ナタリー PowerPush - フジファブリック

映像作家スミス&レコーディングエンジニア高山徹 クリエイターが語るフジファブリックの10年

スミス(映像作家)インタビュー

デビュー以来10年にわたり、要所要所でフジファブリックのビデオクリップやライブ演出の映像に携わってきた映像作家スミス。「TAIFU」や「銀河」といった初期の代表曲、そして最近の「フラッシュダンス」「バタアシParty Night」まで数々のビデオクリップを手がけてきた彼に制作の裏側とメンバーへの印象を語ってもらった。

勝手にイメージが湧いた

──スミス監督は初期の楽曲からビデオクリップの監督を務めてますが、フジファブリックとの出会いはどんな感じだったんでしょうか。

スミス

最初はマネージャーさんから「いいバンドがいる」と聞いて、下北沢SHELTERにライブを観に行ったんです。それが出会いですね。ライブがとにかくよくて、それをきっかけに話をするようになって。あと彼らがまだインディーだった頃に「花屋の娘」という曲のビデオクリップを「撮り直したい」という話があって。それだったら僕がやろうと。でも「今は予算がない」ということだったんで「バンドの貯金、いくらある?」って聞いて。「7万円」って言うから「じゃあそれで撮りましょう」と(笑)。

──それで初めて「花屋の娘」を撮ったんですね。そこから続けて関わるようになったということは、スミス監督の映像と志村さんのピントが合ったんでしょうか。

そこはちょっとわからないですけどね。ただ、志村くんは「花屋の娘」以降、「俺は二度と演技はしない」って宣言をしたようです(笑)。まあ、そこから最初の「四季盤」という4枚のシングルと1stアルバムまで、いろんな曲の映像を一緒に作ることになって。とにかく僕はフジファブリックの曲を聴いてすごくいいと思ったし、「こういうふうにしたい!」っていうのがすごくあったんですよね。勝手にイメージが湧いたというか。

──デビュー後に手がけたビデオクリップにはどこか共通した空気がありますね。

最初から「四季盤」が出るのが決まっていたから、それなら四季折々で統一感が持てるような世界観が作りたいというのは考えてました。切り口やコンセプトは変わっても、例えば女の子が出てくるみたいな決まりごとを作ることでフジファブリックの世間からの見え方を統一したかったというか。そういう思いで作っていきたいというのがあったと思います。

──デビューは10年前になるわけですけれど、その頃のフジファブリックの印象は振り返ってどんな感じでした?

でも、今もそんなに変わっていないと言えば変わっていないですね。相変わらずだと思います。ちょっとひねくれた感覚があって、ストレートなものは作りたくない。でも、“ただ変わったもの”にはしたくないっていうか。いかに変わった切り口で、どれだけみんなに伝わるようなものを作れるか。そういうコンセプトは最初からあるし、今も変わらないと思います。

不思議と継ぎ目を感じない

──スミス監督から見た志村さんの印象ってどんな感じでしたか? 僕が当時取材したときの印象で言うと、すごく静かでボソボソとした語り口だったんですけれど、言うべきこととか「これは違う」ということはしっかりと強く言われていた記憶があって。映像を作るにあたってもいろんな打ち合わせや共同作業があったと思うんですが……。

スミス

不思議な人という感じですね。何を考えているのかを掘り下げるのが難しいという印象はありました。何か考えていることは絶対あるんですよ。でも、それにどうやってたどり着くかが難しいというか。また思っていることをどうにかして世に広めたい、それを手伝いたいっていう気にさせる人だと思います。それとバンドのために生きているような人だったと思うんです。あんまりほかのことには興味がないっていうか。

──音楽へかける思いの純度が高い。

バンド、音楽、歌が好きな人なんだなっていう。だから変わった人ですよね。そこらへんがすごく純粋な気もするし、欲深い感じもする。なにしろ、テレビでしゃべるのが得意なタイプでもないし、音楽を作ってライブだけやっていればいいような人ですからね。でも最初に曲を聴いたときに「こんなにいい曲があるんだから、これは絶対みんなが『いい』って言うに違いない」って思ったんです。だからどうやったらみんなにそれを伝えられるのか、自分が何ができるのかっていうことを考えたんです。

──アルバム「STAR」からフジファブリックは3人体制で続けることを選びます。その決断についてスミス監督はどういうふうに見ていました?

やっぱりうれしかったですね。またフジファブリックの音楽を聴けるというのは素晴らしいなと思ったし。ただ「どうやってやるのかな」とも思いました。今まで聴いてきたものと同じか、もしくはそれ以上のものを作っていかないとダメと思ったし。

──「流線形」で再びビデオクリップを手がけるときにはどんなことを考えましたか?

「STAR」を出して、最初に3人でツアーをやりましたよね。そのツアーのセミファイナルのZepp Tokyoがすごくよかったんです。すごく合点がいって。だから「流線形」のときには、とりあえず3人だということを世に知らしめたほうがいいなと思って、それがわかりやすく伝わるものを作りました。

──2013年に発表された「FAB STEP」収録の「バタアシ Party Night」に関してはどうでしょう? メンバー3人のダンスによるビデオクリップになっていますけれども。

まずは「踊る」っていうのと、昔からある、ちょっと怪しげな、カラフルだけど暗いような世界観をわかりやすく見せたいなと思っていて。

──3人のダンスを見ての印象はどうでしたか?

そこはまあ……ギリギリうまかったな、っていう(笑)。できてよかった、まとまってよかったです。

──スミス監督は今のフジファブリックをどう見ていますか?

バンドとしてつながっている感じがありますよね。4人から3人になったし、声も変わったのに、不思議と“継ぎ目”を感じない。最初からみんな同じ方向を見ていたんだなって思います。もちろん成長は感じますけれど、芯の部分はブレないというか。相変わらずのフジファブリックだなって、今でも思います。

さらなる代表曲を作ってもらいたい

──今回「FAB BOX II」「FAB LIVE II」という2つの映像作品集がリリースになりますが、スミス監督が思う2作の見どころは?

スミス

フジファブリックのライブは、もちろんバンドもいいんですけれど、とにかく毎回照明が素晴らしいんです。そこに注目して観てもらうといいでしょうね。今までいろいろライブを撮っていましたけど、照明ってこんなに演出できるんだなっていうのを、フジファブリックのライブを観ると思うんです。すごく考えられて作られているというか、親身になっているというか。すごくいいんですよね。

──スミス監督はライブでの映像演出にも携わっていますよね。

両国国技館でやったライブでも「蒼い鳥」という曲で曲に合わせて映像を作ったりしてましたけれど、本格的に映像を導入したのは「Light Flight」ツアーのときですね。背面を全部LEDのパネルにして映像を流したり。それは僕がやりました。今回リリースされる作品には入ってないんですが、「FAB LIVE」に収録されてます。

──ライブの映像を作るときってどういうことを考えるんでしょう?

あんまり出しゃばっちゃダメですね。1個の照明のつもりでいる感じです。観ている人がより現実を忘れられるような空間を作るのに映像を使うのが一番やりたいことで。あとライブの映像を作るとなるとメンバーがやりたいことを聞けるし、ほかにも照明だったり舞台監督だったりいろいろな人と一緒に関わっていけるし、すごく楽しいです。

──最後に今後のフジファブリックに期待したいことは ?

期待したいこと……なんだろうな、やっぱりどんどん曲を作ってほしい。それくらいですね。新しいものがたくさん聴きたいし、さらなる代表曲を作ってもらいたいって思います。

ライブDVD / Blu-ray「FAB LIVE II」 / 2014年5月21日発売 / Sony Music Associated Records
2014年5月21日発売 / Sony Music Associated Records
DVD2枚組] 8640円 / AIBL-9292~3
[Blu-ray Disc] 9720円 / AIXL-48
スミス

映像作家。これまでにフジファブリックをはじめ、氣志團、いきものがかり、マキシマム ザ ホルモンらのビデオクリップを手がける。観る者を釘付けにする奇抜な作風に定評がある。

フジファブリック

志村正彦(Vo, G)を中心に2000年に結成されたロックバンド。都内を拠点に活動を開始し、2002年にミニアルバム「アラカルト」をリリース。そのユニークなサウンドと捻りの利いたアレンジ、志村の綴る独特の歌詞が注目を集める。2004年4月にシングル「桜の季節」でメジャーデビュー。「フジファブリック」「FAB FOX」「TEENAGER」といったアルバムがいずれも高い評価を受け、2009年発売の4thアルバム「CHRONICLE」でさらに支持を拡大するも、同年12月24日に志村が急死。バンドは山内総一郎(Vo, G)、金澤ダイスケ(Key)、加藤慎一(B)の3人でその活動を継続し、2011年9月に新体制で初となるアルバム「STAR」をリリース。その後2012年発売の「徒然モノクローム / 流線形」「Light Flight」、2013年の「Small World」という3枚のシングルを経て、3月にニューアルバム「VOYAGER」を発表した。2013年10月にはダンスロックをテーマにした4曲入りCD「FAB STEP」で新境地を開拓した。デビュー10周年を迎えた2014年は、2月に発表されたシングル「LIFE」を皮切りに、「FAB BOX II」「FAB LIVE II」という映像作品を連続リリース。