ナタリー PowerPush - fripSide

より重く、より熱く、より新しいデジタルJ-POPの作り方

fripSideがニューシングル「black bullet」をリリースする。

彼らが9カ月ぶりに放つシングル「black bullet」の表題曲は、現在放送中のテレビアニメ「ブラック・ブレット」のオープニングテーマ。アニメのタイトルを冠したこの楽曲で2人は、トラックメーカーsatがかねてから提唱している「デジタルJ-POP」のマナーに則りつつも、生のストリングスと混声コーラスを大きくフィーチャーし、ディスコグラフィ中、最も重厚で、最も熱いトラックを作り上げている。

昨年8月の前作「eternal reality」では小室哲哉とコラボレーション。「デジタルJ-POP」の粋を極めた楽曲をドロップした2人が、今また新機軸を打ち出したワケとは? satと南條愛乃(Vo)に話を聞いた。

取材・文 / 成松哲

バジェット使ってもいいっスか?

──前回のインタビュー(参照:fripSide「eternal reality」インタビュー)でお2人は「楽器を変えたくらいのことでfripSideらしさが失われることはない」「だからまだ新しいアプローチは残されているはずだ」と言ってたんですよ。

fripSide「black bullet」ビデオクリップのワンシーン。

sat そうですね。小室(哲哉)さんとのコラボで「eternal reality」という楽曲を作り上げることができたことは本当にうれしいことではあるんですけど、そのテンションに引っ張られたくはない。曲を作ったら自分たちを一旦ニュートラルな状態に戻して、また新しいことを模索したいですし。

──ただ、楽器云々はあくまで物の例えだと思ってたんです。「例えばの話だけどさ」くらいのノリというか。なのに今回お2人はホントに楽器の編成を……。

南條愛乃 変えちゃいました(笑)。

──「black bullet」を再生した瞬間、生のストリングスとコーラスが流れてきてビックリしました(笑)。

sat まずレーベルプロデューサーから「今回はシンフォニックで行きたい」というオーダーがありまして。で、「ブラック・ブレット」というテレビアニメのオープニング曲だから、作品の持つ重厚感とかスケール感っていうのを音に落とし込みたかったんですよね。それでレーベルに「じゃあ弦を壮大に録って、コーラスもオペラ風のやつを壮大に入れたいんだけど、バジェット(予算)使ってもいいっスか?」と。

──あはははは(笑)。ALTIMAを取材させてもらったときにもお話したことなんですけど(参照:ALTIMAニューシングル「BURST THE GRAVITY」インタビュー)、satさん、チョイチョイお金の話を持ち出しますよね。

sat プロデューサーとしては予算がないと何もできないことを知ってますから(笑)。特に今回のコンセプトは重厚なシンフォニックサウンドと、fripSideの持ち味であるデジタルサウンドの融合だったので。そういう質の高いこと、新しいことにチャレンジするにはやっぱりバジェットが必要だな、と。で、レーベルに相談してみたら「じゃあ思いっきりやってこい」と快諾してもらえたので、思いっきりやってみました。まあ本当はほかのバジェットをこっちに回してこれてこその敏腕プロデューサーなのですが……。まだ僕にはそんな余裕なかったですね(笑)。

「私たちfripSideって言いまーす」

──「black bullet」ってホントに「思いっきりやってみた」曲ですよね。fripSideの一連の楽曲の中でも特にエモいし、熱い。大ラスの「♪希望を信じて」の南條さんのボーカルなんてスクリーム一歩手前。ハイトーンボイスを響かせまくってるし。

南條 それは「ブラック・ブレット」っていう作品に引っ張られたんだと思います。普段の自分ってテンションが思いっきり低いつもりはないんですけど、だからといってガツガツ行くタイプではないので。

──以前からそうおっしゃってますよね。

南條 3月の「Anime Japan」の「ブラック・ブレット」のステージなんかもそうでしたし。初めてお客さんの前で「black bullet」をフルで歌わせてもらったんですけど「受け入れてもらえるかな?」って心配で。でも皆さん(fripSideのイメージカラーの)ウルトラオレンジのサイリウムを用意してくれていて。fripSideが歌うことに期待して待っていて、実際にメッチャ笑顔で聴いてくれたのがすごくうれしくて。

──「sister's noise」でオリコン1位を獲って、「リスアニ!LIVE-4」(参照:新年アニソン始め!「リスアニ!LIVE」今年も大成功)みたいなイベントでメインアクトクラスの扱いを受けるようになった今も、そういう心持ちなんですか?

南條 「『ブラック・ブレット』ファンの皆さん、こんにちはー」「私たちfripSideって言いまーす」って感じでしたね(笑)。確かにいつもいろんな方に「もっと自信持っていいよ」って言っていただくんですけど……。

──だと思いますよ。スゲー人気ですから、fripSide(笑)。

南條 イヤモニするのやめようかな(笑)。ライブ中、両耳がふさがっていることもあって聴いてくださる方のそういう生の声ってなかなか届いてこないんですよ。でも、そうかあ……。

──「私たち、けっこうな人気者だったのかあ」(笑)。

南條 あはははは(笑)。ホントにありがたいことです。

sat しかも僕は僕でfripSideでは感動しないように心がけているというか。ライブのときはもちろん熱くなりますけど、楽曲を作るときはなるべく心を動かされないようにしていますから。いわゆる“エモ”っぽい音ではないんだけど、心意気は伝わる。クールな音で僕と南ちゃん(南條)の心の中にある熱さを伝えるのがfripSideだと思っているので、南ちゃんにその空気が伝染しているのかもしれないですね。ALTIMAの2人と一緒のときなんかは、完全に“エモいオレ”になってるんだけど(笑)。

南條 確かに熱そうですねえ、ALTIMA。

sat だからfripSideに帰ってくるとホッとする(笑)。

ニューシングル「black bullet」 / 2014年5月14日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
初回限定盤 [CD+DVD] / 1944円 / GNCA-0333
通常盤 [CD] / 1296円 / GNCA-0334
CD収録曲
  1. black bullet
  2. pico scope -SACLA-
  3. black bullet(instrumental)
  4. pico scope -SACLA-(instrumental)
初回限定盤 DVD収録内容
  • black bullet PV
  • PV commentary
  • PV making
  • SPOT special ver. 1
  • SPOT special ver. 2
  • 理化学研究所 世界一小さいものが見えるX線レーザー「SACLA」 PRムービー
fripSide(フリップサイド)

コンポーザー&プロデューサーのsatこと八木沼悟志と声優としても活躍する南條愛乃(Vo)からなるユニット。2002年から活動開始し、2009年に南條が加入。テレビアニメ「とある科学の超電磁砲」のオープニングテーマ「only my railgun」をリリースする。その後もアニメやゲームの楽曲を多数手がけ、2010年発売のアルバム「infinite synthesis」でそのスタンスを確固たるものに。さらに映画「劇場版ハヤテのごとく! HEAVEN IS A PLACE ON EARTH」の主題歌に採用された2011年8月の4thシングル「Heaven is a Place on Earth」ではこれまでとは異なるさわやかなサウンドで、ファン層を拡大。そして結成10周年となる2012年12月にはアニバーサリーアルバム「Decade」をリリースし、2013年5月には結成11年目第1弾作品となるシングル「sister's noise」とライブBlu-ray / DVD「10th Anniversary Live 2012 ~Decade Tokyo~」を同時に発表。「sister's noise」はオリコン週間シングルランキングで1位に輝き、続く8月のシングル「eternal reality」では小室哲哉とのコラボレーションを果たすなど、アニソンシーン外でも大きな存在感を示す。そして2014年5月、アニメ「ブラック・ブレット」のオープニングテーマ「black bullet」をリリースする。