フラワーカンパニーズが約2年半ぶりとなるニューアルバム「ROLL ON 48」を完成させた。
メンバー自身が立ち上げた新レーベル、チキン・スキン・レコードからのリリースとなる本作には、結成28周年を迎えたバンドの現状を赤裸々に歌った「ハイエース」、映画「リングサイド・ストーリー」挿入歌の「キャンバス」など全11曲を収録。メンバー全員が48歳となった現在もバンド人生を転がり続ける、フラワーカンパニーズの今が生々しく刻み込まれた作品となった。
音楽ナタリーでは今作のリリースを記念して、メンバーの鈴木圭介(Vo)とグレートマエカワ(B)、そしてフラカンのファンを公言するマンガ家の福本伸行による鼎談をセッティング。切実でリアルな作品を発表し続ける2組の対話は、さまざまな方向へと行き交った。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 沼田学
フラカンの歌詞には罠がある
福本伸行 「ROLL ON 48」聴きましたよ。本当に力のあるアルバムだと思います。
鈴木圭介(Vo)・グレートマエカワ(B) ありがとうございます。
福本 野球に例えると切れ目のない打線と言うのかな。1曲目から11曲目までいい曲が、そろっているんですよね。僕も文字を操って作品を作っているので、まず歌詞が気になるのですが、鈴木さんの歌詞は技術的だなと。
鈴木 あ、そうですか?
福本 おそらく感覚だけでは書いてないんだろうなと。例えば「さみしさって幸せのルーツ」(「HAPPY!」)という歌詞なんかそう。ここにはある種の罠があると思うんだけど……。
鈴木 罠ですか? そうなのかな……いや……今、カイジみたいに頭の中で自問自答が繰り広げられてます(笑)。
福本 (笑)。罠と言うか、「これはなんだろう?」と立ち止まって考えてしまうような言葉がたくさんあるんですよ。「最後の最後の最後には 大体なんとかなるからよ」(「最後にゃなんとかなるだろう」)とかもそう。手垢の付いた言葉ではあるんだけど、深いところから発しているから、気の利いた言葉に聴こえてくるっていう。マンガのセリフを書くときもそうなんだけど、おそらく鈴木さんも「ああでもない、こうでもない」といろいろ考えていると思うんです。そのうえで「これが今の自分にとって力強い言葉なんだ」というものを出しているから、素晴らしい曲になるんですよね。
「ハイエース」をきっかけに進み始めたアルバム制作
鈴木 すごくうれしいです。そんなふうに言われたことは1度もなかったので。
福本 そうなんですか?
鈴木 はい。ずっと「直感的ですね」とか「日記のようですね」「等身大の日常をそのまま書いてますよね」と言われてきたので。自分ではいろいろ考えて書いてるつもりだったから、技術的だと言ってもらえるのは本当にうれしいですね。
福本 いやいや、すごいと思いますよ。鈴木さんはご自身のことを歌にするでしょ? でも、ずっと聴いていると、聞き手がまるで、自分のことを、歌ってくれてるかのように感じられるんです。それは普遍性があるということだと思うんですよ。今回のアルバムで言うと「人生Roll On」の「後悔の連なりが 人間の深みじゃないか」とかね。その後「そうだろ?どうだろ」と続くところはズルイんだけど(笑)。
鈴木 曖昧にしてますからね(笑)。
福本 曖昧だけど、正しいんです。俺もマンガの登場人物に「人生とは」「勝負とは」「人間とは」みたいなことを言わせるけど、本当のことは誰にもわからないじゃないですか。そういうことを含めて、真実の一片をスッとすくい上げてくれるんですよね、フラカンの歌は。
マエカワ ありがたいですね。そんなふうに言ってもらえると。
鈴木 そうだね。ただ、僕はギリギリまで歌詞が書けないほうなんですよ。普段は歌詞のことなんてまったく考えてなくて、締め切りが決まってから作業に入るんだけど、作り出す状態になるまでに時間がかかるんです。
福本 なかなか頭が創作のモードにならない。
鈴木 そうです。いつも土壇場になると出てくるんですけど、今回のアルバムは普段以上に時間がかかってしまって、本当にギリギリだったんですよ。そんな中、1曲でも「いいのができた」と思えるものがあれば気持ちが楽になるんですよね。「これがあるから、ほかはハズしても大丈夫だ」と思ってテンションが上がってくるし、そのおかげでどんどん書ける。今回のアルバムに関して言えば「ハイエース」がそうでした。ああいう曲ができると「この曲に4番を任せられる」という気持ちになれて、レコーディングも乗っていくんですよ。
移動はいまだにハイエース
福本 「ハイエース」、すごくいいですよね。この曲についても聞きたいことがいくつかあるんですけど。まず、皆さんの移動はいまだにハイエースなんですか?
マエカワ はい。沖縄と奄美大島以外はほぼハイエースで移動してますね。
福本 マジですか!?
マエカワ そうなんですよ(笑)。フェスなんかで移動が難しいときは飛行機を使うこともありますけど、基本的にはハイエースです。
鈴木 ライブが終わって、夜中走って、朝の4時くらいに次のライブ会場に着くこともありますから。
マエカワ そうね。この前もお盆の時期に盛岡まで行って……。
福本 竹原ピストルと一緒にやったライブ(「汗と涙のフラカン2デイズ」)ですよね? 「ハイエース」には「事故がないことを祈りながら」という歌詞がありますけど、これは「ほかの車が事故して渋滞するのがイヤだ」ということなのか、「自分たちの車が事故しませんように」ということなのか?
鈴木 どっちもですね。
マエカワ 自分たちの事故はもちろん、渋滞もイヤですからね。運転している人も乗っている人もストレスが溜まるので。最高7人乗ってることもあるから。
福本 7人乗って、楽器は積めるんですか?
マエカワ はい。楽器と物販も積んでます。
福本 すごいですね。車の中の描写に「インクと湿布と老いた動物の匂い」というフレーズがありますけど、「老いた動物」はマエカワさんのことですか?(笑)
マエカワ まあ、そうですね(笑)。
福本 (笑)。それは冗談として、「ハイエース」は現在進行形の歌なんですね。ミュージシャンってキャリアを重ねて偉くなると、「今はそんな暮らしをしてないはずだ」って思われがちじゃないですか。「ハイエース」を聴いて「昔を思い出して作ったのかな」と思う人もいるんじゃないかな。
マエカワ それはあるでしょうね。実際「今も車で移動してるんですか?」って驚かれることもあるので。
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「深夜高速」から10年以上経った今の本音
- フラワーカンパニーズ「ROLL ON 48」
- 2017年9月6日発売 / チキン・スキン・レコード
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[CD]
3000円 / XQNG-1001
- 収録曲
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- ピースフル
- 人生Roll On
- ハイエース
- てのひら
- NO YOUNG
- 花のようでした
- HAPPY!
- あまくない
- キャンバス
- 最後にゃなんとかなるだろう
- あなたはだぁれ?
- フラワーカンパニーズ
- 1989年4月に鈴木圭介(Vo)、グレートマエカワ(B)、竹安堅一(G)、ミスター小西(Dr)の4人により名古屋で結成されたロックバンド。地元・名古屋を拠点とした精力的なライブ活動を経て、1994年に上京。1995年にアルバム「フラカンのフェイクでいこう」でメジャーデビューを果たす。以後、2000年までに6枚のフルアルバム、1枚のミニアルバム、12枚のシングルを発表。翌2001年にメジャーレーベルを離れ、活動の場をインディーズに移す。その後も「発熱の男」「東京タワー」「世田谷夜明け前」「脳内百景」といった名作を連発。特に2004年に発表されたシングル「深夜高速」は、ファンのみならず多くのロックファンから愛され続けている。2008年11月、7年8カ月ぶりにメジャー復帰。バンド結成20周年を迎えた2009年には「深夜高速」をさまざまなアーティストがカバーしたコンピレーションアルバム「深夜高速 -生きててよかったの集い-」のリリースや、11年ぶりの日比谷野外大音楽堂ワンマンライブなどで注目を集めた。2010年1月には結成20周年を記念した初のオールタイムベストアルバム「フラカン入門」を発表。同年3月発売のシングル「元少年の歌」は映画「誘拐ラプソディー」の主題歌に起用され話題となった。その後2013年に「ハッピーエンド」、2015年に「Stayin' Alive」とオリジナルアルバムをリリース。同年12月19日、結成26年目にして自身初となる日本武道館公演「フラカンの日本武道館 ~生きててよかった、そんな夜はココだ!~」を開催。当日券含めて完売、大成功を収めた。2017年6月に自主レーベル「チキン・スキン・レコード」を立ち上げると、9月にレーベル第1弾作品となるアルバム「ROLL ON 48」を発表した。
- 福本伸行(フクモトノブユキ)
- 1958年12月10日神奈川県生まれ。1979年月刊少年チャンピオン(秋田書店)にて「よろしく純情大将」でデビュー。1982年に投稿作「ワニの初恋」で第9回ちばてつや賞大賞を受賞、翌年も大賞を受賞した。1989年近代麻雀ゴールド(竹書房)にて「天」を連載開始。以降、1992年にアクションピザッツ(双葉社)で「銀と金」、近代麻雀(竹書房)では「アカギ~闇に降り立った天才~」を開始した。ギャンブラーたちの命を賭けての心理戦が読者から絶賛を受ける。1996年週刊ヤングマガジン(講談社)にて「賭博黙示録カイジ」を連載開始。創作ギャンブルの目新しさと、金で運命を狂わせる男たちを描きヒット作に。同作は1998年に講談社漫画賞を受賞し、2007年にアニメ化され2008年には実写映画化。他にも「アカギ」が2005年にアニメ化、2015年にドラマ化。「銀と金」は1993年にVシネマ化、2017年ドラマ化された。2007年、週刊少年マガジン(講談社)にて「賭博覇王伝 零」を連載開始。 現在は週刊ヤングマガジンにて「賭博堕天録カイジ ワン・ポーカー編」、ビッグコミックオリジナルにて「新黒沢 最強伝説」、近代麻雀にて「アカギ~闇に降り立った天才~」を連載中。