ナタリー PowerPush - フジファブリック
キーパーソン3組とメンバー3人が語る アルバム「STAR」完成への道のり
──桜井さんとフジファブリックは同じマネジメント事務所所属なんですよね。
そうですね。ただ彼らとの出会いは、実際に会う前に「Great3の片寄(明人)くんがプロデュースしてるんだよ」ってことで音を聴かせてもらったのが最初です。そこで受けた最初の印象は、懐かしい感じというか。自分たちが高校生だった80年代半ば頃っていうのは、パンクロックが終わってニューウェイブが始まっていく流れで、有頂天とかインディーズのバンドが出てきた時代。ちゃんとした音楽のルーツを辿らないで、楽器をおもちゃとして扱って、友達と一緒にトンチ合戦みたいな感じで変なメロディとか音を出し合っていくことが許されてた時代だったんですね。で、そういうノリは90年代以降なくなっていくんですけど、2000年代に入って彼らの音を聴いたとき、昔自分が友達とバンドで遊んでいた記憶だったり、友達を笑わせてやろうと思って作るメロディ感を感じたっていうか。それが天然かどうかはわからなかったんですけど、バンド内で新しい遊びを発見して楽しんでいる子供たちっていう印象を受けて。彼らのバンドというものへのかかわり方がすごく懐かしいなって思ったんですよね。
──なるほど。
その後、演奏やライブが達者になっていく様を横で眺めていたんですけど、2008年の「TEENAGER」で僕は一気にただのファンになったんですよね。あのアルバムで何かが一体化したような、そんな印象を受けましたね。志村くんは素直に歌に向かい始めたように思ったし、バンドサウンドもできあがっていきながら、中だるみするんじゃなく加速していってる感じがあって、「こういう瞬間があるとバンドってやめられなくなるよね」って思いました。
──そして2009年の末に志村くんが亡くなって、メインソングライターにしてボーカリストを失った状態でフジファブリックは完全な新作の制作に向かっていくことになった。そこで桜井さんは「Lyric Advice」、つまり歌詞のアドバイザーとしてバンドにかかわることになったんですよね。
レコード会社のA&Rの方から連絡があったんですよね。今まで志村くんが書いていた歌詞を今回3人が担当するにあたって、作詞の経験が少ないから「臨時の先生としてうちの高校に来てくれないか」みたいな感じです(笑)。自分だったら乗り切れる自信がないこの局面を「彼らはどう乗り切るのか? この状況をひっくり返すのは大変だぞ」って思いつつ、「TEENAGER」以来の素直なファンとして彼らの展開を楽しみにしていたところだったのに、まさかその大変な仕事の当事者の1人になるとは(笑)。ただ、状況が状況だったんでレコード会社の方がどこまでのかかわり方を考えていたのかはわからないですけど、そのとき僕が思ったのは、僕のほうから具体的に「こういう1行はどう?」って言ってはいけないなってことでした。アルバム制作前に彼らが置かれた状況というのは、大変でもあるけど、逆に考えれば滅多なことでは味わえない特殊な状況でもあるわけで、「そのことがビシビシと感じられる言葉を嘘付かずがんばって書いてみようよ」って。旗振って、そう応援しつつ、地獄のようなミーティングを重ねて、最後は僕が何もしなくても3人が協力しあって言葉を生み出してた。「よくここまでのアルバムができたな」と本当に感心しましたね。
──3人から出てきた言葉に対して、桜井さんはどうアドバイスしたんですか?
最初から最後まで決めていたのは、彼らが書いた歌詞に対してどんどん質問をしていこうということ。「この歌は何が言いたいの? だとしたらこの1行はどういう意味なの?」とか、「ここがよくわからないんだけど、どういう気持ちなの?」とか、そうやって一つひとつ訊いていくと、書く人はその言葉に向き合わざるを得ないわけで、そうすることで自分の腹の中が見えてくるんですよ。そういう作業を延々と繰り返していましたね。ただ、最初にデモのレコーディングの様子を見に行ったとき、のちに「STAR」になる曲がすでにあって、その歌詞を読んだときに「あ、3人は腹を据えてやってるんだな」ってわかったので、まずは安心したのを覚えてますね。
──腹を据えてやっているというのは?
極端な話、バンドを止めるか、おっかなくても新生フジファブリックとしてやっていくのか。その二択しかなかったと思うんですけど、彼らは後者をきちんとやろうとしていたということですね。もし仮に腹が据わってなかったとしたら、据わらせる作業は大変だなと思っていたんですけど、彼らはすでにそれができていたんです。ただし、ギターを弾くのとは違って、作詞はうまくなっていくものでもあるけど、必ずしもうまくなくてもいいんですよね。グッとくればいいわけだから。そして彼らは人がグッとくるような場所にすでに立たされているわけだから、それを素直に……素直になるのが一番難しいんですけど、作詞経験に関係なく、それを言葉にしていけばよかったんです。だから「うまいこと言わなくていいし、うまい一言なんてむしろ聞きたくないよ」ってことは当初から言ってましたね。
──つまり「どう言うか」ではなく「何が言いたいのか」ということ?
そういうことです。フジファブリックのファンの皆さんも、そうじゃない皆さんも、突然大事なものを失うということは必ず起こるわけで、そのときの「じゃあどうする?」という問いに対して、答えを出す音楽ができたということですよね。彼らはやってくれたと思いますよ。そして僕がこの作品を前にして不思議に思うのは、なんかね、新しい音楽の響きがそこにあるような気がするんですよね。サウンドだけを取り上げても前とは違う新しいものを生み出しているように思うんです。そして今回のアルバムではベースの加藤くんが作詞で才能を発揮して、特に「アンダルシア」では当初ラブソングだった歌詞を一晩で音声重視のブッ飛んだものに書き換えてきたんです。志村くんの持ってた奇天烈さもフジファブリックの大きな武器だったと思うんですけど、変幻自在で掴めない感じを今度は加藤くんが担当して、また別の“加藤宇宙”を繰り広げた感じというか、「これはスゴい!」と思いましたね。金澤くんはソングライティングに苦しんでましたけど、ラストの「cosmos」では彼のロマンチストぶりが発揮されているように思いますし、山内くんも相当悩みながら、「ECHO」や「Drop」といった曲を見事に書き上げましたからね。
──そんな今回の作品を前に、桜井さんはどんなことを思われますか?
3人とも今回は置かれた状況から一歩踏み出していかなきゃならない局面だったし、そこはクリアできたと思うので、この作品以降、彼らは言葉でどんな世界を作り上げていくのか。その点が大いに楽しみですね。今回のアルバムはロックバンドらしい作品だと思うんですよ。それがどういうことかというと、最初の1秒で最速にもっていく勢いがあるということ。そういう勢いはいつでも出せるものじゃないんですよ。その意味でこの作品は何十年後かに振り返っても大事な1枚になるんじゃないですかね。
CD収録曲
- Intro
- STAR
- スワン
- ECHO
- 理想型
- Splash!!
- アイランド
- 君は炎天下
- アンダルシア
- Drop
- パレード
- cosmos
初回限定盤DVD収録内容
“STAR” MUSICVIDEO
フジファブリック
志村正彦(Vo, G)を中心に2000年に結成されたロックバンド。都内を拠点に活動を開始し、2002年にミニアルバム「アラカルト」をリリース。そのユニークなサウンドと捻りの利いたアレンジ、志村の綴る独特の歌詞が注目を集める。2004年4月にシングル「桜の季節」でメジャーデビュー。「フジファブリック」「FAB FOX」「TEENAGER」といったアルバムがいずれも高い評価を受け、2009年5月発売の4thアルバム「CHRONICLE」でさらに支持を拡大するも、同年12月24日に志村が急死。バンドは山内総一郎(Vo, G)、金澤ダイスケ(Key)、加藤慎一(B)の3人でその活動を継続し、2011年9月に新体制で初となるアルバム「STAR」をリリース。
2011年9月21日更新