音楽ナタリー Power Push - fripSide

3度目の「無限の統合」に込めた思い

「ナンセンスな英語で歌ってる」なんて言われたくない

──今回のアルバム、南條さんがけっこう高いキーで歌われてる楽曲が多かったなって感じたんですけど、これまで以上に歌声がエモーショナルに聞こえたんです。

南條愛乃

南條 キー自体はそこまで高くなかったかも。

八木沼 キーの高低は大した問題ではないんですよ。南條さんの歌声に感情が乗りやすいキーがあって、そこを見極めていくのが重要なんです。あくまで僕たちの感覚によるものですが。

南條 あと、今回英語詞の曲が多いのが新鮮で。歌うのは難しかったですけれど。

──お二人は言葉の伝わる、伝わらないには細心の注意を払うじゃないですか。英語に関してはその点いかがでした?

八木沼 今まで僕の英詞って、英語圏のネイティブな友達から「八木沼さんの英語はでたらめに間違ってはいないけれども、ネイティブの人はこういう言い方はしない」って言われていたんです。そこで今回は英語圏に住んでいるリスナーにも通用する、ネイティブな英語を南條さんに歌ってもらおうと考えまして。で、今回ニューヨークに僕の会社の支店を作った(笑)。「Run into the light」と「Dry your tears」はニューヨーク支店長のアメリカ人アーティストにお願いして、僕が書いた英詞を一緒に修正しました。英語って流行りのイディオムがあって、そういうところを突き詰めてみたら面白かったんですよ。この2曲は英語圏のお客さんに「おっ、カッコいいじゃん!」って言ってもらえる出来になったと思います。

──日本だけでなく、海外のリスナーに向けた作品にもなっていると。

八木沼 やっぱり世界基準で見たとき、「日本人のアニソンシンガーはみんなナンセンスな英語で歌ってる」って言われたくないので。ただ、ネイティブな英語詞を使うことは、世界進出に向けた戦略というわけでなく、あくまで作品の内容をよくするための作業の1つとして考えていたんです。英語で歌うなら、ネイティブな英語を扱うファンにも意味が通じたほうが喜んでもらえるんじゃないかな、ぐらいの感じですね。

70代がうるさいと思わず、10代が熱狂できる

──南條さんはこのアルバムの楽曲を聴いたとき、これまでの作品と違うと感じた部分はありましたか?

南條 この言葉が正しいかわからないんですけど、大人っぽいというか。今までは一緒に盛り上がろうっていう感じの楽曲が多かったんですけど、今回は「落ち着きたいな」ってときに聴ける楽曲が増えたなと思いました。もちろん盛り上がる曲も多くあるんですけど。

八木沼 「大人っぽい」か……初めて言われた(笑)。

──確かにBPMや音数の抑制を効かせてるところはありましたよね。

八木沼 今回は第1期の頃に発表した「crescendo」のアレンジから制作を始めたんですけど、改めて原曲を聴いたとき「幼い!」「なんて暴力的なんだ!」と思って。少数の人だけが熱狂してくれるような音作りだったんですよ。今の僕からしたら、本当に出来が悪い(笑)。 歌う人のことをまったく考えてないし。

南條 すごい……(笑)。

八木沼 この曲をライブでやったら、お客さんも息つく暇がないし。どこでオーディエンスが参加できるのか、何も見えてないです。でも古くからのお客さんが気に入ってくださっているので、反面教師として、今の僕と南條さんがこの暴れ馬みたいな曲たちをどう乗りこなせるか、やってみたくなったんです。

──確かに、「crescendo」はAメロにギターのクリーントーンの細かいカッティングが入って、聴きやすくなりましたよね。

八木沼 そうですか? ありがとうございます。

──それでもちゃんと踊れる感じも残ってますし。

八木沼 「magicaride」は8年前の曲なんですけど、原曲は音割れ寸前まで音圧を高めててひどかったですね。今回アレンジして、聴く人を選ぶ音楽からどんどんシフトしていって、今のfripSideにたどり着いたということに気が付きました。fripSideは僕の手を離れて、よりパブリックなものになっているので、より大勢の人が共感してくれる音作りが必要なんです。例えば僕の親は70歳なんですけど、その年代の人が聴いてもうるさいと思わず、かつ10代のみんなも熱狂してくれるものを作りたい、っていうのは根底にあります。

僕がサウンドを作って、南ちゃんが歌えばfripSideなんです

──「magicaride」と「crescendo」はfripSideにとってリアレンジ版になるんですけど、南條さんにとってはカバーですよね。

南條 そうですね。

──今回歌ってみていかがでした?

南條 ファンの皆さんにとってはリリース当時から聴き込んでいる楽曲だから、思い入れも強いと思うんです。だからプレッシャーはありましたけど、楽曲に対してのリスペクトを保ちつつ、今のfripSideがこの楽曲を新しいものとして出すとしたら……というイメージで歌入れをしました。「naoちゃんがこう歌ってたから私も合わせよう」って感じで歌うとどっちつかずになってしまうし、この曲を大事に聴いてくれているファンの方に失礼なので。

──ボーカルディレクションはどのように進めました?

南條 特に話し合ってないですよね。

八木沼 うん。

──fripSideを統括する八木沼さんにとって、南條さんの声に対してこうあってほしい、こうするべきだろうっていう理想があると思うんです。

八木沼 彼女の歌声が理想なのであって、僕は彼女が歌えば成立する枠組みを用意しているつもりなので。

南條 私も歌うだけではあるんですけど、それは八木沼さんが土台を作ってくれて、そこに乗るっていう意味であって。ただ何も考えずに歌えばいいだけ、っていうわけではないです。

──当然fripSideらしさというのはすべての楽曲に盛り込まれていますけど、楽曲のバリエーションはハンパなく広いじゃないですか。このアルバムだけでも、ミディアムテンポのドラムと太いシンセベースがミニマルに展開する「Run into the light」みたいな曲もあれば、「Answer」「One and Only」みたいなバラードもありますし。土台の形はその都度かなり違いませんか?

fripSide

八木沼 実際本人たちはそこまで意識していないんです。僕がサウンドを作って、南ちゃんが歌えばfripSideなんですよね。ほかのユニットとか、アーティストさんに楽曲提供するときはTPOに応じた音作りをするんですが。

──でも、ALTIMAにも明確なコンセプトはありますよね。

八木沼 あれは僕の変化球バージョン。fripSideは僕のホームで、純然たる自分の音を出せばいいところなんです。

南條 以前ALTIMAの曲をカバーしたことがあったんですけど、私にはちょっと歌いにくかったんですよ。楽曲を聴くと「八木沼さんの作ってる曲だな」ってわかるんですけど、fripSideとは全然違うんだなって。そう考えると、fripSideの曲は私が歌いやすい形に作られているんだと思います。

──歌いやすさは加入当初から感じてました?

南條 そうかもしれない。メロディがよく動いてキーも高いので難しいんですけど、いっぱい曲を聴いて覚えなきゃいけないわけではないんです。何回か通して聴けばすぐ覚えられる。

──八木沼さんは南條さんがちゃんとメロディの意図を理解してくれて、気持ちよく歌ってくれる人だとわかったうえでお声がけしました?

八木沼 いや、それはわからなかったです。ただ僕の音楽とすごくマッチするんじゃないかな、っていう予感はあって。1stアルバムを作り終えたとき、僕の音楽性と彼女の歌い方や歌声、表現方法が自然な形で寄り添うと感じたんですよね。

ニューアルバム「infinite synthesis 3」 / 2016年10月5日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
初回限定盤 [CD+Blu-ray×2] / 5724円 / GNCA-1490
初回限定盤 [CD+DVD×2] / 5184円 / GNCA-1491
通常盤 [CD] / 3240円 / GNCA-1492
CD収録曲
  1. 2016 -Third cosmic velocity-
  2. Luminize
  3. 1983 -schwarzesmarken- (IS3 version)
  4. determination
  5. magicaride -version2016-
  6. Answer
  7. Two souls -toward the truth-
  8. white forces -IS3 edition-
  9. crescendo -version2016-
  10. Run into the light
  11. Dry your tears
  12. unlimited destiny
  13. One and Only
  14. Side by Side
初回限定盤Blu-ray / DVD収録内容
  • fripSide concert tour 2015 ~infinite synchronicity~(2015.12.13[sun] 東京・府中の森芸術劇場 どりーむホール)
  • fripSide オランダドキュメンタリー映像
  • 1983 -schwarzesmarken- (IS3 version) PV
  • PV Making
  • SPOT(SPOT in Stores Now ver. / SPOT Special ver.)
fripSide concert tour 2016-2017 -infinite synthesis 3-supported by animelo mix
  • 2016年10月29日(土)千葉県 市原市市民会館 大ホール
  • 2016年11月13日(日)北海道 千歳市民文化センター 大ホール
  • 2016年11月19日(土)神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール
  • 2016年11月27日(日)長野県 キッセイ文化ホール 中ホール
  • 2016年12月4日(日)大阪府 オリックス劇場
  • 2016年12月11日(日)広島県 上野学園ホール
  • 2016年12月17日(土)岩手県 盛岡市民文化ホール 大ホール
  • 2016年12月18日(日)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2016年12月24日(土)福岡県 福岡国際会議場 メインホール
  • 2017年1月7日(土)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2017年1月21日(土)岡山県 倉敷市民会館
  • 2017年2月19日(日)福島県 南相馬市民文化会館
  • 2017年2月26日(日)新潟県 新潟県民会館 大ホール
  • 2017年3月5日(日)石川県 本多の森ホール
fripSide LIVE TOUR 2016-2017 FINAL in Saitama Super Arena -Run for the 15th Anniversary-supported by animelo mix
  • 2017年3月18日(土)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
fripSide(フリップサイド)

コンポーザー&プロデューサーのsatこと八木沼悟志と声優としても活躍する南條愛乃(Vo)からなるユニット。2002年に活動を開始し、2009年に南條が加入。同年テレビアニメ「とある科学の超電磁砲」のオープニングテーマ「only my railgun」をリリース後、アニメやゲームの楽曲を多数手がける。2010年に1stアルバム「infinite synthesis」、2012年12月には結成10周年記念アルバム「Decade」をリリースし、2014年9月に3rdアルバム「infinite synthesis 2」を発表。そして2015年5月に「Luminize」、12月に「Two souls –toward the truth-」、2016年2月に「white forces」と3枚のシングルリリースを挟み、10月に4thアルバム「infinite synthesis 3」を発表した。このほかangelaとのコラボシングルとして10月19日にangela×fripSide「僕は僕であって」、12月7日にfripSide×angela「The end of escape」の発売を控えている。