ナタリー PowerPush - fripSide

2人の信頼感と10年の歴史が生んだ デジタルミュージックの新しいカタチ

デジタルでナマを生み出すテクニック

──楽曲を構成する楽器のうち、人間がプレイしているのはギターと南條さんのボーカルだけですよね。どうすれば打ち込み中心のサウンドでナマ感って出せるものなんですか。

sat ナマ感って要するに音色じゃなくて音の鳴るタイミングや強弱、グルーヴが生み出すんですよ。カラオケのオケがすごく平坦で機械っぽく聞こえてしまうのは、すべての楽器のリズムがジャストだから。僕はいかにナマ感を出すかをずっと探求してきたんです。例えば一番わかりやすいのがドラムはリアルタイム入力する、ってことだと思うんですけど。1音1音楽譜通りに打ち込むのではなくて、シンセの鍵盤それぞれにバスドラやスネアの音を割り当てておいて、クリックを聴きながらドラミングするように鍵盤を叩くから、打ち込みであっても僕なりのリズムやグルーヴが生まれる。あとちょっと他人事っぽいんですけど、去年「Decade」を作っているときにfripSideのサウンドがもう一段階洗練されてオシャレになった気がしていて。

南條 オシャレ! 確かに、最近ホントにオシャレ感ありますよね! 完パケをもらって聴いたとき「あっ、オシャレや!」って思いました(笑)。

sat どうしてオシャレになったのか?って聞かれると、すごく長い上に抽象的な話をすることになっちゃうからインタビューにはまったく向かないんだけど(笑)、自分で作曲やアレンジをしていて確かに垢抜けた感じはあるんですよね。だから「sister's noise」も、ただアニメの世界観に準じていたり、ただアガれたりするだけじゃなくて、ふと耳にした人に、南ちゃん(南條)のように「あっ、オシャレや!」って思ってもらえるものにしたかったんです。ただ、垢抜けたという話をするのであれば僕のトラックだけじゃなくて、南ちゃんのボーカルも確実に洗練されてきているんですよね。

南條愛乃、「声の芯」を探る

──南條さんのボーカルがいつもよりちょっとエモーショナルですよね。

南條 実際、歌い方をちょっと変えてみた部分はあります。今までfripSideの曲ではあんまり感情を込めすぎないようにしていたんですけど……。

──fripSideはアニメやゲームのテーマソングを担当することも多いだけに「私の歌を聴かせたい」「私のメッセージを届けたい」っていう主張はあまりしない。フラットな気持ちで純粋に声を出して歌うことの楽しさを追求しているって言ってましたもんね。

南條 そうなんですよ。声帯が震える気持ちよさを楽しんでいるというか(笑)。で、自分で言うのもヘンな話なんですけど、私の持っているいい声成分多めというか(笑)、感情を抑えている分よりいい声を出そうっていうことは考えました。今回は今までよりもある程度声を張るというか「声の芯」みたいなものを出すようにしてみました。

sat うん。声の芯みたいな部分が多く出てる気がした。ミックスしながら「いい声出てるなー」って思ってましたから。あと落ちサビ(楽曲のエンディング直前のサビ)に「その意味を刻むなら」っていう詞があるんですけど、その「刻む」を「き↑ざ↑ー↓む↑」と一回音を落とすフェイクを入れてるんですよね。

南條 私は正直、あそこはリテイクが出るかな?と思ってました(笑)。

sat いやいやいや。ミキシングルームで聴いてて「すごいなあ」って思ってましたから。「Decade」以降、南ちゃんの表現の幅ってすごく広がっているんじゃないかなって思ってるんですよ。さすがウチのエースだな、と(笑)。

南條 エースって(笑)。ボーカルは私1人だけですからね(笑)。

──ボーカルのプランってどうやって立てるんですか?

南條 「ここはこういう雰囲気で歌ってもらいたいんだろうな」っていうのはすでにsatさんのオケの中に表れているので、それを感じ取って声にする、それだけなんです(笑)。一番わかりやすいのはサビだと思うんですけど、楽器がたくさん重なって、音が強く前に出てくるんだから、私も強く声を出そう、とか。ただ、いただくデモにガイドメロディが乗っていると楽曲自体の雰囲気がわかりにくくて。ガイドメロディの音色が明るいと曲もはっちゃけてる印象になるんですけど、オケだけ聴いてみたら実はBメロはすごくしっとりしていた、なんてこともあるので、ガイドメロディなしのデモを何度も聴きながら、「ああ歌おうかな?」って想像してみたりしています。

──いわゆる「譜読み」って作業ですよね。渡された楽譜や音源から作曲家、編曲家の意図を読むっていう。

sat そうですね。あれこれ話し合って決め打ちしなくても、きちんとこちらの意図を読んでくれるどころか、それ以上の表現をしてくれるんですよ、ウチのエースは(笑)。そこがほかのボーカリストさんとはちょっと違うところなんです。

ニューシングル「sister's noise」 / 2013年5月8日発売 / GENEON UNIVERSAL
初回限定盤
初回限定盤 [CD+DVD] / 1890円 / GNCA-0280
通常盤 [CD] / 1260円 / GNCA-0281
CD収録曲
  1. sister's noise
  2. I'm believing you
  3. sister's noise〈instrumental〉
  4. I'm believing you〈instrumental〉
初回限定盤 DVD収録内容
  • 「sister's noise」PV
  • メイキング映像
  • スペシャルスポット映像
ライブBlu-ray DISC / DVD「10th Anniversary Live 2012 Decade Tokyo」 / 2013年5月8日発売 / GENEON UNIVERSAL
Blu-ray DISC / 5250円 / GNXA-1024
DVD / 4725円 / GNBA-1400
fripSide(ふりっぷさいど)

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コンポーザー&プロデューサーのsatこと八木沼悟志と声優として活躍する南條愛乃(Vo)からなるユニット。2002年から活動開始し、2008年に初代ボーカルnaoとsatでメジャーデビュー。2009年に南條愛乃が加入し、テレビアニメ「とある科学の超電磁砲」のオープニングテーマ「only my railgun」をリリース。その後もアニメやゲームに楽曲を提供していき、2010年発売のアルバム「infinite synthesis」ではその存在感を確固たるものとした。2011年8月に発売された4thシングル「Heaven is a Place on Earth」はアニメ映画「劇場版ハヤテのごとく! HEAVEN IS A PLACE ON EARTH」の主題歌に起用。これまでとは異なる爽やかなサウンドで、ファン層を拡大した。2012年12月には結成10周年を記念したアニバーサリーアルバム「Decade」をリリース。2013年5月には結成11年目第1弾作品となるシングル「sister’s noise」とライブBlu-ray / DVD「10th Anniversary Live 2012 ~Decade Tokyo~」を同時に発表する。