FNCY|ほどよく煮込まれて滋味深い2ndアルバム「FNCY BY FNCY」

ZEN-LA-ROCK、G.RINA、鎮座DOPENESSによるユニット・FNCYが2ndアルバム「FNCY BY FNCY」をリリースした。

90’sや80’sの雰囲気がベースにありつつも、“ベテランによる懐古趣味”ではない、フレッシュな音楽的アプローチの逞しさが感じられる今作。音楽ナタリーではFNCYの3人にインタビューを行い、コロナ禍前とその渦中の状況をドキュメントするように制作されたという「FNCY BY FNCY」について話を聞いた。

取材・文 / 高木“JET”晋一郎撮影 / 草場雄介

FNCYは最初から手応えしかない

──FNCYの皆さんは音楽ナタリーの特集に初登場なので、まずはFNCYの結成経緯からお話しいただけますか?

ZEN-LA-ROCK もともとRINAさんと鎮さんと僕は、僕の「GIMME DA NIGHT feat. 鎮座DOPENESS」「MOON feat. G.RINA」や、RINAさんの「想像未来 feat. 鎮座DOPENESS」、Kick a Showの「Cleopatra etc. feat. ZEN-LA-ROCK & G.Rina」みたいに、いろんな楽曲でクロスしていたんです。その流れのうえで僕の2017年のアルバム「HEAVEN」で「SEVENTH HEAVEN feat. 鎮座DOPENESS & G.RINA」を制作して。そうしたらいろんなライブにトリオで声をかけてもらうことが多くなったんです。

──多くの場合、そういった客演曲はリリースツアーの最終公演や東京公演限定など、スペシャルな形で披露されることが多いですよね。

ZEN-LA-ROCK 地方からも「ぜひ3人で」って声をかけてもらえるのはあまりない経験だったし、ライブの反応も違ったんですよね。YouTubeでも「SEVENTH HEAVEN」は圧倒的に再生回数がよかったんで、これは客演というよりも、もう3人でグループを組んだほうが面白いんじゃないかということでお誘いしました。あとツアーの移動中が楽しかったのも大きかった(笑)。

鎮座DOPENESS ZENさんの発案ですね、FNCYは。

──そして2018年に「AOI夜」でFNCYとしてデビューされました。お三方ともすでにキャリアがあるアーティストですが、一度きりのスペシャルユニットではなく、パーマネントな形でユニットを結成するのは興味深いですね。

ZEN-LA-ROCK

ZEN-LA-ROCK 年齢が近かったのも大きかったですね。大人になってからユニットを組む理由として、その部分がすごく重要だったかもしれない。

──そして2019年には1stアルバム「FNCY」がリリースされましたが、その反響や手応えは?

ZEN-LA-ROCK それなりにライブにも呼んでもらえたし、そういった部分は手応えになりましたね。ただ、リリースから半年ぐらいでコロナ禍に入ってしまったので、いろいろ大変でもありつつ。

鎮座DOPENESS けっこう年齢の近い人たちが、FNCYのフィーリングに興味を持ってくれたのはうれしかった。懐かしさだけじゃなくて、今のサウンド感をちゃんと感じるって言ってくれたり。

ZEN-LA-ROCK 当然、僕らよりも若い子も聴いてくれて。でも僕ら世代とは違う感覚で受け取ってくれるのも面白かったよね。

G.RINA そもそもFNCYには最初から手応えしかないんですよね。音楽的なチャレンジをずっと続けることができてるんで、それが手応えになっているし、単純に楽しいんです。

一緒にいるときにアイデアが生まれる

──なるほど。ちなみにFNCYでの楽曲制作はどのように進めるんでしょうか。それぞれのソロでの制作の方法論と、ユニットでの制作は変わってくると思いますが。

ZEN-LA-ROCK 今回のアルバム「FNCY BY FNCY」は、トラックメイカー / プロデューサーとしてRINAさん、grooveman Spot、BTB特効、オランダのビートメイカー・Jengiが参加してるんですが、その4人にトラックを上げてもらって、そこから始まる感じですね。

G.RINA トラックが上がってきて「これいいね」「FNCYで作りたいね」って意見が擦りあったら、そのトラックにリリックやビジョンを思い付いた人からラップや歌を乗せていくって感じですね。その内容をほかのメンバーが追いかけたりもして。

ZEN-LA-ROCK リレーっぽい作り方が多いかも。

G.RINA それとは別に、それぞれ別のトラックの制作を進めて、各々の家で吹き込んだデータを共有したり。そうやって何曲も同時進行で作っていってますね。

鎮座DOPENESS

鎮座DOPENESS 一緒にも制作するし。Ableton Liveを走らせて、ゴッパチ(SHURE SM58)握って、正座して。

──姿勢は任せますが(笑)。

G.RINA 一緒にいるときにアイデアが生まれることも多いよね。近況を話して「それって歌になるね」ってところから進んでいったり。

鎮座DOPENESS あと「FNCY HOME RADIO」(参照:FNCY HOME RADIO | YouTube)も制作のきっかけになった。

──YouTubeでの配信ですね。

ZEN-LA-ROCK 「みんなの夏」ができたのはFNCY HOME RADIOがきっかけだね。

鎮座DOPENESS ギタリストのKASHIF(PPP)くんとコウジさん(grooveman Spot)をゲストに呼んだ回があって、そこで「がっつり夏の曲を作りましょう」って話が出たのをきっかけに進んでいって。

ZEN-LA-ROCK 制作と並行してDickiesさんとのタイアップも決まったんで、そこでミュージックビデオも制作して。

いいように受け取ってくれれば最高

──改めて「みんなの夏」のMVを観ると、「来年の夏は楽しもう」といった希望を感じる内容でした。実際はよりシリアスな状況になっていますが、その意味でも今回のアルバムは普遍的な内容や音楽性を感じると同時に、コロナ禍以降のドキュメント的な意味合いも感じました。

ZEN-LA-ROCK ほうほう。

──例えば今回の冒頭を飾る「FU-TSU-U(NEW NORMAL)」は、タイトル通りコロナ禍以降のニューノーマルであったり、現在の世相を強く表しています。しかし続く「TOKYO LUV」は、昨年5月のEPリリースのタイミングは緊急事態宣言下ではあったけど、当然制作はそれ以前だから、コロナ禍を感じる部分はなくて。一方、MV自体は今年1月に公開され、防護服にも似たZEN-LAくんの衣装だったり、夜明けを感じる映像は、コロナ禍以降を見据えた雰囲気を感じさせられて。その意味でも、非常にリアルタイム性が込められた作品だと感じました。

ZEN-LA-ROCK 「TOKYO LUV」はかなりリリースから時間をおいてのMV制作だったんで。監督したスタジオ石のMr.麿(STILLICHIMIYA)は山梨在住だから、東京に来るのもちょっと渋っていて。

G.RINA それは宣言地域以外の人にとっては当然の意見だと思うし。

ZEN-LA-ROCK 確かに、コロナ禍以降がテーマになった曲は多いね。

鎮座DOPENESS 「外食が難しくなった」「新しい生活様式を考えなくちゃいけない」みたいなことは目の前の現象として存在することだし、当然それが実生活や考え方に影響を与えているのは間違いない。それが3人で話してる内容にも反映されるし、それが歌として作品にも表れたんだと思います。FNCYはみんなで一緒にやってる音楽の中に、みんなが感じている現象を残すっていう、日記みたいな要素もあるんですよね。そうすることによって現象を確認できると思うし、人生には重要なものなので、現象は。

G.RINA

G.RINA 私個人の考えとしても(コロナ禍の話題が曲に)入ってこないのはありえなかった。私たちの作品は、リアルに自分たちの身に起こってることのドキュメントとしての側面があると思うので。でも「コロナ」のような固有名詞や、具体的な状況は言葉にはしてないんですよね。書くにしても普遍的な事柄だったり、考え方につながる形で書いてるし、メッセージはコロナ以外の状況や日常ともつながってると思う。

──そうですね。今聴くからコロナ禍の状況を想起するんだけど、この状況が終わっているであろう10年後に聴けば、そのメッセージはまた違った捉え方になると思います。またソロではなく3人という“社会”があるから、メッセージ自体も普遍的になっていると思いました。「New Days」の「いつか忘れてしまうだろう」という言葉も、コロナ禍以降を想起させる部分もあると同時に、もっと普遍的な言葉にもなっていて。

G.RINA この曲は「FNCY」をリリースしてすぐくらいに作ったから、実はまったくコロナは関係ないんですよね。でも、今のコロナ禍の状況だとそういうイメージも生まれるだろうし、そういうふうにいろんな状況に置き換えて聴けるかなと思う。「CONTACT」もソーシャルディスタンスを感じるかも知れないけど、寂しい気持ちになったら誰かと触れ合いたいっていうのは自然な感情だと思うし、普遍的ですよね。

ZEN-LA-ROCK だからどう受け取ってくれてもいいし、いいように受け取ってくれれば最高って感じですね。

G.RINA FNCYはいろんな欲求に対して根源的なことをよく話すし、それが詞のテーマになってると思う。だからその時々のフィーリングや状況で刺さってくれればいいのかなって。