ナタリー PowerPush - fripSide

2人の信頼感と10年の歴史が生んだ デジタルミュージックの新しいカタチ

誰が「放課後」を歌うのか

──「sister's noise」のsatさんの詞もいつも以上にナマっぽいですよね。1コーラス目は「街は密かに 君を隠してた 辿り着いた場所 蘇るあの記憶」と、これまでのfripSideに近いテイスト。あえて抽象度の高い言葉を選ぶことで、リスナーそれぞれの心の中にある街や君や記憶を想起させるところから始まっているのに、2コーラス目の頭は「夕暮れの放課後 いつもの街並み」。「学校のある街のウイークデイの夕方」という具体的な風景を描くフレーズを使っています。

sat

sat そんな細かいところに気付きましたか(笑)。2コーラス目の頭は僕自身ちょっとチャレンジではあったんですよ。1コーラス目で抽象的な、言ってしまえばボヤけた風景を描いておいて、2コーラス目のAメロでギュッとピントを合わせる歌詞を書いてみようって。そうすることで「超電磁砲S」の舞台を明確に表現できるんじゃないか、っていう気持ちがあったので。だからアレンジも2コーラス目のAメロはドラム以外の楽器が抜けて逆にピアノだけが入ってくるミニマムな設計にしているんです。

南條 だからこそなんですけど、私は逆に歌詞を読み込みすぎないようにしました。特に「放課後」っていう単語は拾いすぎちゃいけないな、って。

──えっ? satさんが新しいチャレンジをするのであれば、歌う南條さんもきちんと意図を汲むようにしたほうがいいような気も……。

南條 もちろん詞の流れは追ってますし「放課後」っていうワードにはかなり驚いたんですけど、私、すごく庶民派なんですよ(笑)。ちょっとでも感情を込めちゃうと、すぐに「下北沢」とか「黒電話」みたいな、fripSideとは違う次元の世界観が顔を出してしまう。だからもし「放課後」っていう単語に引っ張られ過ぎたり、感情移入しすぎたりすると、私の高校時代の歌になっちゃう可能性があったんですよね。

sat 歌い手さんの世代や立場によっては、お母さんが放課後の子供を見守っているみたいな表現になることもあり得るよね。

南條 でも今回はサウンドにオシャレ感があったし、「超電磁砲S」のオープニング曲である以上、それを歌う私は作品のストーリーテラーでなければならない。なので、そういう庶民臭は出さないように。「『そのとき誰のことを思ってて、私はこうしたくて、だからこう思ったの!』みたい気持ちはとりあえず置いといて」って感じで歌いました。

sat 僕自身、そういう南ちゃんが歌う曲だからこそ、この歌詞が書けている面はあって。「放課後」って単語を入れても部活の中高生のような表現方法も、お母さんのような表現方法も選ばない。ちゃんとfripSideらしさで放課後の風景を歌ってくれる人だっていうことがわかっていますから。

南條 確かに「すごいお姉さんの立場というか俯瞰で見て『放課後』って言わなきゃダメだ!」とは思ってました(笑)。

「泡浮さんがガンガン活躍したら困っちゃう」

──南條さんは「超電磁砲」シリーズに泡浮万彬役で出演もしていますよね。つまり南條愛乃という人は「超電磁砲」のストーリーテラーであり、物語の中の1人でもある。しかもストーリーは音楽で表現して、泡浮の人物像は演技で表現する。この1人2役ってけっこう大変な気もするんですけど。

南條 いや、全然大丈夫ですね。というかあまりそこは考えたことがなかったです。もし泡浮さんが主人公だったら、「そのヒロインの役者が歌っているんだけど、キャラソンではありません。あくまでオープニングテーマです」っていうスタンスを守るのに苦労するかもしれませんけど、今のところ、その1人2役はそんなに難しくないですね。今後泡浮さんがガンガン活躍するようになったら、すごくうれしいんだけど、逆に困っちゃったりして(笑)。

sat 今度、fripSideで泡浮さんのキャラソン作ってみようか(笑)。

南條愛乃、fripSideに春を連れてくる

──そしてカップリングの「I'm believing you」は、テンポこそグッと落としてはいるんだけど「sister's noise」と同じ系譜。トランシーな作りになってますよね。

sat カップリングを作るときは毎回、シングルというパッケージのトータルバランスを考えるようにしているので。あとリリースする時期も考えてますね。fripSideの場合、リード曲にはアニメやゲームのタイアップが付くことが多いので、季節感は投影できないじゃないですか。でもシングルはアルバムよりも短いスパンでリリースできるんだから“今”の感じがほしいんですよね。で「今回は5月のリリースだよな」ということで春をイメージして作ったのが「I'm believing you」なんです。ところがレーベルのプロデューサーにデモを送ったら「これ、春?」と。

──あれっ、そうですか? 僕は今のお話で腑に落ちましたけどね。「sister's noise」よりもシャレてて、しかもヌケがいい感じがしたのは、春をイメージしてたからなのか、って。

sat それはひとえに南ちゃんの詞と歌の力なんですよ。「春をイメージさせつつも、ちょっとアーバンで、しかも切ない恋のストーリーみたいな詞を書いてください」ってかなりのムチャぶりをしたら、ホントにそういう歌詞が届いて。そしてその詞を南ちゃんに実際に歌ってもらって、ミックスして、レーベルプロデューサーに改めて投げたら「これ、春だよっ!」と(笑)。

──南條さんのおかげでfripSideにも春がやってきた(笑)。

南條 そうなんですかねえ(笑)。「テーマは春です」ってデモを渡されたので「春かあ」と思ってたんですが、ただメロディが切なかったので「これはウキウキな春じゃあねえな」とも思っていて(笑)。で、ちょうど最近、私の身の回りでも、お世話になっていたスタッフさんが転職したり、再開発で住んでいた街の風景が変わったり、いろいろ別れみたいなものがあったので「ここは別れの歌だろう」みたいな結論に至ったんですよね。でも「2度と会えない」みたいな感じではない。別に誰が悪いわけでもないんだけど、過ぎていく時間の中で人の気持ちが変わっていくだけ。お互いに同じ目標を目指せなくなって、それぞれの先にある未来へと歩いて行く中で「2人で夢を見ていた時代もあったのに」って振り返る切なさみたいなところを書けたらいいな、と思ってました。

ニューシングル「sister's noise」 / 2013年5月8日発売 / GENEON UNIVERSAL
初回限定盤
初回限定盤 [CD+DVD] / 1890円 / GNCA-0280
通常盤 [CD] / 1260円 / GNCA-0281
CD収録曲
  1. sister's noise
  2. I'm believing you
  3. sister's noise〈instrumental〉
  4. I'm believing you〈instrumental〉
初回限定盤 DVD収録内容
  • 「sister's noise」PV
  • メイキング映像
  • スペシャルスポット映像
ライブBlu-ray DISC / DVD「10th Anniversary Live 2012 Decade Tokyo」 / 2013年5月8日発売 / GENEON UNIVERSAL
Blu-ray DISC / 5250円 / GNXA-1024
DVD / 4725円 / GNBA-1400
fripSide(ふりっぷさいど)

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コンポーザー&プロデューサーのsatこと八木沼悟志と声優として活躍する南條愛乃(Vo)からなるユニット。2002年から活動開始し、2008年に初代ボーカルnaoとsatでメジャーデビュー。2009年に南條愛乃が加入し、テレビアニメ「とある科学の超電磁砲」のオープニングテーマ「only my railgun」をリリース。その後もアニメやゲームに楽曲を提供していき、2010年発売のアルバム「infinite synthesis」ではその存在感を確固たるものとした。2011年8月に発売された4thシングル「Heaven is a Place on Earth」はアニメ映画「劇場版ハヤテのごとく! HEAVEN IS A PLACE ON EARTH」の主題歌に起用。これまでとは異なる爽やかなサウンドで、ファン層を拡大した。2012年12月には結成10周年を記念したアニバーサリーアルバム「Decade」をリリース。2013年5月には結成11年目第1弾作品となるシングル「sister’s noise」とライブBlu-ray / DVD「10th Anniversary Live 2012 ~Decade Tokyo~」を同時に発表する。