど、イントロを聴いたらすぐ歌えるような曲にするためには俺が歌い続けるしかないなと。実際に今でも聴かれ続けているし、売れてるんだよ。
──そして「TRUE LOVE」に次ぐフミヤさんの代表曲と言えば「Another Orion」です。
「TRUE LOVE」と「Another Orion」は藤井フミヤというボーカリストの代表曲。この2曲は一生歌い続けます! でも美空ひばりさんはヒット曲がたくさんありながら、代表曲として知られているのは晩年の「川の流れのように」だからね。「愛燦燦」だって亡くなる3年前の曲だし。藤井フミヤとしても「TRUE LOVE」に次ぐヒット曲が生まれる可能性もあるんだよ。
──フミヤさんは還暦ライブで「これからも歌っていく」と宣言されていましたから、大いにあり得ますね。
若いときは50歳くらいで引退するのかなと思ってたけど、実際50歳を迎えてもピンピンしてたし。それどころかまだイケイケだったんだよね。60歳を迎えたときに、この生き方と精神状態でいくと無理が生じるなと思って、人間的には少し落ち着いたけど(笑)、歌えるところまでは歌うよ。だから、最近はファンに俺のことを看取れって言ってるの。君たちには俺を歌わせて、ステージに立たせ続けている責任があるって。俺よりも先に死ぬんじゃないとも言ってる。
──それは殺し文句ですね。
まあ、結局ステージに立つことが自分の健康を保つことにもなってるんだよね。ミック・ジャガーだってポール・マッカートニーだって、いくらでもお金を持ってるし、何もしなくても生きていけるのに、なんでわざわざワールドツアーなんてやるんだと言ったら、ステージを完全に降りたら玉手箱開けた浦島太郎みたいになっちゃうから。でも、ステージに立ってる限りは本当に元気だし健康なんだよ。ステージの魔法だよね。
浮気してもいいけど、いつでも戻っておいで
──90曲を改めて聴いて感じたんですが、フミヤさんの楽曲はほとんどがラブソングですよね。なぜ今も昔もラブソングを歌われているんでしょうか。
以前はメッセージソングも書いたんですけど、伝わりにくいんだよね。それは日本という国柄もあると思う。家に仏壇もあって神棚もあって、普通にクリスマスも祝うからね。宗教観もゆるいし、なんだかんだで平和。政治的なことを歌っても学生運動時代の頃のようには響かない。そういう状況だとラブソングに自分の思いを乗せたほうが伝わりやすい。
──なるほど。
あと音楽は芸術の中では安心感があるよね。小説だと1ページ目から殺人が起きたり、映画だと猟奇的なシーンで始まったりすることがあるじゃない? 小説や映画だとそれがエンタテインメントになるけど、「俺は3人ぶっ殺したぜ!」なんてフレーズで始まる歌は必要とされないんだよ。
──(笑)。
それとラブソングを歌う理由には、人に寄り添いたいというのもあるかな。今の人たちは行き場のない孤独感を感じていると思う。誰とでも簡単につながれるのに孤独みたいな。そういう人たちに向けて歌ってるところはあるし、そこに自分の歌の着地点を見つけた気がしたんだよね。
──デビュー40周年、ソロ本格始動30周年を前にした今、どんな心境ですか?
いやあ、長いこと歌ってきたなと。俺のファンに対しては、「推しのアーティストがいまだに現役でよかったね」って感じかな。
──そんな他人事みたいに(笑)。
だって中には引退したり、亡くなっちゃったりする人もいるからさ。俺はファンにとって実家の味噌汁みたいな存在でいれたらと思うんだよ。ほかのアーティストに浮気してもいいけど、実家の味噌汁を飲みたいなと思ったらいつでも戻っておいでって言ってるの。
──いつだって迎え入れる準備はできているし、ステージに立ち続けると。それがライブの最後にいつも口にしている「また遊ぼうぜ」という言葉につながるわけですね。
そういうこと。
ライブ情報
FUMIYA FUJII 40th Anniversary Tour 2023-2024
- 2023年9月23日(土・祝)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
- 2023年9月24日(日)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
- 2023年9月30日(土)滋賀県 滋賀県立文化産業交流会館
- 2023年10月1日(日)和歌山県 和歌山県民文化会館 大ホール
- 2023年10月7日(土)埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール
- 2023年10月9日(月・祝)栃木県 宇都宮市文化会館
- 2023年10月14日(土)広島県 上野学園ホール
- 2023年10月15日(日)山口県 下関市民会館
- 2023年10月21日(土)北海道 岩見沢市民会館 まなみーる
- 2023年10月22日(日)北海道 旭川市民文化会館
- 2023年10月27日(金)東京都 かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール
- 2023年10月28日(土)岩手県 盛岡市民文化ホール 大ホール
- 2023年11月3日(金・祝)新潟県 長岡市立劇場
- 2023年11月4日(土)長野県 まつもと市民芸術館
- 2023年11月10日(金)徳島県 あわぎんホール
- 2023年11月11日(土)高知県 高知市文化プラザ かるぽーと
- 2023年11月18日(土)大分県 エイトピアおおの(豊後大野市総合文化センター)
- 2023年11月19日(日)熊本県 市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
- 2023年11月25日(土)山形県 山形市民会館 大ホール
- 2023年11月26日(日)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
- 2023年12月2日(土)茨城県 水戸市民会館 グロービスホール
- 2023年12月3日(日)福島県 いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール
- 2023年12月8日(金)大阪府 フェスティバルホール
- 2023年12月9日(土)大阪府 フェスティバルホール
- 2023年12月16日(土)鳥取県 米子市公会堂
- 2023年12月17日(日)島根県 出雲市民会館
- 2023年12月23日(土)埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール
- 2023年12月24日(日)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
- 2024年2月10日(土)沖縄県 那覇文化芸術劇場なはーと
- 2024年2月17日(土)千葉県 市川市文化会館 大ホール
- 2024年2月18日(日)千葉県 市川市文化会館 大ホール
- 2024年2月24日(土)静岡県 静岡市民文化会館
- 2024年2月25日(日)山梨県 YCC県民文化ホール(山梨県立県民文化ホール)
- 2024年4月13日(土)福岡県 福岡サンパレス
- 2024年5月18日(土)京都府 ロームシアター京都 メインホール
- 2024年5月25日(土)東京都 東京国際フォーラム ホールA
- 2024年5月26日(日)東京都 東京国際フォーラム ホールA
※未発表の県は調整中につき後日発表。
プロフィール
藤井フミヤ(フジイフミヤ)
1962年生まれ、福岡県出身。1983年から1992年までチェッカーズのリードボーカルとして活躍後、1993年11月にシングル「TRUE LOVE」でソロデビュー。人気ドラマ「あすなろ白書」の主題歌にもなった同作は200万枚を超えるセールスを記録し、オリコン5週連続1位という快挙を成し遂げた。その後も今日に至るまでコンスタントにリリースとツアーを展開している。2013年7月にデビュー30周年&ソロデビュー20周年を記念したシングル「青春」を発表し、大規模なアニバーサリーツアーを実施。バンド編成でのライブ以外にも、フルオーケストラ公演を開催するなどさまざまな形で音楽活動を行っている。2020年に実弟である藤井尚之とのユニットF-BLOODの活動を再開。デビュー40周年を迎えることを記念して、2023年秋から47都道府県を回る全国ツアーを開催する。
藤井フミヤ OFFICIAL (@ff238_official) | Twitter