flumpool「A Spring Breath」インタビュー|王道と新たな一面を詰め込んだ、独立後初のアルバム (2/2)

春ならではの空気感を楽しみたい

──アルバムに「春の息吹」というコンセプトを設けたのはどうしてだったんでしょう?

山村 春は始まりや変化を感じる季節だと思うんですけど、コロナ禍になってからはそんなことを感じられないほど厳しい時間をみんな過ごしてきたじゃないですか。寒い冬の土の中でじっと耐え忍んでいるような時間だったので。でも、僕らはやっぱり春という季節に対して何かしらの変化を期待したいし、春ならではの空気感を敏感に感じ取って、それを楽しみたい。なので今回のアルバムでは、穏やかさに包まれる春を前向きに過ごすための1枚にしようと思ったんですよね。

──内容としてはまず、Billboard Liveで披露されていた「two of us」「証」「Hydrangea」「どんな未来にも愛はある」「花になれ」に、「君に届け」を加えた6編の既発曲がリアレンジバージョンで収録されています。全体のコンセプトにマッチするこの6曲は、どれもバンド初期からのセレクトになっていますね。

阪井 初期に絞って選曲をしたんですよ。そのほうがリアレンジされた変化をより楽しんでもらえると思ったので。どれを入れるかは案外スムーズに決まりましたね。

尼川 ライブでやった曲に関しては、ライブのあとにレコーディングをしたんですよ。だから演奏はすごくやりやすかったです。ライブを重ねていく中で、自分なりにベストの演奏が見えてきた部分があったので。普段はレコーディングをしたあとにライブをする流れが多いから、今後は毎回このスタイルがいいなってちょっと思いましたね(笑)。

阪井 曲が体にしっかり入った状態でレコーディングできるってことやからな。

尼川 そうそう。だから、Billboard Liveでやっていない「君に届け」とか新曲はちょっとテンションが違っているところがあるような気もする。それはそれでよさはあると思うんだけど。

──小倉さんはリアレンジされた楽曲についてどんな印象を受けましたか?

小倉 さっき一生も言った通り、今回のようなサウンドの音楽を僕もほとんど通ってきていないので、ライブをするにあたっては、まず体にしっかり入れていくところから練習した感じでしたね。ただ、アレンジは本当にどれもすごくカッコいい。杉が参加してくれたことで、今までにない雰囲気になったのがうれしいですね。気に入っているからこそ、まだそこに追い付いていない自分の演奏にもどかしさを感じちゃう部分もあるんですけど。今も引き続き、個人的にスタジオにこもって練習してます(笑)。

小倉誠司(Dr)

小倉誠司(Dr)

尼川 今回のアルバムのアレンジはどれもグルーヴが細かいんだよね。杉のクセというか。

山村 そうかもね。

阪井 やっぱWEAVER感が出るのよね。杉ちゃんはだいぶIQ高めの音楽を作ってくるんで、「いやムリやで、これは」みたいな(笑)。とは言え、それによってflumpoolとしての新しさは確実に出るので、楽しみながらレコーディングできましたけどね。ピアノに関しては杉ちゃんに委ねたほうが絶対にいいと思ったから、全部お任せしましたし。

山村 杉ちゃんは僕らのことをずっと知ってくれているし、愛してくれてもいますからね。その信頼感があったから、お任せしても不安になることは一切なかったです。参加してもらったのは大成功だったと思います。

山村隆太(Vo, G)

山村隆太(Vo, G)

自分の持っている武器を全開に

──既発曲と合わせて収録されている新曲もまた素晴らしい仕上がりで。

阪井 わ、うれしい。渾身の曲たちです(笑)。

山村 いいよな。むっちゃヘビロテしてるわ、このアルバム。車に乗ったら絶対流すもん。

阪井 一応自分の中では、ドライブするときに合うような“ドライブソング”というテーマもあったから。

──唯一、ライブで先行披露されていた「A Spring Breath」は本作の世界観を象徴する1曲と言えそうですね。

阪井 そうですね。アルバムの軸になるような曲にしたいという思いで、最初に作ったのが「A Spring Breath」でした。コーラスで始まる部分は、コンセプトでもある“春”という季節と“何かが始まる予感”みたいな部分をすごく意識しましたね。

──この曲を含め、今回はメロのよさが際立つ曲ばかりだと思います。

阪井 そこはもうド真ん中、直球勝負しました。自分の持っている武器を全開にしたというか。似たような曲が5つあってもしょうがないので、曲ごとに特色を出せるようにいろいろ考えつつ。1曲は過去曲だったりもするんですけどね。

阪井一生(G)

阪井一生(G)

──ストック曲から選ばれたものもあるんですか?

山村 「サヨナラの瞬間」がそうですね。

尼川 10年くらい前からデモがあったやつやんな。

阪井 そうそう。いつか出そうって言ってたら10年経ってたんですよ(笑)。

山村 リリースがあるたびに毎回プレゼンするんだけど、いつもハジかれてた曲(笑)。

阪井 初めてちゃう? 10年以上温めていた曲をアルバムに入れるのって。

山村 そうやな。歌詞は今回収録するにあたって新しく書き直しましたけどね。

小倉 「サヨナラの瞬間」も含め、今回の曲たちはどれもいい意味でflumpoolの王道とも言えるさわやかさがあるよね。僕はウオーキングしながらよく聴いているんですけど、気持ちのいい風を感じさせてくれる曲たちばかりだと思います。

尼川 俺も今回のアルバム、過去一で好き。

山村 俺も同じやな。

──過去の曲のリアレンジバージョンが収録され、コンセプチュアルな内容になっていることからすると、企画モノとして受け取る人もいるかもしれない。でも実際はflumpoolの“今”を色濃く詰め込んだ完全なるニューアルバムという印象が強いですよね。

尼川 そうですね。過去曲もすごく聴きやすいし、新しい雰囲気もしっかり出ているので。僕はこういうサウンド感がもともと好きなんだと思いますね。「虹の傘」(2020年リリースのアルバム「Real」の収録曲)とか「産声」(2016年リリースのアルバム「EGG」の収録曲)の流れというか。

阪井 あー、傾向としてはそうやな。

尼川 年齢もあるんかな。すごく落ち着いて楽しめる感じがあります。アコースティックコンセプトのアルバムということにとらわれず、いろんな人に聴いてもらえたらなと思いますよ。構えて聴かれてしまうともったいないなと思うくらい、いいアルバムなので。

尼川元気(B)

尼川元気(B)

阪井 尼川はレコーディングではめっちゃ苦戦してたけどな(笑)。

尼川 新曲は特にね。気持ちよさを感じる余裕がないくらいに苦戦しました(笑)。

阪井 しかも今回は宅録というチャレンジもあったし。

──あ、そうなんですか? スタジオでレコーディングしたのはなく?

阪井 歌録りとかは自分たちのスタジオで完結させたんですけど、尼川のベースはデータのやり取りだったんですよ。

尼川 本当に難しかったですね。家だとなかなか気持ちもノらんし。

阪井 そう? 家のほうがめちゃくちゃ集中できるやん。自分のギターは家で録ったけど、めっちゃ早かったで。間違えたらすぐやり直せるし。

──山村さんは今回の歌に関してどう感じていますか?

山村 サウンド的にはボーカルがより際立つものになっていると思うんですけど、アレンジがどれもいいものになったので、自然と曲に引っ張られて自分の歌がどんどん変わっていく感覚を味わえたのが面白かったですね。それぞれこんなふうに歌ってみようかなというアイデアはあったんだけど、意外と曲に身を委ねるだけで今の自分の、無理のない歌が自然と引き出された気がします。音源のレコーディングでは案外フラットな感情で歌うことが多いんですけど、今回はライブバージョンのようなエモさの出たボーカルになったのもよかったなと思っているところで。それはライブのあとにレコーディングしたのが功を奏したのかなと。どれも、これ以上ないくらいに気持ちが乗ったベストな歌になっていると思うので、自分ではめちゃめちゃ気に入ってますね。

阪井 自分たちのスタジオで録ってるからだいぶリラックスしてるしね。時間の制限もないから、途中で止めたりしてましたから。「明日またやるわ」みたいな(笑)。

山村 そうね(笑)。そういったアットホームさみたいな部分も、このアルバムにマッチしてると思う。いい流れの中で作ることができたと思います。

flumpool

flumpool

──本来であればこのアルバムを引っさげたファンクラブツアー「INTERRO SHIP ~航海するけど後悔させないアコースティックツアー~」が2月より開催予定でしたが、9月から10月にかけての開催に延期となりました。が、その前の5月からは対バンツアー「Layered Music」がスタートしますね。

小倉 順序的に逆になりましたけど、まずは今回のアルバムとは別ベクトルの対バンツアーを回る感じですね。

阪井 僕らとしては複数のアーティストを招いての対バンツアーは初。楽しみです。

山村 しかも、スガシカオさん、高橋優くん、フレデリック、sumika、Saucy Dogという豪華な面々が出演を快諾してくれて。音楽は競い合うものではないと思いますけど、でもやっぱり自分たちの好きなアーティストの新曲を聴いて「負けたくない」と思うことは正直あるんですよ。そういった意味では、今回のように素晴らしい“ライバル”たちと同じステージでライブができることは自分たちにとって大きな経験になるだろうなと思っています。毎公演、自らを鼓舞しながら臨むつもりです。

尼川 で、そのあとにはファンクラブツアーもありますからね。今年は盛りだくさんの1年になると思います。

阪井 楽曲もどんどん届けていきたいしな。ここからもがんばっていくので、楽しみにしててほしいですね。

ツアー情報

flumpool Special 対バン Tour 2022「Layered Music」

  • 2022年5月5日(木・祝) 愛知県 名古屋国際会議場 センチュリーホール
    <出演者>
    flumpool / スガシカオ
  • 2022年5月6日(金)神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール
    <出演者>
    flumpool / Saucy Dog
  • 2022年5月7日(土)神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール
    <出演者>
    flumpool / sumika
  • 2022年6月11日(土)東京都 TOKYO DOME CITY HALL
    <出演者>
    flumpool / 高橋優
  • 2022年6月12日(日)東京都 TOKYO DOME CITY HALL
    <出演者>
    flumpool / 高橋優
  • 2022年6月18日(土)大阪府 オリックス劇場
    <出演者>
    flumpool / フレデリック
  • 2022年6月19日(日)大阪府 オリックス劇場
    <出演者>
    flumpool / フレデリック

プロフィール

flumpool(フランプール)

山村隆太(Vo, G)、阪井一生(G)、尼川元気(B)、小倉誠司(Dr)の4人からなるバンド。2008年10月に配信シングル「花になれ」でメジャーデビュー。2009年にシングル「星に願いを」のヒットで注目され、10月には初の東京・日本武道館公演、年末には「NHK紅白歌合戦」への初出場を果たした。デビュー5周年を迎えた2013年10月には日本武道館で2日間にわたりスペシャルライブを行い、2014年5月に初のベストアルバム「The Best 2008-2014『MONUMENT』」を発表。2015年8月にバンド初の単独野外公演を故郷である大阪・大泉緑地で開催した。2016年3月にアルバム「EGG」を発表。2017年12月より山村が歌唱時機能性発声障害の治療に専念することを受けて約1年間活動を休止。2019年1月に活動を再開し、5月にシングル「HELP」をリリース。2022年3月にはコンセプトアルバム「A Spring Breath」をリリースした。5月から6月にかけて対バンツアー「Layered Music」を行う。