ナタリー PowerPush - FPM

ニューアルバム「FPM」発売記念 田中知之に聞く空想リミックス計画

ミュージシャンのスタジオ&脳内風景を垣間見る空想リミックス企画。前回のCORNELIUSに続いては、FPM田中知之が登場。

エレクトロミュージックの簡素化/わびさびの増長に警鐘を鳴らす、圧倒的ポテンシャルの最新作「FPM」を受け、5曲のお題をぶつけてみました。「リミックスは大喜利」と断言する、氏のクリエイター魂。その奥に巣食う狂気とは?

※選曲に関しては、Web上(のどこか)に試聴ファイルを確認できたもののみに絞っています。ぜひ一緒に聴きながらお読みください。

取材・文/江森丈晃 撮影/中西求

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「SF」も「SM」も未知のもの。だからこそ興味が持てる

──新作、すごくよかったです。音響的にも妥協がないし、なおかつしょぼいスピーカーで聴いたとしてもきちんと伝わる。さすがのFPMクオリティですね。

そこにはこだわってますね。自分の表現の中心には、いかにダンスフロアで機能するかというところへの追求があるし、「ダンスミュージックはキックの音ひとつが最高の鳴りであれば勝ち」という価値観に共感する部分もあるんだけど、もちろんそれだけじゃ満足できないし、FPMの商品としては成立しない。だからこそ、そこにメロディだったり、初期から地続きになっているラウンジーで心地よいエッセンスというのを混ぜ込んでいくわけなんですけど、かといって、ダンスミュージックとポップスの間を取り持つ仲人とか親善大使みたいに思われるのも嫌なんですよ。

──(笑)欲張り抜いてますね。

インタビュー写真

両方を諦めたくないんですよね。そういう挑戦というのは2001年の「beautiful.」ぐらいから始まっているんですけど、あれから10年近くの実験があったわけで、当然それなりの高みには達することができたという自負はあります。いまのダンストラックって、音圧だったり音域だったりがすごく凶暴でしょう? 耳にガツンとくる音ばかりが詰め込まれてて、プロのエンジニアさんだったら御法度な周波数というのが平気で使われてる。

──あえてタブーの部分を凝縮したようなトラックは多いですよね。

やっぱ若い子の初期衝動はすごいよなぁ、って思うんです。ただ、自分としては、そういうインパクトというのも認めつつ、同じぐらいエッジのあるものを、ものすごくハイエンドなサウンドで作りたいんです。音楽も音質も諦めず、なおかつ「ダンスミュージック以外の音楽と並べて聴かれたときに一蹴されることのないダンスミュージック」を作りたい。それは欲張りというよりもワガママなのかもしれないけど(笑)。

──田中さんの中にタブーというのはありますか?

タブーだと感じたものをタブーだからという理由で排除するのはタブーですね(笑)。たとえば性的なものというのは、すごく身近にあるものにもかかわらず、音楽の世界では排除されがちなものじゃないですか。だったら僕はそこに挑戦したいし、少しグロテスクに思えるぐらいのイメージを表現していきたいというのはあります。ただ、それは自分自身にアブノーマルな性癖があるとか、人には言えない猟奇性を隠しているとか、そういうことではないんですよ。

──興味はあるけど趣味はないと。

そうそう。だからこそ安心して制作できるというのはありますね。僕の考えに、「SMはSFだ」というのがあるんですけど、それはどういう意味かといえば、いくら性的なものでも、自分自身にその趣味がないものに関しては、SFと同じぐらいに未知なものであるということ。だからこそ、興味が沸いてくるんです。僕の本棚はすごいですよ。中国の王様に愛人がどれだけいたかとか、カニバリズムについての考察だとか(笑)。つまりは過剰なフィクションに映るほどのノンフィクションが好きなんですね。

確かに大ネタは危険。でも、そこで躊躇したら負けだと思う

──過剰なフィクションといえば、リードトラックの「If You Do, I Do(威風堂々)」が象徴的ですよね。世界一過激な(エドワード)エルガーのカバーバージョン。僕は、暴風雨に向かって逆走するエレクトリカルパレードの中央を半裸のトップモデルとパンクスが生クリームでベトベトになりながら転げ歩いている、みたいな絵が浮かびました(笑)。

インタビュー写真

(笑)まさにそんな感じ。これは活動15周年の記念祝典みたいな意識で完成させたんです。もともとはUNIQLOのWEBコンテンツのために制作したトラックなんですけど、それをアルバムの出囃子として再構築したんですね。「威風堂々」というのはクラシックの中でも最も有名な曲で、世界中の誰が聴いてもアガる曲。「Strings Of Life」でもここまではアガらないだろうという。

──(笑)ただ、クラシックをモチーフにした楽曲というのは、遊助が「G線上のアリア」を歌ってしまうこの時代に、危険といえば危険なコンセプトですよね。

そこは危険だからいいんですよ。危険であればあるほど、大ネタであればあるほどやりがいがある。そこで躊躇したら負けだと思いますね。「威風堂々」を徹底的に粉砕して、その上でDMCチャンプ(DJ YASA)にコスりまくってもらうぐらいじゃないと(笑)。

──攻めてますね。

はい。今まさに作り始めようとしている曲もクラシックの大ネタだし。僕、そういうアイデアは無限に沸いてくるんですよ。

ニューアルバム『FPM』 / 2009年12月23日発売 / 3000円(税込) / avex trax / AVCD-23966

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CD収録曲
  1. If You Do, I Do (威風堂々)
  2. Without You
  3. I Think
  4. Hey Ladies
  5. Can't You Feel It?
  6. Forever Mine
  7. Madness
  8. Sex
  9. Alphabet
  10. Telephone & Whiskey
  11. No Matter What Others Say
  12. Ai No Yume

アーティスト写真

FPM(えふぴーえむ)

DJ/リミキサー/音楽プロデューサー/アレンジャーとして活躍する田中知之のソロプロジェクト。1994年に田中と安田寿之による音楽ユニットとして結成され、本格的に活動を開始。1997年に小西康陽主催のレーベルよりアルバム「The Fantastic Plastic Machine」でCDデビューを果たす。このアルバム以降は、田中のソロプロジェクトとして現在まで活動。ハウスミュージックをベースに、ラテンやボサノヴァ、ジャズなどを取り入れたサウンドが人気で、日本だけでなくヨーロッパなどでも高い評価を得ている。