ナタリー PowerPush - FREEDOMMUNE 0<ZERO> ONE THOUSAND 2013

被災地支援フェス開催の真意!!!!!!!

スポンサーと共謀するメディアアートインスタレーション

──集まった募金は全額寄付することになるわけですが、素朴な疑問としてこれほどの大規模なイベントをどうやって運営しているんでしょうか? 初回は単行本がチケットになっていたとのことですが、それで運営費は賄えませんよね。

2012年8月11日に千葉・幕張メッセで行われた「FREEDOMMUNE 0<ZERO> A NEW ZERO」の様子。

初回の単行本は1万数千冊は売れていたんですが、もちろん書籍の売り上げだけでは成立しません。しかも今回は本も売っていないし(笑)。なので今回もさまざまな企業にスポンサーになっていただきました。中には、多額の制作費をかけてイベントを開催して募金を募るんだったらそれを全額寄付したほうがいいんじゃないかと言う人もいますが、それは大きな間違いです。スポンサーの方々の広告活動自体が支援につながるという発想のもと、先方も単に制作費を捻出するだけではなく、フェス空間を一緒に作っているわけです。そこで生まれたプロダクトも体感してほしいと考えています。

──プロダクトというのは?

例えばメインDJステージにはレクサスの新しい車種(New IS)が設置され、その車の中から来場者が映像をコントロールできる3Dマトリックスシステムをこの日のために開発しています。この究極の3Dプロジェクションマッピング装置を僕らはライゾマティクスと一緒に作っているんです。だからこれは広告活動であると同時に最先端のメディアアートインスタレーションでもある。レクサスというクライアントが存在しているからこそ可能になったエンタテインメント装置なのです。通常のフェスのように入場料収益をあらかじめ想定し、そのプロフィットを配分してブッキングを組み立てていったり、ステージを構築していくということはフリーフェスなので前提として行いません。企業とタッグを組んで新たなアトラクションを編み出して、メディアアートを作っていく。スポンサーが賛同してくれたおかげでそうした革新的な形のフェスが具体化し、そこで熱狂を得ることによって、さらに募金が集まると僕は信じています。また自己啓発ですか?(笑) ほかにはZ-MACHINESというソーシャルパーティロボットバンドですね。リキッドルームのデビューライブは海外メディアでも騒がれましたが、これらロボットのスーパーバイズと、オリジナルデザインは僕が担当させてもらっています。

──ではスポンサー収入で運営費は捻出できている?

どうでしょう? ギリギリですね。もちろんDOMMUNEは1円も儲かってはいないですけど(笑)、前提として儲けるために遂行するわけではないですから。かといって善意でやっているわけでもない。善意だけで、こんな無謀なフェスは企てない。例えば家族に不幸があったとしたらなりふりかまってられないでしょ? もはやそれと近い感情を抱いています。だから震災孤児の子供たちと被災動物の未来のためだけに義援金を託すのです。それからこれは乗りかかった船でもあるわけです。DOMMUNE自体、開局当初から自らを“現在美術”として位置付けて、極私的な作品であると表明している以上、自らの作品のコンセプトに責任を持って、落とし前をつけないといけないわけです。アーティストが真剣に作品に取り組んでいるのであれば、1つひとつ、自分がコンセプトを立てたときに持っていた本来の理念を曲げてはならない。しかもDOMMUNEは僕にとっての“現代”ではなく“現在美術”作品なので、その理念を曲げずに毎日普通に行動していたら、日本で活動している作家として、自然と着地点はこうなっちゃった。なのでこれは善意ではなく信念なんです。そしてこのフェスに賛同してくださった、かけがえのないアーティストの皆も、それぞれレイヤーは違えど、自らの問題だと捉えてくれていることには間違いありません。だから多くの人が寄付をするきっかけを作っていきたい。募金箱が置いてあっても誰も、先述したように、現状なかなかお金を入れてくれませんが、このフェスを体験することを引き換えに、彼らのことを考えてもらいたい。彼ら震災孤児の子供たちや、動物達の発育と共に、0の起点に立ち返った僕たちFREEDOMMUNEも、賛同してくれる皆の力添えをいただきながら永続的な支援活動として成長できたならば、よりよき未来が開けるはずだと信じていますよ。想像力は創造力に成りうる。復興はまったく終わっていないということを年に一度でも再認識させられるような現場を作る。それがもっとも重要なことだと考えています。

友達の概念とは? フレンドシップと引っ越しの関係性

──宇川さんは震災以前からチャリティに関心を持っていたんですか?

アメリカの西海岸・サンフランシスコに3年半住んでいたので、チャリティやボランティアは空気のようなものというか、向こうでは日常レベルでの助け合いが生活に根付いています。例えば引越しをするときに業者に頼むということはありえなくて、強固なフレンドシップでつながったコミュニティメンバーがやるのが当たり前なんです。要するに“友達”が引越しをするならば、もし会社で仕事をしていたとしてもなんとか時間を割いてその引越しを手伝おうとする。逆説的には引越しを通して、その人物が友達かどうかを判断している節がある(笑)。一度、複数人の友人に引っ越しをお願いしたことがありましたが、忙しいだろうと思い、ある友達をあえて誘わなかったらあとで電話がかかってきた。「宇川、君と僕は友達じゃなかったの?」。よく考えると家族写真から性癖まで過去のすべての自分史を露わにする行為が引っ越しで、例えばクローゼットから死体が出てきたとしても何らかの助言をしなくてはならない。そんな引っ越しの手伝いを頼める人物は結局“友達”しかいないだろうと(笑)。そしてコミュニティメンバーは友達であり家族でもある。そのコミュニティを拡張することで市民運動が生まれたりもする。つまりはさらに拡張していくと、その背後にはサンフランシスコがあり、カリフォルニアがあって、アメリカがあるわけです。その共同体の枠をどこまで拡張し、いかに自分のこととして捉えられるかがボランティア意識にとって重要になってくる。その考え方で言えば、僕たちは今、被災地をどこまで自分のこととして捉えられるのか?という命題を突きつけられているわけです。

──だからこそ無償での支援を続けているんですね。

2012年8月11日に千葉・幕張メッセで行われた「FREEDOMMUNE 0<ZERO> A NEW ZERO」の様子。

特にDOMMUNEはもともとフリーでやってきたメディアで、言ってみれば自分が得た情報を全世界に向けてお裾分けしているようなものですよね。ご近所に「作りすぎたからこの肉じゃが食べない?」と配ってまわるのと同じ感覚で毎日の番組を作っている。だからDOMMUNEのビューアーは僕にとっては近所付き合いをしている人たちと同じです。井戸端会議はタイムライン上で行われている。そしてその人たちが「肉じゃが」を食べて義援金を振り込んでくれた。じゃあその恩義に応えるために、だったら今回はまた大量の「菜の花の煮物」を作るぞっていう発想なんです(笑)。それがFREEDOMMUNEなんです。そのお裾分けによって彼らがまた支援の形を示してくれるなら、それはたいへんありがたいことだと思っています。

──近所の友達関係が拡張して大規模なフェスを形作っている。

はい。そしてその象徴的な存在が例えば25年前から個人的に関係しているBOREDOMSの7x13BOADRUM。つまり今回は、EYヨさんやYoshimiちゃんに引っ越しを手伝ってもらっていることになります。僕がやってきたFREEDOMMUNEと“BOADRUMサーガ”がここに来て物語融合を果たす形です。20年来のお知り合いである灰野敬二さんのボイス&エレクトロニクスソロだって、僕は19歳の頃に「天乃川」という灰野さんの1stソロエレクトロニクスパフォーマンスのCDをリリースさせていただいている経緯があります。さらには大友良英&あまちゃんスペシャルビッグバンド。最高視聴率22.0%を記録し、社会現象にもなっているこのプロジェクトを大友さんが手がけているということが重要なのです。もともと近しい現場にいたアーティストが今こういう形で活躍をしている。最終的に持つべきものは友達なんです。「引越し手伝って、大友さん」と、このタイミングでようやく言えたということです(笑)。

──そうした人間同士のつながりがあるからかもしれませんが、FREEDOMMUNEにはチャリティイベントにありがちな胡散臭さがないですよね。

そうですね。僕ら以上に胡散臭さを感じない、サンフランシスコの天候のようにカラッと乾いたベネフィットはなかなかないと思いますね(笑)。単純にお涙ちょうだい的なドラマアプローチを一切見せていないし、これといった物語誘導もない。だから胡散臭くない。寄付活動を始めた当初は全額をJustGiving Japanというファンドレイジングサイトに振り込んで、その人たちに委ねていたのですが、半年経って彼らは手数料を取るようになり「いつまでもチャリティプラットフォームに委ねていてはダメだ」と判断しました。皆さんから集まった寄付をきちんと分配できるように、震災孤児と被災動物だけを対象に、直接の支援活動をすることにしたんです。今DOMMUNEのサイトには昨年の会計報告が全部出ています。どの団体にいくら募金しているかを1円単位で公表していますし、その受領書と宮城、岩手、福島の各県知事からのお礼状もすべて見ることができます。さらに購入した支援物資に関してはカルカン1缶から報告してますよ。ここまで細かい寄付金と支援物資の報告はなかなかないと思います!

──実に細かいところまでオープンにしているんですね。

被災した子供たちが成人するために必要な学費や食費を僕たちがささやかにでも支援できたらという気持ちがあります。だから1年でやめることはできなかった。特に子供や動物のための義援金はまだまだ全然足りないんですよ。

FREEDOMMUNE 0<ZERO> ONE THOUSAND 2013

2013年7月13日(土)千葉県 幕張メッセ

OPEN 17:00 / START 17:30 / END 29:30(予定)

出演者
LIVE / DJ
冨田勲 / Steve Hillage(SYSTEM7)/ 瀬戸内寂聴 / Penny Rimbaud co-founder of CRASS / BOREDOMS presents 7 x 13 BOA DRUM / Z-MACHINES / 大友良英&あまちゃんスペシャル・ビッグバンド / ZAZEN BOYS / 灰野敬二 Voice & Electoronics Solo Live / Open Reel Ensemble / 初音階段 / にせんねんもんだい / TOWA TEI / CLAUDIO PRC(Prologue / from ITALIA)/ MILTON BRADLEY(Grounded Theory / from BERLIN)/ RODOLPHE COSTER(Flexa / from BELGIUM)/ DJ NOBU(FUTURE TERROR)/ GOTH-TRAD(DEEP MEDi / BACK to CHILL)/ EP-4 unit3+伊東篤宏 / KYOKA(onpa / raster-noton)/ MOODMAN(GODFATHER)/ HARUKA(FUTURE TERROR)/ KURUSU(FUTURE TERROR)/ Chris SSG(MNML SSGS)/ NHK'koyxen(from BERLIN)/ RYOSUKE(RUSH)/ KABUTO(CABARET / LAIR)/ KURI(BLACK FOREST)/ CMT(POWWOW)/ Shhhhh(SUNHOUSE)/ GONNO(WC / Merkur / International Feel)/ KENSHU / hanali(GORGE.IN)/ HiBiKi MaMeShiBa / dubstronica(GORGE.IN, ヌルマユ, SUGODJs)
TALK&PERFORMANCE
東浩紀(哲学者 / 作家)/ 金子勝(経済学者)/ 津田大介(ジャーナリスト / メディアアクティビスト)/ 牧村憲一(音楽プロデューサー)/ 都築響一(編集者 / 写真家)/ 玉袋筋太郎(浅草キッド / 芸人)/ 坂口恭平(建築家 / 作家)/ 磯部涼(音楽ライター)/ 九龍ジョー(ライター / 編集者)/ 柳下毅一郎(特殊翻訳家 / 映画評論家)/ 中野貴雄(国際秘宝監督)/ 根本敬(特殊漫画家大統領)/ 岸野雄一(スタディスト)/ 大友良英(音楽家)/ 伊藤千枝(振付家・演出家・ダンサー)/ 珍しいキノコ舞踊団 / アサノコウタ(建築家)/ 古川日出男(小説家)/ 開沼博(社会学者)/ 小川直人(せんだいメディアテーク)/ 珍しいキノコ舞踊団(コンテンポラリー・ダンスカンパニー)/ PENNY RINBOUD(co-founder of CRASS / 音楽家 / 哲学者 / 活動家)/ 前田毅(編集者)/ 成田圭祐(IRA / アナキズム文献センター運営委員)/ TAKAMORI K.(クリエイティブディレクター / 通訳・翻訳)/ 高須光聖(放送作家)/ 福田雄一(劇作家 / 放送作家)/ 杉本達(演出家 / TVディレクター)/ 三宅洋平(音楽家)/ 初音ミク(ボーカロイド)/ JOJO広重(ノイズミュージシャン)/ T.美川(ノイズミュージシャン)/ 笠島久嗣(イアリンジャパン)/ 齋藤精一(ライゾマティクス)/ 若林恵(WIRED編集長)/ 野田努(ele-king編集長)/ 三田格(音楽評論家 / 編集者)/ 松村正人(編集者 / 文筆家)/ 五所純子(文筆家)/ 宇川直宏(現代美術家 / DOMMUNE)
VJ / STREAMING
DOMMUNE / TYMOTE / maxilla / Yasuhiro Kobari / yasudatakahirio / ogaooooo / DOMMUNE FUKUSHIMA! / BENZENE by VMTT / NOISE ELEMENT / onom / KRAK / rokapenis / SphinkS / visual and echo japan / DOMMUNE VIDEO SYNDICATE / 宇川直宏
EXHIBITION
手塚治虫 / 手塚るみ子 / 宇川直宏
3D PROJECTION MAPPING
Rhizomatiks

タイムテーブルはコチラ!

入場方法
入場料:
エントランスフリー(ただし、入場の際に1名1000円以上の寄付をお願いしています)
入場方法1:
FREDOMMUNE0<ZERO>2013 は被災地支援の為のフリーフェスですが、入場予約申込フォームからご予約の上、来場ください。こちらからお客様の情報をご登録いただくことで、入場予約ができます。予約登録をしていただき、入場時に返信されてくるメールを見せることでご入場いただけます。
入場方法2:
音楽配信ストリーミングサイト「Music Unlimited」のメンバー全員はFREEDOMMUNEに登録予約せずに入場可能になります。当日、入場ゲートにて、会員ページを見せるだけです。

Music Unlimited

宇川直宏(うかわなおひろ)
宇川直宏

1968年生まれ、香川県出身。グラフィックデザイナー、映像作家、ミュージックビデオディレクター、VJ、文筆家、京都造形大学教授、そして“現在美術家”などなど、幅広く極めて多岐にわたる活動を行う全方位的アーティスト。2010年3月に個人で開局したライブストリーミングチャンネル「DOMMUNE」は、開局と同時に記録的なビューアー数を叩き出し、国内外で話題を呼び続ける。現在彼の職業欄には「DOMMUNE」と記載されている。2013年7月13日には千葉・幕張メッセにおいて東日本大震災被災地支援イベント「FREEDOMMUNE 0<ZERO> ONE THOUSAND 2013」を開催。