ナタリー PowerPush - フジファブリック
キーパーソン3組とメンバー3人が語る アルバム「STAR」完成への道のり
飲みに行ったときに「僕が歌うわ」って話をした
──そして今回、その歌詞をメインボーカリストとして歌うことになったのは山内さんですよね。
山内 そうですね。今思えば12月のリハーサルで「ECHO」を歌っているときも「この曲は自分にしか歌えない」と思っていたんですよね。あとは前作「MUSIC」で「会いに」と「Mirror」を歌っていたこと、それから「フジフジ富士Q」で歌ったことで、ギターを弾くのも歌うのも音楽を表現するという意味では一緒だなと思ったんです。それで……あれは大震災の直前かな。打ち合わせのあと、飲みに行ったときに「僕が歌うわ」って話をしたんです。
──頼もしいですね。
山内 ただそのときは「がんばらないとな」とは思いつつ、リスナーのことまでは想像できていなかったんですよ。ゼロからいきなりライブやレコーディングで歌うことになったわけで、その階段を駆け上がっていくスピードにすぐには付いていけなかったんですけど(笑)、リハーサルや作業を進めていく中でイメージできることも増えていって、日に日に思いが強くなっていったところもあるし、逆にいい意味で力が抜けたところもあったり。そして、今は志村くんの歌にしろ新しいアルバムの曲にしろ、格好つけずに自分の思いをちゃんと伝えなきゃなってようやく思えるようになりました。
──サウンド面ではどんなアルバムをイメージして作業に臨んだんですか。
加藤 フジファブリックを続けていこうと決めたとき、「バンドを続けるということはライブもやるってことだよな」って気が付いて。ライブをやるなら、腰を据えて爆発的な音をドンと出すことができたらいいなって。その思いを「STAR」という曲で形にしたことでアルバムの進むべき道が定まったところはあります。そして、フジファブリックらしさっていうものを考えたとき、キーボードリフやギターリフで押す曲は僕ららしさのひとつでもあるということで、「スワン」や「Splash!!」を作ってみたり。
──フジファブリックらしさということでいえば、「アンダルシア」は志村くんのストレンジな歌詞世界を加藤さんが見事に引き継いだ1曲ですよね。
加藤 この曲は最初センチメンタルな歌詞だったんですけど、ほかの曲と温度が近くなりすぎてしまったこともあって、喜怒哀楽や春夏秋冬、楽しいところや感動するところをあれこれ入れ込んでいったんです。でもあまりにいろいろ入れてしまったので、「実在の物語および / 人物には一切関係しておりません」という注意書きの一節でバランスを取ることにしたっていう(笑)。
金澤 そして、その歌詞を受けたサウンドも、ドラムも最初は生音だったんですけど、メカっぽい打ち込みになって。リハーサルでやってたアレンジから180度変わったというか、このアルバムの中ではいろんな意味で突き抜けたものになりましたね。
──そして、スカパラホーンズが参加した「パレード」はしなやかなグルーヴが印象的な、フジファブリックの新機軸となる1曲だと思いました。
山内 体が自然に揺れるリズムやグルーヴの曲ができたらいいなっていう思いから生まれた曲なんですけど、そこにメロディを乗せてみたら、すごいポップなものになっていったので、さらに躍動感のある歌詞を乗せていきたいなって。そこで加藤さんとの共作で歌詞を書く過程で、「ぐにゃぐにゃ」とか「あーだこーだ」とか、そういった加藤さんの必殺ワードを盛り込んでいったんです。さらにこの曲にはホーンを入れたくて、大先輩のスカパラにオファーしたらOKをもらえたので、そこで歌詞もさらににぎやかなものになるよう手を加えて。結果として、ドキドキした感情が伝わってくるものになっているんじゃないかと思いますね。
3人になったことで生まれた音の隙間をどう使うのか
──いわゆる“フジファブリックらしさ”と同時に、“新しさ”も強く感じるんですが、これは物理的にバンドのフォーマットが変化したことも大きかったのでは?
金澤 そうですね。バンドのバランスが変わったことで、以前と比べてキーボードの比重は増してますね。
山内 今回のインタビューではありがたいことに「フジファブリックらしいサウンドですね」って言ってもらうことが多いんですけど、こんなにキーボードを入れたことはこれまでなかったですし。加藤くんのプレイにしても、今回は尻上がりに調子が良くなっていったし。ドラムの刄田くんとのコンビネーションがより密になったことで、ベースが以前よりうねってるんですよね。
金澤 それを言うなら、山内くんもライブで歌いながらギターを弾くことを想定して、できる限りオーバーダビングしなかったんですよね。だから、3人になったことで生まれた音の隙間をどう使うのか。僕らにとってスリリングなことに挑戦しているという意識がありました。
──よくよく聴けば、この作品のバンドアンサンブルはかなり新しく変化している、と。
山内 そうですね。だからよく聴いていただければ、いろいろ発見してもらえるんじゃないかと思います。そして、この作品は自分たちをそのまま表したものなので、少しでも前へ進んでいきたいと思っている人、立ち止まっていたくない人に寄り添うことができるようなアルバムになったらいいなって。とはいえ、聴く人によって思うこと、感じることはさまざまでしょうし、聴く人それぞれ自由に捉えてもらえればうれしいですね。賛否両論あるアルバムであることは僕らもわかっているというか、その賛否も作品を聴いてもらって初めて出てくるものだと思ってますから。
金澤 そして、このアルバムを完成させたことが僕ら3人の自信にもなっているんです。作品が完成した今思っているのは「この先なんでもできるな」ということ。そのワクワク感が次につながっていくんじゃないかと思っていますね。
加藤 11月からはツアーもありますからね。
山内 ライブに関しては、シークレットも含めてまだ3回しかやってないんですけど、その都度変化してきているし。それをワンマンではどうまとめるか。実際やりたいことはいっぱいあるんですよ。例えばフリーキーな部分を作ったり、打ち合わせなしにその場で曲を展開させたり。自分たち自身が楽しめるように、そして自分たちが楽しむことで、それがお客さんにも伝わると思うので、まずはそこからだなと今は思っていますね。
CD収録曲
- Intro
- STAR
- スワン
- ECHO
- 理想型
- Splash!!
- アイランド
- 君は炎天下
- アンダルシア
- Drop
- パレード
- cosmos
初回限定盤DVD収録内容
“STAR” MUSICVIDEO
フジファブリック
志村正彦(Vo, G)を中心に2000年に結成されたロックバンド。都内を拠点に活動を開始し、2002年にミニアルバム「アラカルト」をリリース。そのユニークなサウンドと捻りの利いたアレンジ、志村の綴る独特の歌詞が注目を集める。2004年4月にシングル「桜の季節」でメジャーデビュー。「フジファブリック」「FAB FOX」「TEENAGER」といったアルバムがいずれも高い評価を受け、2009年5月発売の4thアルバム「CHRONICLE」でさらに支持を拡大するも、同年12月24日に志村が急死。バンドは山内総一郎(Vo, G)、金澤ダイスケ(Key)、加藤慎一(B)の3人でその活動を継続し、2011年9月に新体制で初となるアルバム「STAR」をリリース。
2011年9月21日更新