ナタリー PowerPush - fripSide

結成10周年で辿り着いた記念碑「Decade」

書きたいことを書くとfripSideから離れてしまう

──南條さんは作詞もなさっていますよね。しかもsatさんはファンタジックであったり近未来的であったりする情景を描くことで、人々の心象を語る詞を書くのに対して、南條さんは季節や日常的な場面を歌った上で、特定の誰かに語りかけている。そこには明確な意思や思いがある気がするんですけど。

南條 ああ、「endless memory ~refrain as Da Capo~」は確かにそういう内容ですよね。ただあの曲は「D.C.III DASH」っていうゲームのタイアップ曲だったので、そのゲームの物語ありき。私自身「D.C.」シリーズにはずっと関わらせていただいているので世界観を知っているし思い入れもあるので、その気持ちをメロディに当てはめつつ作詞してみました。で、もう1曲のG……。

sat 「Gなんとかdistance」(笑)。

南條 その「私も読めないdistance」は(笑)、ノンタイアップなんですけど、やっぱり自分の気持ちにピッタリ寄り添っているわけではなくて、ちょっと俯瞰。私が書きたいことをバーッと書いちゃうと、fripSideの世界観から遠く離れたものになってしまうことは既にわかっているので。

──あっ、過去にはそういう失敗も?

南條 ええ(笑)。なのでそれ以来、fripSideでの私の詞はどれも、確かに自分の言葉で過去、感じたことのある思いを歌ってはいるものの、私自身ですらどこかちょっと遠目にその風景を眺めている。内容自体は結構フィクション的なんです。もちろん、このG……。GDも。

──あはははは(笑)。略しちゃった。

sat grievous!

──というか、このタイトルを付けたのって南條さんなんですよね?

南條 そうなんですよ。なのに読めない(笑)。というのも、今回詞を書くための時間が取れなくて。詞を書くときは曲のムードに浸りつつ言葉を煮詰めていきたいので、ある程度まとまった時間が欲しいんですけど、移動中に書いてたんですね。で、タイトルも締切直前まで付けられなくて、ネットであわてて「悲痛な」っていう意味を検索して見つけたのがこの「grievous」なんです。そのときは辞書サイトがいい声で「グリーバース」って発音してくれたので、ちゃんと覚えた気になってたんですけど、なんかいっつも忘れちゃうんですよねえ(笑)。

fripSideでは気合をコントロールしている

──自作詞だからといってほかの曲よりも歌い方がエモーショナルになることもない?

南條 自然と思い入れは強くなっちゃいますけど「自分で歌詞を書いたヤツだからその分気合いを入れて」みたいな思いは特にないですね。逆に熱くなりすぎないようにがんばって距離を取るようにしています。

sat 逆にただ熱いだけの詞っていうのを1回やってみても面白いかもね。

南條 確かに。私自身、ひたすら熱いことをひたすら熱くシャウトする自分を見てみたいかも(笑)。

──そうですよ。インタビュー前半戦のキーワードは「気合」だったんですから(笑)。

sat 今も、僕も南ちゃんも気合は入れてるんですよ。その気合をコントロールしているというだけのことで。fripSideって「こういうことをやってみよう」っていうアイデアや意図がいくつもあって、それを実践するためのユニットだからもちろん感情は込めるんだけど、全てをコントロール下には置いておきたいんです。なんて言えばいいんだろう? 「冷静と情熱のあいだ」?

南條 あはははは。そうかも(笑)。

「オシャンティーな曲ができた!」

──南條さんが時間を確保できずに作詞に難渋した一方、satさんは今作を作るにあたってご苦労なさった点は?

sat 「Decade」の作詞は結構苦労しましたね。餅は餅屋というか、作曲で悩むことってほとんどない半面、作詞はいつも頭を悩ませるんですけど、この曲は特に。10周年を記念する、しかも歴代ボーカリストが共演する曲なので、ちょっといろいろと考えるところがあって、結局詞が完成するまでに10日くらいかかったんじゃないかな。

──曲作りで悩むことってないんですか。アコースティックテイストのバラードである「whitebird」やミディアムテンポのブレイクビーツを聴かせる「a silent voice」みたいな、それこそsatさん言うところの新しい挑戦があったにもかかわらず?

sat まずないですね。ちょっと変な言い方ですけど「whitebird」なんかは、ぜひとも評価してもらいたいくらいですから(笑)。今横浜に住んでいて、普段海沿いを散歩したりするんですけど、そのとき見た景色を上手に曲に落とし込めた手応えを感じているので。

南條 「オシャンティーな曲ができた!」って言ってましたもんね(笑)。

sat 実際、かなりオシャンティーなアレンジになった自信はあります(笑)。で、強いて難産だったというなら「Heaven is a Place on Earth」ですかね。

──なぜですか?

sat いやあ、「『劇場版ハヤテのごとく!』のテーマソングかあ」って(笑)。テレビアニメ版の「ハヤテのごとく!」ってKOTOKOさんをはじめ、いろんなアーティストさんの名曲がテーマソングになってるじゃないですか。「なのになぜ劇場版はfripSideなんだ?」「ホントにそれでいいの?」と。

──あはははは。メロディラインやコード進行が思い浮かばないのではなく、「ハヤテのごとく!」がsatさんの頭を悩ませた、と。

sat そうなんですよ。しかも僕、原作を全巻揃えるくらい「ハヤテのごとく!」のファンなので、一層プレッシャーは大きかったですね(笑)。

10th Anniversary Album「Decade」 / 2012年12月5日発売 GENEON UNIVERSAL
初回限定盤 [CD+Blu-ray] / 5040円 / GNCA-1350
初回限定盤 [CD+Blu-ray] / 5040円 / GNCA-1350
初回限定盤 [CD+DVD] / 3990円 / GNCA-1351
通常盤 [CD] / 2940円 / GNCA-1352
収録曲
  1. Decade / 南條愛乃、nao
  2. way to answer
  3. fortissimo-the ultimate crisis-
  4. come to mind (version3)
  5. Heaven is a Place on Earth
  6. fortissimo -from insanity affection-
  7. grievous distance
  8. whitebird
  9. a silent voice
  10. message (version2)
  11. re:ceptivity
  12. infinite orbit
  13. endless memory ~refrain as Da Capo~
Blu-ray / DVD収録内容
  • 「Decade」PV&PV making
  • 2012年10月8日に川崎CLUB CITTA’にて実施されたLive「fripSide Premiium Live“Infinite Synthesis~The Eve of Decade”」のライブ映像
fripSide(ふりっぷさいど)

コンポーザー&プロデューサーのsatこと八木沼悟志と声優として活躍する南條愛乃(Vo)からなるユニット。2002年から活動開始し、2008年に初代ボーカルnaoとsatでメジャーデビュー。2009年に南條愛乃が2代目ボーカルとなり、アニメ「とある科学の超電磁砲」のオープニングテーマに起用されたシングル「only my railgun」で再デビューを果たす。その後もアニメやゲームに楽曲を提供していき、2010年発売のアルバム「infinite synthesis」ではその存在感を確固たるものとした。2011年8月に発売された4thシングル「Heaven is a Place on Earth」はアニメ映画「劇場版ハヤテのごとく! HEAVEN IS A PLACE ON EARTH」の主題歌に起用。これまでとは異なる爽やかなサウンドで、ファン層を拡大した。2012年12月には結成10周年を記念したアニバーサリーアルバム「Decade」をリリース。