フジファブリック「PORTRAIT」インタビュー|原点回帰のアルバム「PORTRAIT」で描いたデビュー20周年の肖像

今年デビュー20周年を迎えるフジファブリックがニューアルバム「PORTRAIT」をリリースした。

このアルバムには昨年リリースした配信シングル「ミラクルレボリューション No.9」「Particle Dreams」、フレデリックとのコラボ曲「瞳のランデヴー」、テレビアニメ「新しい上司はど天然」オープニングテーマの「プラネタリア」、NHK「みんなのうた」に提供した「音の庭」のほか、バンドの根幹を表現しつつも新たな音作りに挑戦した新曲も多数収録。「PORTRAIT」というタイトル通り、フジファブリックの肖像と呼ぶべき作品になっている。

“原点回帰”をテーマに制作されたという本作はどのように生み出されたのか。音楽ナタリーでは山内総一郎(Vo, G)にインタビューを行い、新録曲を中心にアルバム制作の歩みを語ってもらった。

取材・文 / 森朋之

自分たちのコアな部分に集中したかった

──ニューアルバム「PORTRAIT」、素晴らしいです。フジファブリックの個性がさらに研ぎ澄まされ、しかもポップに昇華された作品だなと。

ありがとうございます。20周年ということもあって、“フジファブリックの肖像”じゃないですけど、このバンドがもともと持っているものを大事にしながら制作したかったんですよね。原点回帰というコンセプトは最初からありましたが、「原点回帰とはなんぞや?」と考えてみると、やっぱりポップなものであったり、耳に残る音楽を作るということなのかなと。それはフジファブリックの根本的な考え方だし、そういう精神でずっと活動してきたんですよね。もちろん20年続けてこられたことへの感謝もすごくあって。聴いてくださる方がいなければ、バンドなんてただうるさい音を鳴らしてるだけのやつらなんで(笑)。そういうことも含めて、自分たちのコアな部分に集中したいと思ってました。

──自分たちの存在意義を見つめ直す時間でもあった?

そうですね。例えば1曲目の「KARAKURI」(作詞:加藤慎一 / 作曲:山内総一郎)はかなりプログレッシブな曲なんですけど、演奏者のエゴでそうなったのではなくて。1つひとつのフレーズが絡み合うことで、なんだかヘンテコな感じになってるというのかな(笑)。手前味噌もいいところですけど、演奏の面白さみたいなものもちゃんと出ているし、これは自分たちにしかできないポップじゃないかなと。曲順は悩みましたけど、これをアルバムの1曲目に持ってくるのもフジファブリックらしいと思うんですよね。すでにライブでも演奏してますけど、この曲のことを言われることが多いし、やっぱり印象に残るんだと思います。

──「この曲のことを言われる」というのは、「さっきやってた『KARAKURI』って曲だけど、あれは何?」みたいな?

そうそう(笑)。2月のイベント(ロックバンドとお笑い芸人によるライブイベント「ROCK or LIVE!-ロックお笑い部- Extra」)でご一緒したASIAN KUNG-FU GENERATIONの皆さんもリハのときからずっと言ってたし、かが屋、ミキのお二人も「面白い曲ですね」と言ってくれて。あとはやっぱりお客さんの反応ですね。このご時世には合わない曲だろうなと思ってたんですけど(笑)、ファンの皆さんは「(こういう曲を)待ってた」みたいな感じで。とても手応えがあったし、うれしい気持ちになりました。

──楽曲の展開もアレンジもめちゃくちゃ独創的だし、確かに時流とは関係ないところに存在している曲かも。

絶対に時流ではないですね(笑)。どの国のチャートのトップ100にも「KARAKURI」みたいな曲は入ってないし、“カウンター”なんて言うと意識しすぎですけど、「自分たちの居場所はここです」という意思表示にはなると思います。こういう組曲的な作り方はフジファブリックならではだと思うし、ぜひ聴いてほしい1曲ですね。

──タイトル曲「Portrait」(作詞:加藤慎一 / 作曲:山内総一郎)もアルバムを象徴する楽曲です。バンドの歩みが詩情豊かに描かれていて、グッと来ました。

この歌詞は僕も大好きですね。2年前にソロアルバム(「歌者 -utamono-」)をリリースしたときに「どういうことをすれば、もっとバンドに貢献できるんだろう?」と考えて、まずはコンポーズというか、いい曲をたくさん作るしかないなと。実際、今までにないくらいたくさん作ったんですよ。月に1回、スタッフを交えて3~5曲くらい聴いてもらう“デモ聴き会”みたいなことをやってるんですけど、アルバム制作の時期は20曲くらい持って行って。その中からバンドの素の姿というか、ありのままの姿を表現できそうな曲を選んで。「Portrait」もそのうちの1曲ですね。これもソロアルバムを作ったときに感じたことなんですが、歌詞に関してはもっとメンバーの色を出してほしくて。みんなの音、みんなの言葉が欲しかったというか。

──3人の個性が集まることで、さらにフジファブリックらしさが濃くなる?

そうですね。「Portrait」はバンドのことを表現したくて。15周年のタイミングでもソロでもバンドのことを歌った曲を作ったんです。「Portrait」では僕以外のメンバーの言葉で、今までのフジファブリックを表すような歌詞を書いてほしかったんですよね。それは僕だけじゃなくて、ファンの方も求めていることだろうなと。「KARAKURI」は言葉遊び的な面白さがあるんですけど、「Portrait」は真正面からバンドと向き合って書いてくれました。

──「自分のためだよと 思ったことが / いつか誰かの ためになりたいと」というフレーズも印象的でした。音楽を続ける意味が込められているというか。

そうでなくちゃいけないし、そういう気持ちは絶対になくしちゃいけないとも思っています。……いい歌詞ですよね、本当に。

やっぱり音楽に救われてる

──「音楽」(作詞・作曲:山内総一郎)にも音楽に対する深い思いが刻まれています。すごい曲名ですね。

大それてますよね(笑)。いつの間にかできてしまったというのが正直なところです、この曲は。最初はガットギターで弾き語りをしながら作っていたんですけど、朴訥としすぎるというか、アルバムに入れるには色合いがモノトーンっぽいというか。もしかしたら初めてのやり方かもしれないですけど、鍵盤のダイちゃん(金澤ダイスケ)にコードのテンションを足してもらったんですよ。そこからキャッチボールしていくうちにコードがきれいにつながって、シンセなんかも入ってきて。世界観はすごく広がったけど、「ここにしっかり作り込んだ歌詞を乗せると、ちょっとトゥーマッチかもな」と思ってしまって。メモ書きというかひとり言というか、それくらいの感じで書いたほうが、ほかにはない音楽になるんじゃないかなと思って、鼻歌を歌いながら作っていきました。歌詞については……実はこの曲を書いてたとき、あまり体調がよくなかったんですよ。アルバムに入ってる「月見草」とかも作っていて、「よっしゃ!」という感じで歌入れをしようとしたら声が出ないという。

──そのときのテンションも出ちゃってますね。いまいちやる気が出ないんだけど、「民生の新譜がよかったよなあ」「サザンの新譜もよかったよな」と思ってるっていう。

確かに(笑)。なんて言うか、音楽に救われてるんですよね、やっぱり。幼少の頃もそうだったし、酔っぱらっていい気分になってるときもそうだし、落ち込んでるときもそうだし。いろんな音楽に助けられてるし、自分たちの音楽に救われることもあって。そんなことをツラツラ思いながら書いてますね、「音楽」は。この曲は実はラブソングなんですよね、音楽や憧れのアーティストに対しての。“民生”“サザン”と敬称を付けずに歌詞にしてますけど、もちろんめちゃくちゃ尊敬し続けています。

山内総一郎(Vo, G)

山内総一郎(Vo, G)

──音楽に対する憧れもずっと変わらない?

変わらないですね。音楽を作り続けて、それで生活もさせてもらってますけど、「何かをなしえたか?」と言われたら、何もないような気がして。ただ、音楽がないとダメなヤツなんですよ。自分でも中毒だなと思いますけど、とにかくずっと聴いてるので。音楽って、目に見えないじゃないですか。鳴ったらすぐに消えちゃうし、だからこそ面白くて、人の心に残るのかなと。本当にいろんな思いがあるんですが、その一片を曲にしたのが「音楽」ですよね。