それって初恋ってことだよね?
──今回のシングルでも渕上さんは2曲とも作詞をされています。まず「予測不能Days」の歌詞は、ここまでのお話しぶりとは対照的に、希望的というか、視界が開けるような歌詞だと思いました。
うれしいです。きっと、徐々に私の心も明るくなってきているんでしょう(笑)。「予測不能Days」はアニメ「魔術士オーフェンはぐれ旅」のエンディングテーマで、私自身も作中でドーチンというキャラクターを演じているということもあり、アフレコに参加しつつ脚本などの資料もいただいて書かせてもらいまして。そのアフレコをしていく中でとても印象的なシーンがあったんです。それは……順を追って説明すると、まず主人公のオーフェンは義理のお姉さんであるアザリーという女性をずっと慕っていて、彼女を救うために旅に出るんですね。そのオーフェンが「男は初めて優しくされた年上の女性に特別な思いを抱くものなんだよ」というニュアンスのセリフを言っていて、「ああ、男の人ってそうなんだ?」って(笑)。
──オーフェンの気持ち、ちょっとわかります(笑)。
で、「それって初恋ってことだよね?」と思って。そういう気持ちを描いたような、さわやかな歌詞にしたいなあと。でも、だいたい初恋って実らないものじゃないですか。
──よく「ほろ苦い」とか言われますしね。
ねえ。なので、そういうビターなエッセンスも入れながら書き進めていきました。
──ちなみに、タイアップ曲の作詞は「リベラシオン」(2018年10月発売の2ndシングル表題曲で、アニメ「ユリシーズ ジャンヌ・ダルクと錬金の騎士」オープニングテーマ)以来、2回目になるんですよね。
そうですね。「リベラシオン」の歌詞は、松井洋平さんと共作という形でしたが。
──やはりノンタイアップ曲の作詞とは違いました?
違いますね。私は基本的に、曲を聴いたときに浮かんだイメージをもとに歌詞を書くので、特にテーマを決めずに作詞することが多かったんです。でも、やっぱりタイアップ曲は「作品を表現したい」という気持ちが強くなりますし。この「予測不能Days」にしても今言った“初恋”だったり、あるいは“魔法”だったり、作品につながるようなワードを入れていますね。
──「魔術士オーフェンはぐれ旅」はいわゆる異世界ファンタジーですが、「予測不能Days」の歌詞は現実の日常にも当てはまりますよね。
アニメの本編が、ところどころコミカルなシーンも挟まれてはいるものの、比較的重めなテンションで進んでいくんですよ。だからこそ、エンディングは心が軽くなるようなものにしたくて。私が演じるドーチンもコミカル寄りのキャラですし、作品の重さを背負い込みすぎないように意識したかもしれません。ただ、心が軽くなる中にも、それこそ「初恋は実らないものだよ」とか「僕の声が届かなくても」とか、ちょいちょい後ろ向きな要素を差し込みたくなっちゃうんです。
──例えば3rdシングル表題曲の「Love Summer!」(2019年8月発売)も夏のパーティーチューンといった趣きでしたが、「明日だって明後日だって 憂鬱な日は続くけど」という前提で「今日だけは忘れて舞い上がれ」と。
そうです。そのすぐあとに「ほらユートピア」という歌詞が続くんですけど、ユートピアって存在しないものなので(笑)。
私生活は予測したい
──「予測不能Days」は楽曲自体もすがすがしいロックナンバーですね。これまで渕上さんの歌ってきたロック寄りの曲はシリアスなものが多かったので、新鮮でもあります。
うんうん。「Rainbow Planet」(2018年8月発売の1stシングル表題曲で、アニメ「プラネット・ウィズ」エンディングテーマ)しかり「リベラシオン」しかり、タイアップ曲は眉間にしわを寄せるようにして歌うタイプでしたからね。一方「予測不能Days」は明るく笑顔で歌える曲なので、また新しい世界を見られました。
──レコーディングにおいて、渕上さんは事前にボーカルプランを練るタイプですか? それとも当日現場で探っていくタイプですか?
プランは、特に練らないですね。私はすごく飽きっぽいので、事前に歌の練習をしすぎると、本番のレコーディングがつまらなく感じてしまうんです。そうなってしまうのが嫌なので、曲を覚える程度にしておこうと心がけていますね。同じように声優の仕事にしても、台本を読み込みすぎないようにしていて。たぶん、これは人によって考え方が違うと思うんですけど、私は現場で出てきた生の表現みたいなものを大事にしたくて。それに、必ずしも自分が作り込んできた表現が正解だとは限らないので。
──歌にせよお芝居にせよ、作り込みすぎると今度は現場で修正が効かなくなったり。
そうそう。現場で柔軟に対応できるように、他者の意見も取り入れられる余地を自分の中に残しておきたいんです。
──少し先回りして「バレンタイン・ハンター」の歌詞に言及すると、こちらでは「マニュアル」や「チュートリアル」というものに対して懐疑的でしたから、文字通り予測不能なほうが好ましい?
ああ、そうかもしれない。
──私生活においても?
いや、私生活では予測して堅実に生きたいです(笑)。
渕上舞はバレンタインが好き
──その「バレンタイン・ハンター」はまず曲名が、申し上げにくいのですが、ちょいダサと言いますか……。
ちょいダサですよね。いや、いいんです、ちょいダサで。「Love Summer!」もちょいダサだったので(笑)。この「バレンタイン・ハンター」は、「バレンタイン・ハンター」というタイトルが先行していて、私が1年ぐらい前に「『バレンタイン・ハンター』という曲を作りたい」と言い出したんです。
──そんな前から。
そうなんです。何かの撮影に向かうタクシーの中でスタッフさんと何気なく「季節の曲を作りたいね」という話をしていて、私が「バレンタインにしましょう」と。そのときに「『バレンタイン・ハンター』というタイトルで、ピンクのフリフリを着た渕上さんがバレンタインの特設会場に乗り込むようなミュージックビデオを作りたい」という話もしていて。本当にただの雑談だったんですけど、ちょうど2月上旬にシングルをリリースできると決まった瞬間に「『バレンタイン・ハンター』という曲があるんですけど!」と私が申し立てまして(笑)。
──厳密にいうと曲はまだないですよね。
はい。タイトルだけ。
──それを、歌謡曲テイストのあるラテンナンバーに仕上げられたと。
ちょっと懐かしい感じの、戦隊モノまで行かないんですけど、例えば「キューティーハニー」みたいな“戦う女の子”をイメージさせるような曲にしたい、というオーダーでできあがった曲です。
──そもそも渕上さんは、バレンタインはお好きなんですか?
はい。デパートとかで開かれるバレンタインの特別催事が大好きで、お休みの日や仕事の空き時間を利用して毎日のように通います。そこで1日に1個だけチョコを買ったりしていて。最近はイートインスペースも充実していて、期間限定の、そこでしか食べられないスイーツもあるんですよ。あと、日本ではバレンタインの時期にしか発売されない限定のチョコもあって、それは一瞬で売り切れちゃうので私もまだ買えたことがないんですけど、そういうのがすごく楽しいです。
──“渕上さんが”チョコやスイーツを食べられるからお好きなんですね。
ええ(笑)。私1人で楽しんでいます。
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